72.恐怖、天道虫男1
「残念だが小僧、貴様も運が無かったな。こんな女と知り合ったばかりに人生を終えることになろうとはなっ」
「ふ、はは、あははははっ、それは俺の台詞だ天道虫男。折角の怪人だったのに正義の味方と闘うことすら出来ずにここでくたばる事になろうとはな。怪人としての矜持すら果たせず散るがいいッ」
「なっ!? 貴様、まるで悪役のようなセリフで返すんじゃないっ!? こっちが悪の秘密結社だぞ!?」
ちょ、今のは別に悪人の台詞じゃないだろ!?
「と、とにかく、スレイリアは俺が確保した。お前らには渡さないってことだ」
「ふん、ガキの蛮勇か。いいだろう。己の無力を味わいながら死ぬがいいっ」
「ハナコさん、テケテケさん、稲荷さん、戦闘開始お願いしますっ」
「『『よし来たッ!』』」
待ってましたと動きだす三人。
ポケットから飛び出した稲荷さんが巨大化して子供大へと変化する。
テケテケさんが実体化し、ハナコさんが鬼火を作りだして戦闘員たちに攻撃を開始した。
「なんだと!?」
「ケケケケケケッ、怪人の下半身頂きぃっ」
いきなり怪人へと切りかかるテケテケさん。ぎりぎりで気付いた天道虫男が慌てて飛び上がり下腹部を薙ぎ払う一撃を避ける。
「あ、あぶなっ。なんだこいつは!? 下半身の無い、女だと!?」
「烈風鎌鼬」
『どんどん行くわよー、鬼火連打ーっ』
「シャーっ」
あ、ツチノコさんどさくさまぎれて戦闘員に噛みついちゃだめだよ、ほら、スレイリアの護衛お願い。
俺は戦闘員を蹴りながらレーザー銃でテケテケさんの援護だ。
「遠距離攻撃だと!? ええい、小癪な外道少年め!」
二つ名に指定してない外道少年が何でこんなに出番あるんだよ!?
まさかコイツ、勝手に二つ名に選択されてねぇだろうな?
そういえばステータス最近確認してなかったな、もしかして……
この戦闘終わったら即行確認せねば。外道少年、どうにか消さないと。
レーザーを撃ちながらヤクザキックで戦闘員を撃破する。
一匹取り逃して焦ったモノの、ハナコさんの鬼火に直撃して倒れてくれたのでスレイリアに被害は無かった。
「ケケケケケッ」
「クソ、攻撃が当たらないっ!?」
攻撃してくるタイミングで非実体化してるからなぁテケテケさん。
実体状態と幽霊状態使い分けてるのかなり卑怯臭いよね?
でも十分戦いに応用できてるのはテケテケさんの天性の戦術勘の御蔭みたいだから、スキルの一つと思えば問題はなさそうだと思う。
もしかしたらそのうちナーフされるかもだけど。
「ケケッ」
両腕を使った跳躍で飛翔した天道虫男に向って飛び上がったテケテケさんが鎌を振るう。
ぎりぎりで避けた天道虫男の尻あたりから黄色い液体が噴出した。
『ひえっ、汚いっ!?』
「なっ、何を言う、これは天道虫が出す敵を撃退する液だっ。糞尿ではないからなっ」
「いやー、それでもさすがに溶解液は喰らいたくないわね」
テケテケさんの言葉通り、黄色い液体がアスファルトに触れた瞬間、アスファルトがジュゥと音を立てて溶けだした。
「そりゃあお気の毒だな。こいつは、連射可能だぜッ」
『きゃぁぁぁ!? 変質者ーっ』
「変質者は貴様だろうが!? ハラワタ引き回しながら腕で駆けて来る生物なんぞ変質者以外の何者でもないだろうがっ」
テケテケさんは変質者だったのか!?
「ちょっと、こんな可愛いおねーさん捕まえておいて変質者はないでしょーっ。もー怒った。下半身だけじゃなくその首も狩ってやるわ!」
「狩れるモノならば狩ってみるがいいっ」
テケテケさんが怪人を相手してくれている間。稲荷さんとハナコさんは戦闘員たちの撃滅に尽力していた。
俺とツチノコさんは逆にスレイリアの警護だ。
とはいえ四人でも結構ぎりぎりというか、ちょっと押され気味だ。
さすがに数が多過ぎる。
せめてもう一人くらい……
「ぬっふっふっふっふ。マネージャーさん、もう一人忘れちゃいませんかー?」
「あ、ディーネさんっ!」
そうだった。ディーネさんがいるじゃん。普通に水の中に引っ込んでたから存在忘れてた。なんて言えない。
「さぁさぁディーネのウォーターライブの始まりよーっ」
水筒から飛び出したディーネさんが人型が形作られ、さらにアスファルトに設置されていたマンホールが次々に弾け飛び、真下から水が噴出する。
地下水!? なるほど、ディーネさんの操る水、どうやって確保するかと思えば、現代世界を模したこの世界では下水道が張り巡らされてるんだから何処でも水使い放題って事じゃないか。
「ふっはははは。マネージャーさん誇りなさい。ディーネをテイムした貴方の幸運を!」
噴出した水が精霊の力を得てうねりはじめる。
無数の戦闘員達に向って襲いかかり、水圧で押し流し地面に引き倒し、引きずり回す。
おお、一気に戦闘員が消えていくぞ!? 精霊強ぇーっ。




