719.泥船乗ってアイドルデビュー3
「えとー、よろしくお願いします?」
落日オシムがおずおずと会話に参加してくる。
うーん。いや、素材はそこまで悪くないんだ。
でも髪型が80年代アイドルだろ。服はボディコン風味だろ。
なんだ、この売れ残りました感しかない取り残されたアイドルは?
「まず決定的に服と髪型変えるべきだな。あとオシムさんの歌いたい、というか売り出したい希望があれば今のうちに聞いとこう。案内人君、何か今までで気になるとこある?」
「いえ、アイドル自体僕はあまりかかわりがないのでなんとも……」
「じゃあせっかくだしちょろっと調べてきなよ。明日調べて来たもの突き合わせて相談しようぜ」
「わかりました。今日はこれ以上何かします?」
「おっさんとアイドル活動について煮詰めるくらいかな」
「じゃあ早速、ログアウトしてきますね」
いうが早いか、おっさんに仮眠室を借り受けログアウトしていく案内人君。真面目だねぇ。
「しかしヒロキ君、アイドルというがどういった路線で打ち出すつもりだい?」
「うん、とりあえずディーネさんは単体で。ルルルルーアさんもソロでいいかな? ハナコさんとアカズさん、稲荷さん、なのさん、りんりん、レイレイはオシムさんのフォローでチーム組んで出てみない? それから散紅さんはレムさんと二人でデビューしてみようか」
「ちょ、デビューとか聞いてない!?」
「アイドルやるあるか!?」
「なのっ!?」
「いやま基本オシムさんメインの五人組ユニット、で行こうかと思ったんだけどな。ハナコさんメインで行くべきなんだけど、ハナコさんはオシムさんのフォローしたいみたいだし」
『あら、言ってないのによくわかったわね』
「さすがハナコストーカー。ハナコお姉様、こいつゼッタイストーカー気質ですよ」
『まぁ、知ってる』
苦笑しながら答えるハナコさん。俺の性格を分かってくれているようで嬉しく思う。
「んで。どうかなおっさん?」
「悪くはないな。じゃあ次はオシム君のバージョンアップか?」
「そっすね。オシムさん、どういうアイドルやりたいです?」
「え? えーっと人気が出るなら、なんでも?」
まず酷い隈を何とかすべきだよな。
「じゃあ明日も来ますんで、それまでしっかり寝てください」
「えぇ!? ソシャゲの更新時間が0時以降なのに!?」
「あんたアイドル舐めてんのか!?」
ダメだこの人。アイドルなのに美容よりゲーム取ってるよ!
「こんな具合で彼女、顔がアイドル向きじゃなくなってきていてね。それに伴い出られる活動が徐々に減っていってるんだ」
「マジかよ……」
あー、そのソシャゲの終了時間は?
あ、っそう。一時間程度なのね。なんでその後ぼーっとしてる時間とかあるのかね。
それが寝不足の原因だろ。
ソシャゲ終わったらすぐ寝るように、守らないと強制的にやんぞ。
「とりあえず髪型や服装に関しては明日に回しましょう。ステージ衣装はこっちで用意します。明日はオシムさんの買い出しですね。何か仕事入ってたりは?」
「ここ一週間はないかな」
ダメだ、落ち目のアイドルだ。落日寸前だよ。惜しんでる暇ないよオシムさん。
「名前、変えません?」
「え? ダメですか落日オシム。結構気に入ってるんですけど」
「せめて日ノ出ノゾミ位には変えときません? なんかそのまま沈みそうだし。会社の泥船も、せめて普通の船とかの名前に変えませんか?」
「うーむ、いい名前だと思ったんだけどなぁ?」
おっさんもオシムさんもまとめて頭おかしいんじゃないか?
「ですよね、僕もそう思ったんで何度も変えるように言ったんですよ。二人とも聞きゃしないんです」
マネージャー君は常識人らしい。うん、頼るべき存在はおそらく彼だな、押しには弱そうだから変な仕事取ってこないようにして貰わないといけないけど。
多分だけど、アイドルが売れ始めるとこいつが変な依頼押し付けられてアイドル潰しに一役買うはずだ。それまでは頼れるマネージャーとして扱えると思っていいだろうけど。
「じゃあ明日は準備期間で明後日から本格始動、でいいですか?」
「こっちは問題無し」
「事務所側も問題無しだ。判、押すぞ」
悪魔の契約書におっさんが判を押す。
効力を発揮した悪魔の契約書が二つに分かれた。
一方は俺が保管。もう一方は事務所側の保管用である。
「契約、成立だ」
「これからよろしく、秘密結社泥船さん」
「誰が秘密結社だ! ウチはれっきとしたアイドル事務所だからな!」
互いに軽口叩いて握手を交わす。
これで、俺たちのデビュー会社が決まった。
当初の予定通り、予知で手に入れた目的の場所になんとかねじ込むことができた。
あとは、成り上がるだけである。
アイドルに関してはほぼ素人だからな。明日迄は一旦ログアウトして案内人君見習ってアイドル活動に関して知識広めておくかな。
 




