714.廃図書館4
「走れ!」
勇者ブレイドが開いた血路向け、皆が走り出す。
あ、サユキさんが散った。
普段から運動してないからっ。
歪み狭まりプレイヤーたちを圧し潰そうとする廃図書館を駆け抜ける。
そうだ。相手の土俵で戦う必要など一切ない。
先制攻撃、徹底して相手を倒せば勝ちなのだ。
よし、サユキさん頼んだとおりに死亡と同時にダークマターまき散らしたな。
彼女自身に調理した物体Xをめいっぱい服の中に詰め込んどくようお願いしておいたのだ。
本人も逃げるのはもう無理と悟っていたようで、快く受け入れてくれた。
おかげで、サユキさんを捕食した廃図書館はついでに私を食べてスキルによる劇物もまた吸収し尽くしてしまったのだ。
おーおー、体内側からでものた打ち回ってるのがわかるぜ。
へへ、ざまぁ。
おかげで体内を圧し潰す時間もゆったりになってやがる。
だから走れば十分、奴が隠したかった場所へと駆けこめる。
「ブレイド!」
「任せろ! ブレイブ・ブラスターッ」
相手が動き出すより早く、こちらがこじ開ける。
そう、俺たちの土俵で戦えばいいのだ。
律儀に生贄を与える必要はない。
皆で直線的に、奴の心臓部向けて駆け抜ければそれでいい。
「コトリさん!」
「呪連砲!」
おっと、さすがにコトリさんの一撃は想定外か? 一気に道が開けたな。
だけどその分相手の抵抗も激しくなる。
背後からだけでなく側面、あるいは前面を覆い尽くさんと廃図書館が押し寄せる。
「任せろダーリン!」
迫って来た本棚を纏めてティリティさんがブラックホールで削り飛ばす。
「道、開く!」
アイネさんが亜光速突撃で前方の通路を閉じようとした壁たちを弾き飛ばす。
「ギーァ!」
射出されてきた本のエネミーを超振動ブレードでギーァが切り裂き、エルエさんがガトリングを迸らせて打ち落とす。
「次、行くわ七色収束矢」
迫って来ていた背後の通路をローリィさんが魔法で爆散させる。
「行くっす! 宿敵穿つ聖なる刃!」
ルースさんがダメ押しのブリューナク。
対軍奥義が前方一帯を破壊し尽くす。
そしてむき出しになったソレが俺たちの前に現れた。
透明な球体に収まった一冊の本。
台座は肉の塊で出来ており、部屋の壁はすべて脈打ち必死の抵抗を行っているように見える。
「アイネさん、行けるか?」
「まかせて!」
俺たちの中で多分一番素早いアイネさんが突撃。
薄い膜をぶち抜き、内部の本を奪取する。
帰って来たアイネさんから受け取った本は即座にアイテムボックスへ。
えーっと手に入れた本は……『オキマーの啓二書』?
「ああん? 何でそんなもんがここにあるんだ?」
「というか、ソレ廃図書館の心臓部では? ほら、なんかすごい勢いでしおれ始めてる」
「というかですね、この廃図書館、本当に廃図書館ですか? 擬態してるなんかよくわからない生物なだけだったのでは?」
「擬態ねぇ。なんだ、コレ、ミミックみたいなもんか?」
俺の言葉に唸る面々。皆これが何かは理解できないらしい。
萎れていく廃図書館の天井が降って来たのでもう一度ブレイドにバスターを撃ってもらう。
おー、よかったよかった日の目が見れたわ。
「短時間なのに濃ゆい体験だった……」
「ヒロキさんと一緒に行動するとこういうのに巻き込まれるのか。さすがにちょっと、今までの体験と違いすぎて処理が追い付きません」
「凄すぎて最初から最後まで何もできなかったの……」
「ヒロキ初心者はこれだから」
ちょ、芽里さん、なんだそのヒロキ初心者って。
「ここが廃図書館になったのはさっきのが内部の生物全て食ってしまったから、だろうな」
「あの巨大ミミックみたいなのが死んだことで本来の廃図書館が姿を現したな」
「偽廃図書館に食べられたみたいでほとんど残ってないですよ。建物が立ってただろう残骸枠組みだけ残ってますね。後、本が数冊」
「それ、多分ドロップアイテム扱いよ。四冊しか出てないからプレイヤー用ね」
「マジか」
「僕これだけ表紙の表示があります」
「なのはこれなの」
「なるほど、個人用のドロップですか。ヒロキさんのはそれ、でいいですか?」
「みたいだな。俺だけ二つ貰ったみたいになってるけどいいのかね。えーっと。何だこの本?」
題名、アガスティアの葉、とか書かれている。
これってあれか?
いや、でも、さすがにアレは違うだろ。
過去、現在、未来に至るまで俺のこと書かれてる書物のことを差すらしいけど、本当にこれが葉っぱなのか? というか、廃図書館に何でこんなもんが用意されてるんだ?
ということは、他のメンバーに関しても未来日記みたいなものを貰ったと思っていいのかもしれない。
倒した相手を考えれば十分な報酬ではあるけれど。




