70.白衣の少女
「くっ、バレてしまっては仕方無い。悪いな少年。君には死んでもら……」
「リーッ」
「いかん、追手が!? ど、どうすれば……」
「とりあえずこっちだ」
懐から何かを取り出そうとした少女だったが、近くで聞こえた声に気付いて慌てだす。
あれはほぼ確実に戦闘員の声だな。
別に相対して倒してしまってもいいんだけど、また怪人がやってきたら面倒だ。
と、いうことで少女の手を強引に掴んで走りだす。
よし、手を繋いだだけで垢バンはなかった。まぁこの位ならラッキースケベの御蔭で大丈夫だとは思ってたけどな。
「あ、おい!?」
驚く少女を無視して走りだすと、少女も仕方なく走りだす。
幸いアルセーヌ戦闘員は街中までは追って来ないようだ。御蔭で逃げ切る事が出来たらしい。
そのまま未知なるモノさんたちと落ち合ったことのあるファミレスへとやってくる。
とりあえずコーラを頼んで、彼女に何にするか尋ねると、メロンソーダを頼みやがった。他のならともかくここのメロンソーダ、コーラの倍位の値段するんだけど。まぁいい奢ってやるか。
白衣少女はバツの悪そうな顔をしながら俺を見つめることしばし。
メロンソーダが来ると、ストロー使ってチューッと飲み干し幸せそうな顔をする。
なんという幸福感しかない笑顔なんだ。見てるだけでこちらも幸せな気持になって来る。
しばしぽーっと見てると、はっと気付いた。ち、違うよハナコさん。俺は別に浮気してる訳じゃ無くて可愛らしい女の子は父親的感覚で見てしまっているというだけでして。
『なんか飲んでる姿可愛いわね。雛鳥みたい』
ですよねーっ!
ほっこりしますよね。賛成っす。
おいおいテケテケさん、なんだいその白けた視線は?
「ふぅ。久しぶりだなジュースを飲んだのは。うむんまいっ」
「そりゃ良かったけど、結局君はどういう状況?」
「そ、それは……」
笑顔から一転、わたわたし始めた少女に溜息一つ。
「実を言えばあそこにいたのは偶然じゃない。もともとはアルセーヌの潜伏場所を探りに来てたんだ。なので秘密にする必要ないぞ」
「なんと!?」
驚いた少女は顎に手を当て考え始める。
正義側かとか考えてんだろうか?
残念だけどそういうのじゃないんだよなぁ。まぁ知り合いはいるけども。
「一つ、聞かせてほしい」
「なんだろう?」
「正義の味方に属するものか?」
「知り合いには居るけど違うかな? どちらかといえば中庸?」
「そうか……ならば、まぁよいか」
ふぅっと息を吐き、少女は一息にメロンソーダを飲みほした。炭酸一気だと!? やりおる。
「実は……けぷっ」
あー、炭酸一気飲みするから。
「ちょ、ま、待って。ぐぇっぷ。ち、ちが、今のは、気のせ、げぇぷ」
滅茶苦茶恥ずかしそうにするなら一気飲みしなけりゃよかったじゃん。
しばし口元を押さえる少女がけぷけぷ言い始める。
そして落ち着いた頃、改めて少女は話しだす。
「お前の推測しているだろう通りだ。我は秘密結社アルセーヌの怪人開発局に所属するドクターだ。こんななりをしているが年は100を越える。元の肉体は捨てて拉致して来た少女に記憶を移しているのだよ。少女に関しては非道とかいうなよ? すでに彼女は死んでいるから我が記憶を消しても戻せはせんぞ?」
「俺が出会った状態の君は君だ。その点について俺から何かいうことはないよ」
とりあえずマッドサイエンティストな奴だってことはわかった。
今は女の子、そこが一番重要だ。それ以外は瑣末なことなのだよ。
テケテケさん、だからその白い目はなんとかなりませんかね? あああ、ハナコさんまで!?
「怪人は攫った人間を使って改造して作る。今回作り上げた蜘蛛男は我が最高傑作だった。ゆえにわざわざ今回、起死回生の作戦に我が怪人をねじ込んだのだが、まさか一人の民間人すら攫えずに怪人が爆散するという大失態。責任を取らされて死ねと言われたので逃げだした訳だ」
「そりゃ災難だなぁ」
俺らも蜘蛛男撃破に関わったこと、言えないなぁ。黙っとこう。
『さすが外道少年』
テケテケさんうっさい。
「んで、これからどうすんの?」
「そ、それは……」
「とりあえず休める場所は?」
「……ない」
「これからの目標は?」
「ない」
「やることは?」
「アルセーヌに見付からないよう逃げる事、だな」
胸元で腕を組んで困った顔をする少女。前途多難だなぁ。
「あー、一応聞いておくけど、ウチ、来るか?」
うわ、やりやがったこいつ。って顔をするテケテケさん。
弱みに付け込んで少女拉致とか違うからね。俺はただ善意で宿のない少女に宿を提供するだけで。ちょっとハナコさん何処に連絡しようとしてるの? 警察? 待って、事案じゃない、事案じゃないよ、ほら、こいつ合法ロリらしいし、100歳超えらしいし。




