702.運営さん本気出す
「いいか、皆!」
ほのぼの日常オンライン運営チームは今、未曽有の危機を迎えていた。
エンドコンテンツの一つとして、設置していたイベントが急に第四回イベントに格下げになったのである。
敵となるドールたちのレベルを下げないと今のプレイヤー相手では勝負にならない。
何しろサ終専用イベントだ。
敵の能力値は極限近いし、絶対的防御のオンパレード。
しぶとい上に放置しすぎると増える、増えすぎるとゲーム世界食い荒らし始める。食われすぎると世界崩壊でサービス終了一直線。
味方のレベルはほぼ999で、武器や防具、スキルで底上げしてようやく勝負になるエネミーたちである。
いくらヌグ=ソスたちの援護があるとはいえ、今のレベルでも250程度。レベルも足りなければ武具のランクも低い、さらにはスキルも弱いと言えるだろう。
こんな状態でエンドコンテンツを相手取るなど無謀も甚だしい。
そこで運営が行うのはプレイヤーたちとドールたちの総力値をほぼ互角にまで落とす作業だ。
正直ばらつきのあるプレイヤーのちょうどよい総力値を持つ敵など出来上がるのか疑問でしかないが、強すぎればサ終確定、弱すぎれば第三イベントの方が楽しかったとプレイヤーからの非難轟々である。
能力調整はまさに紙一重。運営達の匙加減でプレイヤーの頑張り次第で勝てるくらいの実力にしなければならないのだ。
「とはいえ、データはあるからな」
「問題はゾンビアタック有りにするかどうか。それによって難易度がかなり変わるよな?」
「さすがに飲み込まれたらアバター消滅はクレームしかこないよなぁ」
「やるなよ。絶対やるなよ? フリじゃねぇからな!」
「そういわれると組み込みたくなるんだよなぁ」
「でも、実際飲まれたら大ペナルティくらいは必要だろ」
「サ終用だったから飲まれたらアバター消滅設定だったよな?」
「どうせ終わりだし徹底的なヤバキャラ作ろうって皆で悪ふざけしちまったんだぜドール」
「俺絶対防御付けちゃったよ、貫通とかダメージ無効になる奴。無敵貫通じゃないとダメージ通らないやつ」
「すぐ剥がせ!」
「いや、一部は残そう、歯ごたえあった方がいい。ヒロキ君との激闘見ただろ。プレイヤー側は無敵に見えてある程度攻略可能そうな相手には予想外の手を使って倒してくる。それに今回ヒロキ君がプレイヤー側だ。生半可なドールだと瞬殺だぞ」
「あー、調整難しいっ!」
「ヒロキが絶対ゲームバランス壊すだろ。後、なんだ、協力してくる味方キャラはトンカラトンとヌグ=ソス確定だよな。他は?」
「ヒロキのことだし、変な知り合い連れてきそうな気がするんだが」
「トルネンブラ人とか手伝いそうじゃない?」
「ヒロキのことだしメカニカルベアたちの群れ絶対だすよな?」
「またアラクネ装飾店とか助っ人参戦させるつもりか?」
「ファラオや鬼も今回ので楽しんだだろうから次も参加する可能性はあるな」
「AIの参戦まで考えて敵のレベル変えないといけないのか、なんかもうこのまま出しても勝てるんじゃね?」
「さすがにレベル差以外にもいろいろと差があり過ぎて普通に詰む。せっかく軌道に乗り始めたほのぼの日常オンラインをここで終わらせるわけにはいかんだろ。というか、何でこんなイベント作ったんだよ!」
「皆最後はド派手に行こうぜって、ラストエピソードより先にエンドコンテンツに力入れてたじゃん」
「そうなんだよねー。ドールの数も軍団対軍団を想定して万を超すようにしてるし、一部ドールはでっかいし、なんでこんなドール作ったの!?」
「作りたかったからに決まってんだろ!!」
作った本人は血走った目で叫ぶ。
彼にとっては巨大ドールは夢ともいえる。
巨女ではなく、巨人ではなく、あえて異形の巨大生物。
これは大ボス。
夢のラスボス。
しかしさすがに凍結すべきか。
エネミー担当が悔しい思いを浮かべつつ、エンドコンテンツ最強の生物を封印することにした。
さすがにこれを送り込むのは無謀な気がしたからだ。
そうだ。これは最終エンドコンテンツ用に残そう。
レベルも弄ることなく、時の彼方に封印してしまおう。
いつかきっと、本当の意味で終わりを迎えるその時に……
「僕のアルファちゃん。さよならっ」
最後のエンターキーを押し、最強のボスを闇に葬り去る。
エネミー担当に見送られ、最強のドールだけは弱化処理を受けることなく、ゲーム内の最奥に、厳重に封印されることとなったのであった。
最愛のエネミーに敬礼と涙目浮かべて見送った彼は、他のドールたちのステータスを弱化処理し始める。
「室長、シナリオ確認お願いします!」
「室長、このバグどうします? 置いておいても問題なさそうなんですが?」
「室長、CGちらつき処理終わりました確認お願いします」
「室長!」
「ええい、まとめて言うな!? 一つ一つ回るから本気で待ってぇ!!」
各々室長の最終確認許可を待ち、来る第四イベントへ向けエンドコンテンツ、ドール襲来を手直ししていくのであった。




