700.第三回イベント、後夜祭7
「招待、感謝」
ヌグ=ソスが数人、俺に招待されてステージ裏にやって来ていた。
もうそろそろ運営の用意したイベントが終る。
そこで、急遽ヌグ=ソスさんたちからプレイヤーへの話があるとかで、ステージを空けて貰うことにしたのだ。
もともと優秀なプレイヤーたちに個人的に会うだけのつもりだった彼らだったのだが、どうせ会うならここのステージで目的告げたらいいんじゃね? と相談してみた結果、確かにそうだな、と納得したヌグ=ソスさんたちがビンゴゲーム終了を機にステージへと現れることになったのである。
皆、ビンゴゲーム終了後に急遽挟まったらしいイベントにざわついている。
さらに段上に出てきた生物に驚きの声をあげていた。
「ヤディスの人だ。最後の最後で戦っただけだけど、ここにも来てくれたんだな」
「改めて見ると凄い容姿だよな。さすが外の神関連」
「意外とチャーミングじゃない? 私ヌグ=ソスのぬいぐるみ欲しいかも」
「嘘でしょ!?」
壇上に上がったヌグ=ソスの代表に、運営の一人がマイクを手渡す。
ヌグ=ソスはマイクをしばし見つめ、どういう道具かを把握すると、すぐにスイッチを入れて話し出す。
さすが発明に関して最先端を行く者たちだ。見たこともない道具でも少し見回せば使い方を理解するらしい。
「プレイヤーの皆、我々に時間を取っていただきたい。我々は貴方たちに願いたい」
話し出したヌグ=ソスに、プレイヤーのざわつきが止まる。
どうやら皆話を聞くことにしたようだ。
出店を回っていたプレイヤーたちも、何かを察したようで次第集まってくる。
「我々の故郷は滅んだ。ヤディスを滅ぼした者たちは、ドールと呼ばれている。ドールはまもなく、この地球を食らいにくる。手伝ってほしい。第二の故郷まで失いたくない。ドール討伐に、力を貸してほしい」
またでたドール。人形、のことじゃないんだよな。
あのあとヤディスとドールに関して調べてみたけど、巨大な虫の名前らしい。
「奴らはドリームランドを通って地球にやってくる。光を嫌うが弱くはない。星を完全征服するまでは暗闇を好むのだ。奴らは殲滅せねばならない、この星を守るために、皆の力を貸してほしい」
「おい、これもしかして次のイベントじゃね?」
「第四回イベントか?」
「全員対ドール、熱い展開がまたあるのか?」
「今度はコトリさんたちと共闘とかだったら胸熱だよな」
なんか次のイベントと勘違いしてるぞ、運営さんどうす……川島さん?
「ふ。ふふ、ヒロキ君、あれね……」
今にも倒れそうな顔で、川島さんがステージ裏からヌグ=ソスを指さす。
「あれね、エンドコンテンツ」
「はい?」
「だからね、ほのぼの日常オンラインがある程度遊ばれ尽くして、もうそろそろサ終かな、ってくらいの時に行うためのエンドコンテンツ。断じて始まって数カ月もしない今の段階で出てきちゃダメなイベントなんだよね、なんだよねぇ!! なんでかなぁ!!」
「あらー」
言われてみりゃそうだよな。ドールは惑星食らい。プレイヤー側の敗北イコールほのぼの日常オンライン世界の崩壊を意味する。
そりゃ確かにエンドコンテンツだ。
人数少なすぎて負けたらそのままサ終にできるし、勝ったら勝ったで気持ち良くサ終ができるだろう。
つまりいつでも使えるイベントとして隠していた本編エンディング、があるかどうかわからないけど、その後に使う予定のエンドコンテンツだったようだ。
しかし、本来出会うことがないはずのヌグ=ソスたちと仲良くなった俺のせいでイベントに呼ばれてしまい。衆目の目に曝された。
そしてヌグ=ソスたちは一定以上のプレイヤーたちにその姿を知られたことで、イベントを発動してしまったのである。
「十分に育ったプレイヤーを対象にしてたからこのまま元のレベルに戻したら大変なことになる……ど、どうしたら」
「もう、レベルは皆このイベント後のレベルのままでいいんじゃないすか? じゃないとドールとの闘いは不可能だろ?」
「そ、そうだよね! そうだよね?」
「あと、エンドコンテンツとはいえ、ここまで進んじまったらもう第四回イベントにねじ込んじまってエンドコンテンツはまた考えればいいんじゃないかな?」
「そ、そうだよね! そうだよね?」
あ、これ川島さん聞こえてないな。
すでに意識が俺の傍から離れてしまっているようだ。
今の川島さんはそうだよね! そうだよね? しか言えない状態になっているらしい。
「運営さん状況見えてる?」
―― ああ、見えてるよ。ヒロキ君、とりあえず君の提案通り、第四回イベントにねじ込もう。あとプレイヤーレベルも据え置きにするしかなさそうだ。イベント終了後に元に戻すことは宣言してなかったからむしろナイスというべきかもだけど…… ――
「まぁ、運営方法に関しては俺はノータッチで」
あまり巻き込まれると俺の胃にも優しくなさそうなので、きっぱり俺は運営側ではありません、と告げておくことにした。




