69.向う先は
「とりあえず、目下の目標は峠とトンネル、廃病院と墓場かな?」
「そういえばヒロキ、聞かれなかったから言ってなかったけど、あの秘密結社どーすんの?」
ん? ハナコさんどういう……あ。
やっべ、ハナコさんに戦闘員に付いて行って貰うようお願いしたの忘れてた。
「あ、えーっと、秘密結社ね、秘密結社。もしかして、場所分かったの?」
「……忘れてたな」
「すんませんっした!!」
白い目で見られた瞬間、土下座スキルをセットしての綺麗な土下座を披露する。
「はぁ、まぁいいけど。一応秘密結社アルセーヌだっけ、あれの場所見付けたわよ。いつ聞かれるか待ってたんだけど山に向ったり神社向ったりで全然聞いてくる気配なかったから忘れてるだろうとは思ったわよ」
どうやら信頼を無くしたというよりはしょうがないなぁって感じのようだ。
ちょっと安心した。
好感度が下がってテイムされたくないとか言われたら自殺するしか無かったよ。
しかし、秘密結社かぁ。さすがに一人で向って大丈夫か不安だなぁ。
怪人が一杯居るんだろ?
とりあえず入口だけ確認して、イベント終了後に何人か集めて突撃してみるかな。
キカンダーさんは多分必須だろうし。マイネさんに呼んで貰おう。
「それじゃあ、折角だし秘密結社の入口確認して、お寺に行こうか」
「そう、なら案内するわね」
俺らは一度教会を選択して街へと繰り出す。
商店街やら別の選択肢から向うより見覚えのある土地を経由した方が向いやすいからだ。
教会には入らず怪人たちが襲撃して来た地点へと向う。
『それじゃ、こっちね』
ふよふよと漂うように宙を移動するハナコさんを先頭に、俺達は歩きだす。
行き交う人の数人がなんだなんだ? とこちらを振り向いてくる。おそらくプレイヤーさんだろう。
結構多いな。皆授業はどうした?
「な、なにかしら、凄く目立ってる気がするわ!? ま、まさか、ディーネの美貌に魅了されちゃった!?」
ある意味正解だろう。
恐らくディーネさんの姿が珍しいから気になって二度見したりしてるんだ。
何しろ無色透明の水が女の子の形取って空中浮遊してるんだもんな。
なんかディーネさんがアイドルだから皆ファンになった、みたいな勘違いしはじめて手を振りだした。
皆あっけに取られていたのを魅了してしまったと勘違いしたディーネさんは物凄く上機嫌だ。
うん、真相については黙っとこう。
「だいぶ人が少なくなったなぁ」
「裏路地歩いてるからねぇ」
「ヒロキよ。カラスが居るぞ」
ノンアクティブだから放置しよう。
下手に刺激して群れに襲われたら大変だし、今回はカラス討伐じゃなくて秘密結社の入り口確認だから。
カラスは放置してさらに奥へ。
空気が、変わった?
あきらかに今までの雑多な街から外れた感覚を覚える。
ここから先は本当に命の保証が出来ないような、そんな感覚。
やがて、入り組んだ路地裏を歩き続けたその先に、袋小路が現れた。
ようするに行き止まりである。
「ここね。私が見た時はあそこに階段があったんだけど……」
戦闘員じゃないと入れないとかかな?
とりあえず近くまで近寄って周囲を見回す。
監視カメラみたいなのもないな。
俺らの姿、見られてないのか? さすがにそれはないか。
確認できたし、次に行こうか、と踵を返そうとしたときだった。
カシュッと変な音がして地面が動く。
現れた地下階段から飛び出すように現れた金髪のソレは、あろうことか無防備な俺の腹向けてロケットの如く突撃して来たのである。
「ごふっ!?」
「はにゅっ」
巻き込まれた俺は地面に倒れ、重量物がさらに倒れて来る。
「うー、いたた。なんだぁ? 折角逃げられたと思ったのに、まさか先回り……誰?」
頭を上げたことで相手の顔が見えるようになった。
金髪の幼い少女。年の頃は俺と同じくらいか。つまり小学生くらいの容姿である。
服はなぜか白衣で、しかもぶかぶかだった。
「そちらこそ、誰?」
「っ!? それどころではないっ、急がねばっ。一般人だろう、お前も離れるぞ、急げっ」
え? え? どゆこと!?
どうやら再び突発イベントが起こったようだ。
女の子押し倒されるというラッキースケベが発動してたけど、とりあえず無視することにして、訳が分からないまま、ここに残る訳にも行かず少女に促されるままに彼女の手を取り走りだす。
いつの間にかテケテケさんが霊体化して、稲荷さんが胸ポケットに逃げ、ディーネさんが本体? の水入り瓶に引っ込み、ツチノコさんが背中に飛び込みくすぐったい。
ともかく、全員がその存在を隠していた。
ゆえに、少女はここにいるのが俺だけだと勘違いしたようだ。
「全く、なぜ子供がこんな場所にいるのだね?」
走りながら尋ねられたので、少し考えて話を返す。
「道に迷ったんだ」
「迷ってあんな場所まで良く来たものだ。ここいらは人攫いや殺人狂が出入りしている危険地帯だぞ。ガキが近づいて良い場所ではないのだ」
「君も背丈的には変わらないようだけど?」
「我はよいのであるっ。」
喋り方独特だし我儘だ。
出来れば付き合いたくないタイプの人間かも。
「ふぅ、表通りに出れたか。一安心だな」
額をぬぐう真似をして少女は安堵の息を吐く。
「で、何があったの?」
「うむ、我が作った蜘蛛男がキカンダーにあっさりやられたからお前の責任だと処刑されそうに……聞いちゃった?」
「そりゃ、普通に喋られたら……」
どうやら見掛けによらずチョロインさんのようだ。




