684.第三回イベント、二十一日目ラストバトル8
「亀裂が入った!」
「マジかよ! アレ倒せるのか!?」
どの属性魔法も物理攻撃も効いてない。
ダイルンバー君の撃破をプレイヤーたちは早々に諦めていた。
しかし、案内人の作戦により、その常識が覆る。
「マイネさん!」
「任せなさい! スキル重複発動。腕力強化、筋力増強、全力投球、大暴投。案内人君、命中任せた!」
周囲からのバフに加えて自分自身の投擲スキルをありったけ強化して、マイネはマンホールを振り投げる。
空へと飛翔する鉄の塊に、案内人もまた、自身のスキルを上乗せた。
「数多のモノよ、此へ集え!!」
明後日の方へと大暴投されたマンホールが、ダイルンバー君へと軌道を変える。
その軌道の先にあったのは、ダイルンバー君の体の中でも、ちょうど亀裂が入った個所を貫く軌道。
ヒロキが慌てて円盤を打ち落とそうとするものの、レーザーを食らった程度でマンホールの軌道は変わらない。
まさに案内人に導かれ、凶悪な力を秘めた破壊の象徴がダイルンバー君へと襲い掛かった。
亀裂に突き刺さり、そのまま丸鋸のごとく切り裂きながら内部へと食い込んでいく。
「いっけえぇぇぇぇ――――っ!!」
火花が飛び散り、ダイルンバー君の半ばまで入り込んだマンホールが止まる。
停止したマンホールに落胆が漏れるが、そこで十分だったのだ。
火花を迸らせダイルンバー君が墜落する。
煙を噴き上げ、まるで死の直前のように明滅を繰り返す。
「あ、やば」
ヒロキはいち早く気付き、近くに来ていたバイク乗車中のトンカラトンを盾に隠れる。
次の瞬間、光が部屋に溢れかえった。
周囲の音が消え去り、一瞬の静寂。
爆音と共に爆風が生まれ、ダイルンバー君が爆散する。
当然、周囲を吹き飛ばし、地面を陥没させ、天井を吹き飛ばす。
光に消えたプレイヤーとトンカラトンを壁へと追いやり、爆炎が吹き荒れる。
そしてしばし、死屍累々となった瓦礫の山から、一人の男が立ち上がる。
「……うぅ、どうなった……?」
案内人がよろめきながら起き上がる。
どうやら彼は未知なるモノがとっさに守ってくれたらしい。
倒れたままの未知なるモノをどかし、立ち上がると、一瞬前までの謁見の間が廃墟へと変化していた。
部屋は爆心地を中心に未だ熱の揺らぎが発生しており、周囲を焼く音がジュウゥと聞こえている。
爆心地近くのプレイヤーもトンカラトンも光と化して消えていき、爆心地から離れるほどに原型が残っている状況だった。
壁の方にも折り重なるように倒れたプレイヤーとトンカラトン。
唯一バイクに乗っていたトンカラトンとヒロキはバイクを盾にしたおかげでダメージは少ないらしい。
「おいヒロキ、テメェやりやがったな!」
「い、いやいや、見てたっしょトンカラトンさん、アレ変な壊し方したのあいつらですから!」
二人が仲間割れしているようだが本当に殺し合いまでは発展しそうにない。
残念ながらトンカラトンがプレイヤー側に回ることはないらしい。
ただ、充分過ぎるダメージは与えた。
残りのトンカラトンも三体くらい。
それも皆が死にかけだ。
「こっちも死に体だけどな!」
「マイネさんここ最近やらかす度合い増えてね?」
「森焼き打ちに味方諸共大爆発かよ」
「ちょ、ちょっと私のせいじゃないわよ!? ……ないわよね?」
若干不安だったらしく、起き上がり際に案内人に尋ねるマイネ。
当然ながら爆炎にあぶられボロボロだ。
「うぅ、ひでぇめにあった。マイネさんよ、ちょっとはっちゃけすぎじゃね?」
「だから、私のせいじゃないってば!」
「やっぱマイネさんのせいじゃねぇか!」
「マイネさんの造り出した爆風で死ねたなら会長も本望でしょう」
「だから私のせいじゃないってばぁ!?」
「皆さん、落ち着いて! トンカラトンさんは動けるくらいに無事なのが三体、他のトンカラトンはほぼ致命傷です。落ち着いて対処してください!」
「一気に優勢に傾いたな。あとはヒロキと本家トンカラトンだけか」
プレイヤー側にも被害は出たが、ダイルンバー君撃破にトンカラトン大量撃破の勲功と比べれば、死に戻るだけの被害なので問題はない。
むしろ称賛に値する一撃だったともいえる。
「そ、そもそもダイルンバー君に当てたのは私じゃなく案内人君なんだからダイルンバー君倒したのも案内人君でしょ! だからダイルンバー大爆発事件の首謀者は私じゃなく案内人君だってばぁ!」
「まだ言ってるよ」
「大丈夫、俺らはわかってるって」
「マイネさんが作った好機、俺らが潰すわけにゃいかねぇぞ! 時間はまだ一時間はある、一気に倒すぞヒロキンを!!」
「うげ! さすがにこの状況で手をこまねいてるわけにはいかないか」
プレイヤーたちがふら付きながらも立ち上がり、ヒロキへと向けて殺到しそうな様子を受けて、ヒロキも不味いと理解した。
「んじゃま奥の手切らせて貰うぜ! 助っ人、おなしゃーず!!」
腕に嵌めた時計のような何かを掲げ、ヒロキが叫ぶ。
そして……彼らは盟約に従い現れる。




