67.河童と稲荷とお相撲さん
「おそらくだけど。あの場はユニコーンの憩いの場だったんでしょ。そこに入ってきた人間が自分を殺しに来た訳でもなく、自分の姿を見ても取り乱して襲いかかって来たりしなかったから、良い人間だと認識されたみたいね。気に入られたのかどうかはわからないけど、角くれたってことはそれなりに気に入られたってことでしょ」
多分幸運の御蔭だろう。
テケテケさんの言葉に頷きながら石段を登る。
幽霊の群れが相変わらず結界周りに屯っているけど、今回はテケテケさんが居るので正面突破である。ハナコさんは神社には入れないのでタマモさんに回収されてアイドル業務へと戻って行った。
「はい、到着」
「おおぅ精霊王様がおわすところみたいに神聖ね。ああっ! 凄い、聖水だわ。聖水があるわよマネージャー」
それは手水用の水だよディーネさん。
俺が止める間もなく手洗い場へと向ったディーネさんが水に飛び込み遊びだした。
うん、放置で。帰りに忘れてなければ回収しておこう。
「もう一回! もう一回ッ!!」
んで。境内のある場所へと向うと、丁度広場の一角で狐たちに囲まれて、ネネコさんが土下座していらっしゃった。
呆れた顔の稲荷さんが溜息を吐いており。こちらに気付いて助けを求める視線を向ける。
「結果は?」
「見ての通り、儂の勝ちじゃ。そも、人であろうが物の怪であろうが神に勝てる訳が無かろ? ヤコブでもあるまいしのぅ」
ヤコブって誰だっけ? まぁいいや。それよりも、勝ったのならネネコさんテイム可能ってことになるけどどうなんだろ?
「えーっとネネコさん、テイムしてもいいんですかね?」
「あー、そういえばそんなこと言っとっただな。でも、おらまだ満足できねぇだ。もう一度、もう一度勝負してけろっ」
「んー、じゃあ稲荷さんともう一勝負したら仲間になってくれます?」
「おいヒロキ、儂の意見は!?」
「テイムならほら、これでええだろ」
―― 祢々子河童が仲間になりたそうにしている。テイムしますか? ――
YESで。
―― 祢々子河童をテイムした! ――
「よし、やるだ!」
「はぁ、後一回じゃぞ」
棒で地面に書いた土俵に向う稲荷さんとネネコさん。
はっけよーいとテケテケさんが告げ、のこった、の声で二人が激突する。
おー、相撲だ。ネネコさんの胸がぶるんぶるん震えて、これはヤバいのでは!?
「勝者、上手投げで稲荷さん」
ワザ名とか知らんがな。テケテケさんよく知ってたなぁ。
「がぁぁ、なんでだーっ!?」
地面に倒れたネネコさんが叫ぶ。
「河童の中でも十分強いようじゃのぅ。ヒロキがやっとったら確実に負けとったわ」
「もう一回、もう一回頼むだぁっ」
「ええい、何度やれば気が済むんじゃ!? 既に十回目じゃぞ」
あ、そんなにやってたんだ。良く付き合ってあげたなぁ稲荷さん。
「やだぁー、相撲するのぉ。相撲したい相撲したい、相撲したぁいっ」
なんかだだっ子みたいにその場で両手両足じたばたさせて暴れ出したんだけど……
良い大人が何してんの?
「うーむ、さすがにもう相撲したくはないのぅ」
主代われ、と稲荷さんが僕に視線向けてくるけど無理だからね。
うーんどうにかならないかなぁ。このまま何度も相撲したところでネネコさんが勝たないと終わりそうにないし。
「その意気やッ良し!」
へ? 何だ今のおっさん声……ってぇ!? あんた誰ぇ!?
謎の声に振り向けば、半裸にマワシだけを身に着けた太ったおっさん、いや、これ相撲取りだ。力士さんだよ、めっちゃくちゃデカいし腕や足は太ってるというより丸太のような筋肉で出来てるおっさんだ。顔に妙な隈取り? が描かれてるから歌舞伎の人かもしれないけど、力士体型だ。
「あんた誰?」
「名乗る程でもないただの力士よ。ここで相撲がしたいという強き思いに引かれやってきたのだ。しかし、まさか河童の雌が出した思いだったとはな」
力士さんはガハハと笑い、なぜか土俵に向う。
相撲したい想いに引かれてやってくるって意味不明なんですが?
「そこの河童娘。ワシでよけりゃぁ相手してやろう」
「ほんとかっ」
めっちゃ元気に立ち上がった!?
そして走り寄っておっさんに対面したネネコさんは、腰を落として戦闘態勢。
まじっすか。
「んじゃー、はっけよーい、のこったぁー」
棒読みでテケテケさんが告げると、二人ががっぷりよっつに組む。
汗臭そうなおっさんと河童だけど美少女のネネコさんがぶつかり合うとなんだろうこの寝取られ感?
「がはは、すばらしい突撃だ。力もよいし、ワシのマワシを取ろうとする技術もよい。しかし……隙だらけだな」
「勝者、内無双で力士さん」
すっげ、流れるような一撃で気付いたらネネコさんが地面に転がってた。
「おっさんすげー」
「がはは、相撲でワシが負ける訳ねーだろ。そこの稲荷神は乗り気じゃなかったみてぇだが、ワシはいくらでも相手してやるぞ」
「ほんとけ!?」
あー、これ長くなりそう。というか、多分ずっとやってるな。肝試しには間に合いそうもないや。
「えーっとおっさん、名前分からんから鑑定していいか?」
「やめんか。そんなに力士呼びしたくないならタヂさんとでも呼んでくれ」
「はぁ。まぁいいけど、んじゃ。タヂさん、俺ら帰りますんで」
「おーぅ、河童娘は満足したらお前の家に届けるぞーヒロキ」
……なんで名前知ってんの? 恐っ!?




