664.第三回イベント、十九日目執念怨念呪物之矜持10
「早く回収するんだ!」
「ヤバい、鷹になった!?」
「あと二つ。他の奴がまた出てるぞ!」
「回収した先から別の場所にリンフォンが!」
戦場は阿鼻叫喚だった。
10個のリンフォンが自動展開されて高速で組み上がっていく。
回収こそ可能だが回収した先から別のリンフォンがランダムに現れ再び組まれ出す。
コトリさん自身もえげつない。
呪状態のために人型を保たず黒い靄になっている。
物理攻撃も無効のため他のスキルで攻撃しないとダメージが当たらず、防御力と攻撃力の差によってどんな必殺ダメージも1しか食らわない。
スリップダメージと防御無効、貫通攻撃などでそれなりのダメージは与えられるものの、確殺は無効化され、サイレンスで封印しておかないと回復魔法まで使ってくる。触れればHPなどを吸収され、女性陣子供陣は特攻が入ってしまいコトリさんの呪殺確率が跳ね上がる。
さらにコトリバコが周囲に展開されているので徐々にプレイヤー全員に呪いが蝕んでおり、本人からは呪殺術や亡者の腕などが絶えずプレイヤーに襲い掛かってくるのだ。
もはや気を抜いた者から死に戻るえげつない弾幕ボスである。
それだけでも辛いのに、周囲ではコトリさんが生み出した魔物たちが跳梁跋扈し、ニャルラトホテプたちやエルダーリッチによってもプレイヤーが死に戻っている。
正直、ここがラストバトルと言われても納得の激戦地である。
「ぬっははは、楽しいなぁ、コトリさん!」
「殺殺殺……」
もう、コトリさんから返答はない。
囁くように呟くように、殺という言葉か呪という言葉しか返ってこない。
まさにコトリさんの本体とも呼べる呪詛の塊だ。
イベント中に限りヒロキとの繋がりすら断たれたコトリバコはいまや暴走していると言ってもおかしくはない。
「ヤバい! 呪怨胎災入った!」
「失楽園来ちまうぞ! 全滅しちまう!?」
「リンフォンが完成する方が先だろ、クソあと一つ!」
「こっちは回収! 次回収に動くわよ!」
「死力を尽くせぇ、半分切ったぞ!」
正直、プレイヤーたちもどれだけダメージ与えたか、等もはやどうでもよかった。
ともかく必死にコトリさん撃破を目指す。それだけなのだ。
「来た失楽園! 暗黒太陽襲って来るぞ!」
「何が来るかわかってりゃ何とでもできんだよ!!」
一人のプレイヤーが襲い掛かる呪いの塊向けて爆心地で剣を構える。
「見せてやる、これが俺の……パリィだあぁぁぁ!!」
「ええい奥の手切ればいいんでしょ、もっと黙っとくつもりだったのにぃ!」
「はは、こりゃ無茶振りだよ、無茶なんだけどなぁ……」
一部プレイヤーは爆心地に単身躍り出て、己の隠しスキルを発動させていく。
幾人ものプレイヤーが逃げ遅れ、失楽園の一撃で大量に死に戻る、かと、思いきや。
隠しスキルを発動させた幾人かの働きにより、落ちて来た呪いの一撃をパリィし、あるいは弾き、消失させ、他のプレイヤーたちの死に戻りを防いでいく。
「嘘だろお前!? パリィできんのかよ!?」
「我、心眼の先を見つめし者、なんってな」
「このリフレクター使えんじゃん、はは、とっておきの一個使っちゃったよぅ」
「あー、クソ。等価交換でここまで消されんのか、後頼んだぞー」
「さすがに魔力全放出は無謀か……でも半分消失させたったぜ」
一部プレイヤーにより、免れた他プレイヤーたちが部隊を再編制。
残っていたエルダーリッチやニャルラトホテプへの攻撃を再開する。
「生きてる? 死霊使い君、こっちはそのまま続けンぜぃ」
「アンデッドティリティさん強ぇ……俺らこの人に良く勝てたな」
「てか未知なるモノさんの口から怪光線、失楽園の一撃消し飛ばしてたんだけど……」
「意外と俺らでも回避可能なスキル持ち、いるんだなぁ、化け物ばっかだ」
「ほら、ぼーっとしてないでコトリさん撃破に向けて攻撃続けようぜ」
リンフォン回収部隊、エルダーリッチ再生阻止部隊。ニャルラトホテプ殲滅部隊、異世界生物迎撃部隊。コトリバコ破壊部隊。そしてコトリさん撃破部隊。
六つに部隊を分けながら、プレイヤーたちは必死に自分たちの役割をこなしていく。
正直、激戦以上に無茶な戦いで、何度だって死に戻る。
そのたびにスタート地点からここまで全力疾走で駆け抜け、再び参戦しては死に戻る。
どれほど繰り返しただろう?
何度死地を味わっただろう?
制限時間さえなければ、あるいは彼らもここまで必死にならなかったかもしれない。
「残り時間は!」
「1分だ!」
「コトリさんの体力は!?」
「1ドット!」
誰も彼もが死力を尽くし、誰も彼もが諦めなかった。
何度死のうとも戦場を駆け抜け、死ぬ一瞬前まで攻撃の手を休めない。
そんなプレイヤーたちの意地が、コトリさんを追い詰めた。
最初は無謀だと諦めそうになった彼らの頑張りが、ついに、ついに……
―― リンフォンが、発動しました ――
コトリさんの体力尽きるその刹那、タイムアップのダイアログが出るより早く。
世界を地獄が、染め上げた。




