663.第三回イベント、十九日目執念怨念呪物之矜持9
ソレに名はない。
ただ、あらゆる呪いが集まったモノを解放する。
それだけのスキルだ。
その場全て、世界全てに呪が満ちる。
ゆえに名はない。
必要もなく名付ける意味もなく、ただ別の何かと区別をするためだけに、呪とだけ、呼ばれるナニカであった。
その場にいたプレイヤー全てが呪いを受ける。
「あ、すっげぇ体が重い!?」
「デバフやべぇ、なんだこの重圧」
「敵の動きは変わらないのに……」
「しまったエルダーリッチが!?」
プレイヤーの動きが鈍ったことで再生中のエルダーリッチを再撃破することができなくなり、エルダーリッチが自由になった。
さらにプレイヤーへの不利益は他にも。
今までは十分に対処できていた異世界生物やニャルラトホテプたちにも、呪いによるデバフが原因で敗北者が出始める。
必死に抗うプレイヤーたちだが、徐々に死に戻りが増えていく。
だが、彼らもそれで終わりという訳ではない。
当然、援軍が来る。
死に戻っていたプレイヤー、ティリティさんと激戦を繰り広げ、生き残ったプレイヤー。それに、ディーネさんや稲荷さんとの戦いで生還したプレイヤーたちが徐々にコトリさんステージへとやって来たのである。
「未知なるモノさん!」
「案内人君、よく耐えた!」
「現状はどんな感じ!? コトリさん撃破手伝うわよ」
プレイヤーたちも主要人物勢ぞろいでそれぞれ役割分担を決めて各敵たちを撃破しに向かう。
「もうあとはコトリさんとルルルルーアさんだけだ。一気に倒すぞ。今日中にコトリさんを撃破する!」
「でも向こうもブチ切れモードなんだけど!?」
「こういうのはな、冷静さを失った方が負けるもんさ」
「それゲームや漫画の話だろ!?」
「安心しろ、割合ダメージ持ちもこっちにきた。ここからダメージが一気に増えるぜ」
プレイヤーたちの会話の通り、数人の貫通持ちや防御無効、割合ダメージスキルを持ったプレイヤーたちが攻撃を始めると、コトリさんのHPが目に見えて減り始めた。
あとは時間内にどれだけ削れるか。
久世になったコトリさんのHPはかなり高いが、時間さえかければ削れないことはない。
問題は、すでに半分を切ってしまった時間制限。
このままの被ダメ速度ではコトリさんは時間内に倒せない。
昼からの20日目を半分切るくらいの時間でようやく、といったところだろう。
すると残った一日半のイベントでルルルルーアさんを撃破して、ヒロキまで撃破しなければプレイヤーの勝利はないということになる。
「クソ、このままじゃ勝てはするけど次に続かねぇ!」
「問題はダメージが通るメンバーが率先して狙われるせいでいいようにダメージを与えきれないってことだよな。他の奴は1ダメージしか当たらんし」
「何かいい方法はないものか……」
「1ダメージでも連続で与えられればいいんだが。さすがに……」
「待って。連続で……そっか! コトリさん相手だし効かないと思って使ってなかったけど! これならどう!」
一人のプレイヤーがコトリさんへと切り込む。
呪状態のコトリさんにはほぼ実体はないのだが、中心地に黒い靄のような人型が揺蕩っているので、ソレを切り裂いた形だ。
「っし、一発で入った!」
それはプレイヤーたちが無意識のうちに使っていなかった付与スキル。
コトリさんに猛毒が付与される。
「うぇ!? 猛毒付与できるのかよ!?」
「多分耐性はかなり高いわ。でも私のスキルヴェノプバイパーは毒物の付与を100%増やすのよ」
「スリップダメージなら確かに効果あるか!」
「燃焼は無駄っぽいぞ!」
「凍結も麻痺も効かない」
「抵抗値が高すぎてレジストされてるだけだ。付与率増やせ!」
「そんなスキル持ってねぇよ!?」
「おお、猛毒スキルで少しずつだけど減って……緩やかですな」
「HP多いからなぁ。猛毒っても割合じゃないみたいだし」
「それでも今までより減りが速い。後はダメージ与えてる奴の死に戻りからここに戻るまでの時間を短縮できれば今日中にやれるかも?」
「おい、それよりもコトリさんにサイレンス掛けろ! 回復魔法使われたら目も当てられんぞ!」
「そういやそれがあった!」
慌てて沈黙魔法を掛けるプレイヤーたち。
しかしなかなかかからない。
もしかしてコトリさんにはかからないのでは? 皆が不安を覚え始めた時だった。
コトリさんから声が消えた。
サイレンス魔法が通ったのだ。
確率はおそらく1%未満。
それでも何十何百と掛けられれば一回くらいは掛かるものである。
「よし、後は撃破を目指すぞ!」
「おい、何だあれ!? リンフォンが宙に」
プレイヤーたちをあざ笑うように、十ものリンフォンが空中に浮かび上がる。
それぞれ独立して独りでに組み上がり始め、一分もかからずクマへと至る。
「不味い、あれを止めろ!」
「触れれば回収できる。急げ!」
しかし、回収した先から別の場所に現れリンフォンがカシャカシャと組まれ始める。
プレイヤーたちはさらに回収部隊を組織してリンフォン回収に当たらせるしかなかった。




