655.第三回イベント、十九日目狐と精霊の輪舞7
「未知なるモノさん!?」
ディーネさんと相対していたプレイヤーの一部が気付いた。
まさかの救世主登場である。
「俺の名を呼んでたけど、なんかあったか?」
「あったも何も、見てくれよ。ディーネさんが湧水ある限り死なないからって森を焼き討ちした女がいたんですよ」
「女は黙って?」
「今そういうギャグはいらんから。んで、未知なるモノさん、ディーネさん攻略に何かいい知恵くださいな」
「ああん? あー、水源から止めちまえば、いや、むしろ水源汚しちまうのが一番かな。要は水源が精霊の眷属になってるから永遠出てくんだろ。精霊が棲めない澱んだ水にしちまえば復活出来なくなんだろ」
「その水源がさー、アレよ」
「アレはただの地下水脈から出てきた奴だろ。辿ってけよ。ほれ、ちょうど死に戻って来た人面犬貸してやっから……って死んでたらもう出てこないよな。お前なんでここにいんの?」
「あんさんいきなり首根っこ掴んどいて扱い酷ない? そんなもんアミノサンが死に戻ったから逃げてきたんやないか」
胸を張って言うことではない。
しかし、水の匂いを嗅ぐことで探索できるなら人面犬程的確な存在はいない、はずである。
「よし、人面犬さん。俺と水源探しに行くぞ」
「えー、おいちゃん美人のねーちゃんと一緒がいい」
「うるせぇクソジジイ、オヤジ狩りすっぞゴルァ」
「オヤジに大して酷い扱いやないか!? なぁ、みちなるなんとかはん、これ犯罪やない?」
「犬に人権はないんだ。諦めろ」
「人面犬差別や!?」
ぶつくさ言いながら水源探しに向かう人面犬とプレイヤーの一部。さすがに一人だけでは危険だと見たらしく数パーティーが参加したらしい。
「んで、ディーネさんはアレ止めねぇの?」
「止める必要はないかなぁ。まず水源見つけるのが大変だし、ガーディアン優秀だし、泉を汚す方法あるか疑問だし」
「なるほど」
「んで、未知なるモノさんは私と戦う?」
「あー、残念だが俺より適任が来ちまったぞ」
適任? とディーネさんが未知なるモノの視線の先へと目を向けると、そこにはアイドル衣装を身にまとった緑の肌を持つ生物。
マイクを持った姿はあまりにも滑稽で、筋骨隆々のアイドル系ゴブリン、ゴブリアがのしのしとディーネさんへと向かってくるところであった。
「さぁディーネさん、私のテイムキャラ、ゴブリアと勝負しろ!」
「えー、不死身の私に勝てるとでもー?」
「勝負内容は、アイドル! どちらがより客を引き寄せる歌声を披露できるか。ゴブリアが勝ったらおとなしく敗北認めて散ってください!」
「な、なんですって!? この私にアイドル勝負!? くぅぅ、この勝負、絶対に断れない!?」
水の精霊ではあるが、彼女はアイドル志望であった。
未だマネージャーであるヒロキがアイドル事務所に応募すらしていないのでアイドルには成れていないが、気持ちは既に歌って踊れる皆のアイドルなのである。
それがアイドル人気勝負を嗾けられてしまったら、断れるわけがなかった。
「ちょうどおあつらえ向きにステージもあるわ、あそこで勝負しようじゃない!」
「あー、熱くなってるとこ悪いんだけどさ、ゴブリアさん、歌えんの?」
「何言ってるんですか! ゴブリアはプロのアイドルっすよ! なんちゃってアイドルのディーネさんと違ってこっちは既にデビュー済みなのよ!!」
「がはっ!?」
プレイヤーの素朴な疑問にテイムマスターの少女は衝撃の事実を暴露する。
当然の如く未だにプロに成れていないディーネさんは心を鋭くえぐられた。
「お、落ち着け、落ち着くのよ私。相手はゴブリン。プロだと言えどゴブリンよ。ここで勝ったら私はプロを倒したアマチュア。そう、箔付けに最適だわ。アイドルデビューしたらまさしく期待の新人なのよ!」
自己完結で納得し、アイテムボックスから取り出したマイクを握る。
「いいわ! その条件で戦ってあげる!」
「って、おいディーネ! そっちの勝負は受けるなとヒロキに言われておっただろ!?」
「あー、稲荷さんよ、もう満足か?」
「え、いや、まだまだもう一回じゃ! 今度こそ行けそうな気がするんじゃ!!」
ディーネさんを止めようとした稲荷さんだったが、だぬの言葉に慌てて虫相撲へと意識を戻す。
結果、稲荷さんもディーネさんも戦闘そっちのけの勝負を行い始めてしまったのである。
「ディーネさん、勝負内容の確認するわ」
「いいわよ、勝敗条件は何?」
「勝負内容は一曲勝負、歌って踊って一曲終わったらゴブリアに交代。ゴブリアも一曲歌って、その歓声の多さで勝負を決めましょう」
「へぇ、まるで歓声の多さが段違いで勝てるって言われてるみたいで屈辱的だわ。いいわ、それで勝負してあげる!」
「こちらが勝利した場合はディーネさんの敗北宣言と共にイベントからの撤退、つまり死亡を要求するわ」
「だったら、こっちが勝利した場合はゴブリアの事務所からアイドルデビューさせて貰いましょうか」
「いいわ。私からマネージャーや社長に直談判してあげる」
契約、成立ね。
二人は軽く握手する。
勝負内容は決まった。勝てば手に入るモノ、負ければ失うものも確定した。
あとは、歌うのみ!
 




