650.第三回イベント、十九日目外なる暗黒物質祭り5
両腕を形状変化したティリティさんが走り出す。
そのHPはまだ半分以上残っていた。
どうやらだいぶHPを偽装されていたらしい。
「お次は肉弾戦ってわけね! 上等よ!」
「こっちは擬態でいきなり味方殺しされてストレス溜まってんのよ!」
「行くわよあんたたち、男共しっかり後続いて来いよっ」
怒り心頭の女性プレイヤーたちに付き従う様に男性プレイヤーたちがティリティさんに殺到する。
両腕の鋭い武器を振るうティリティさん、なかなか懐には入れそうになく。
近づいたプレイヤーたちが次々に切り裂かれていく。
くるくると踊るようなティリティさん。鼻歌まで歌って楽しそうにプレイヤーを駆逐する。
鼻歌で歌っているのは少し前にイベント後夜祭でハナコさんたちが歌っていた歌のようだ。
いつまでも聞いていたい気もするプレイヤーたちだが、ぼぉっとしていればティリティさんに切り刻まれて死に戻る。
さすがに死に戻ると歌が聞けないので必死に抵抗するのだが、そうするとやはり攻撃を弾くのに集中してしまい歌を楽しむ余裕がなくなる。
「くっそぉぉぉ。ティリティさん、それ後夜祭に歌ってくれよぉ!」
「えー、どーしよっかなー。我の歌が聞きたいなどなかなかポイント高いぞ人間。しかしすまんな。我は既に運命に出会っているのだ。ダーリンがいる限り我との恋愛は出来ぬと思えー」
「あれ、俺歌聞きたいだけなのに振られた!?」
「お可哀想に、盛大に笑ってあげるわ」
「やめて、俺のライフはもうゼロよ!?」
「実際にゼロになりそうだよな。あ、なった」
死に戻った男性プレイヤーに十字を切って、他のプレイヤーたちがティリティさんへと殺到する。
確かに少しずつダメージを与えてはいるが、ティリティさんに致命傷を与えるまではしばし時間が掛かる様子だった。
「そっちいったぞ!」
「タンク役何とか止めろ!」
「馬鹿、防具切り裂かれるんだぞ、タンクの意味あるかよ!」
「避けタンクはどうだ?」
「命中率高すぎて無理!」
「パリィするしかねぇだろ!」
「おお、タツキさん! こっち来たのか」
「最初は稲荷さん側にいたんだけど初手で発勁食らって即死した。あっちじゃ俺たちほとんど役に立たんからな」
「でもチーム内の一部は残って戦ってんだよね。ヒナギとかはディーネさん相手に戦えるから」
タツキがパリィを行い、もう片方の腕から繰り出された一撃をダイスケが拳ではじく。
両腕の攻撃を失敗したティリティさんの懐へと滑り込み、飛び上がるような蹴りを叩き込むキョウカ。
「ぎゃん!?」
クリティカルヒットでダメージが入りティリティさんが宙を舞う。
「よし、クリティカルヒットげっ」
しかし、放物線を描くティリティさんは足を形状変化させ、針のように細く尖らせ一気に伸ばす。
攻撃した後飛びのこうとしたキョウカの胸が貫かれた。
「そいっ」
体を丸めて大回転。
キョウカを真上に跳ね飛ばし、針を引き抜いたティリティさんは地面に着地する。
「意外と効いたぞ。さすが上位プレイヤーは違うなぁー」
どさり、遅れて地面に激突したキョウカが光と化していく。
「ダメージ受けた直後に反撃かよ」
「クリティカルにクリティカルで返しやがった……」
遊ばれている。
それはプレイヤーの誰もが理解していた。
むしろティリティさん自身もそう告げているのだから遊んでいるのは確かなのだろう。
「悔しいな」
「ゲームでAIに負けるのはな、そりゃ、負けたくないよな?」
「気張れよプレイヤー、俺らの力ってのを見せつけてやろうぜ!」
死に戻るプレイヤーは多数。
それでも臆することなくプレイヤーたちがティリティさんへと斬りかかる。
魔法も矢も飛び交い、徐々にティリティさんのHPも減り始める。
「いやー、さすがにダメージ食らいすぎだぞ。仕方ないスキル起動ー」
HPが四分の一にまで減ったところでティリティさんが新たなスキルを発動。
物理攻撃が当たった傍からHPが少しずつ回復を始める。
「ん? なぁ、なんかティリティさんのHP回復し始めてね?」
「そんな馬鹿な。ほら、ダメージ食らって……マジだ!?」
遠距離の魔法にはダメージを食らっているが、矢が当たると逆に回復している。
攻撃も、物理属性を食らえば食らう程体力が回復を始めていた。
「ちょ、これってもしかして」
「ああ、物理吸収だ! 全員物理攻撃禁止! 魔法メインで攻撃だ!」
「ええ、俺物理オンリーなんですが!?」
「別のボス叩きに向かえ!」
「クソ、敵が殆ど物理耐性持ちじゃねーかよ、俺らの活躍の場をぷりーっず!!」
「コトリさんステージで雑魚敵と戯れてなボウヤ」
「そういえばあいつら物理耐性ないな。行ってくる!」
「素直か!?」
完全物理攻撃組はすぐさまコトリさんステージ向けて走り出す。
また、他のステージに連絡入れて、魔法メインのメンバーをこちらに集めるプレイヤーたちだった。




