631.第三回イベント、十八日目呪われし旧校舎探索編8
「きゃあぁ!?」
タツキチームは苦戦していた。
本来であればレベル40での対戦となるはずの初期学校に存在するボスモンスター、トイレのハナコさん。
しかし、今はレベル250を超えており、そのステータスはタツキたちを軽く凌駕している。
コトリさん戦や団体戦で一気にレベルは上がったりしたものの、まだ全員合わせてもハナコさんと同格になることはないらしい。
加えてハナコさんに存在するパッシブスキル、物理無効が地味に彼らを苦しめていた。
何しろタツキたちの基本武装は剣と肉弾戦。つまり前衛が物理特化型なのだ。
霊打などは覚えているので霊属性相手にダメージは与えられる。
しかし物理無効を持っているハナコさんには物理ダメージ自体が入らないのだ。
タツキの剣も、ダイスケの拳も、キョウカの足技も無効化されてしまい、アミノサンの魔法やヒナギの巫術じゃなければ満足なダメージにならない。
もちろん、タツキたちも遠距離攻撃や物理外攻撃は持っているのだが、基本的に常用しているスキルではないためどうしても隙や粗が目立ってしまう。
最初に貰っていたバフも切れ始め、アパポテトのバフでなんとか戦っている状況。
こちらの最大火力が後衛二人なので、彼女たちを守りながらの戦いとなっていた。
ただハナコさんを正面から相手取る、だけであればまだ楽だった。
問題は、周辺に転がる無数の便器。
その内部は全てハナコさんの出現地点と脱出地点となっている。
つまりそこに逃げ込めば魔法攻撃も無力化出来る。
背後からの奇襲も出来るし、距離を取ることだってできる。
なんならタツキたちの視界外に出現して探している間一方的に攻撃してもいい。
さらにトイレから現れるのはハナコさんだけじゃない。
鬼火だってトイレからトイレに移動するし、赤い手青い手も出現する。
酷い時にはギリギリで避けた鬼火と思ったものが陰火で、安堵した瞬間本命が襲って来たりする。
「めっちゃくちゃ戦いづらい!?」
「回復が追い付かない……」
「ええい、ちょこまかしすぎ、テケテケさん程の速度はないけどなんで学園七不思議系は瞬転移使えるのよ!」
「ほいっ」
「それにこの便座だよっ!」
なんとか弾いたタツキだったが、威力が高すぎてたたらを踏む。
そこに別のトイレから現れた裂傷の赤い手。
「くぅっ!? 裂傷食らった!?」
避けた場所に呪いの青い手、裂傷の赤い手が居たりすると、避けることすらできずにデバフを食らってしまう。
おかげで普通に戦うよりも回復魔法やアイテムの消費が高い。
余分を持って確保はしているが、湯水の如く使って行くとやはり終わりは見えてくる。
「いや、問題ない。全員ここで全て使い切るつもりでいい! どうせ今回のイベントは旧校舎攻略までで終わる。確実に攻略するんだ。惜しむな!」
「ったく、そういうことならさっさと言えよ! 奥の手出すぜタツキ!」
「おー、ダイスケノリノリじゃない。んじゃこっちもやりますかー」
「ええい、そういうことならバフも一番デカいの行くぞ。消費量阿呆だからためらってたってのに!」
「アパポテト、バフ終わったら守りよろ。大技出す」
「皆さんがやるなら私も……魂振り踊ります!」
長期戦は諦めた。
タツキたちは各々最大のスキルを使うことを選択。
皆の準備が整うまでタツキが前に出てハナコさんのヘイトを稼ぐ。
「おっと、これはちょっと不味いかも? さすがに連撃食らうと死ぬかな?」
ハナコさんも彼らの連撃に備えよう、と、した瞬間だった。
シャン、と澄んだ音が響く。
波紋が広がるように、ヒナギの両手両足に付けられた鈴輪から清浄なる音が響き渡る。
「あ、ヤバいかも」
心象具現世界が清浄に満たされていく。
ハナコさんは全身に伸し掛かる気持ち悪さに身じろぎする。
これはそう、インフルエンザにでも罹ったような感覚だ。
踊り始めるヒナギ。日本舞踊、あるいは奉納舞とでも言うべきか、巫女が神に捧げるように、彼女が舞うほどに場が清められていく。
いくら耐性を持っていようとも浄化弱点のハナコさんにはあまりにもキツい攻撃だった。
「よし、ハナコさんの動きが鈍った!」
「行くぜ必殺!」
「燃えよ烈脚!」
動きを止めたハナコさんに左右から襲い掛かるダイスケとキョウカ。さらに真正面からタツキの真上を飛び越えて、アミノサンのスーパーノヴァボールが襲い掛かった。
「ブレイジングバスター!!」
「双竜氷炎脚!!」
両方武技スキルでありながら物理と別属性攻撃の特性を持つ一撃である。
二人の必殺が左右から襲い掛かり、ダメージ硬直を受けたハナコさんへとスーパーノヴァボールが襲い掛かる。
スーパーボール程度の大きさの一撃は、ハナコさんに当たった瞬間、大爆発を引き起こし、周囲全てを巻き込み爆散する。
「ぐおぉ!? 痛ってぇ!?」
「なぜ巻き込んだし!?」
「二人ともどいてくれ。神龍斬滅閃!!」
遅れ、姿すら見えないハナコさん向けてタツキの必殺が襲い掛かった。
 




