62.蘇生と浄化
「では、また会おう」
キカンダーが大きく手を振って去っていく。
NPC達は既にいつも通りの日常を始めており、今、ここに残っているのは俺達パーティーと、一部、未だに何が起こったか理解しきれていないプレイヤーたちだけである。
ある程度突発イベントに慣れてるプレイヤーたちはイベント終わったーと次々と去っていった。
「えへへ。キカンダーの連絡先ゲットー」
「マイネさんテイムはしなかったんだ?」
「キカンダーさんは忙しいみたいだから。恐らく秘密結社アルセーヌが壊滅してからじゃないと手伝ってはくれそうにないかな?」
ああ、テイム誘ったのかぁ。
正義の味方縛りでテイムするつもりなんだろうか?
まぁマイネさんならそれはそれでしっくりくるから問題は無いけども。
「アイテムはなんか手に入った?」
「そういえば相手は泡になったり爆発したりだからアイテム入手できなかったな」
「アイテムボックスに勝手に入ってたりしないか? 結構戦闘員倒したし」
「それはあるかも? うーん。ない、みたい?」
マイネさんが自分のアイテムを調べた物の、特段変わったドロップアイテムはなかったらしい。
一応俺も確認して見るも、全く入ってない。
「俺は捕食で手に入れた自爆装置くらいしか手に入らなかったな」
「それ、要らなくないです?」
「致命傷を与えられると周囲を巻き込んで爆発するらしいぞ」
なんて傍迷惑な能力。近づかないでくださいます?
「おいこら、お前ら。人を時限爆弾みたいに扱うんじゃねぇよ」
そうはいうけどいきなり即死級の一撃を側頭部に受けてソレが爆発したら俺ら纏めて吹き飛ぶよね?
「普段はノンアクティブにしとくから不意撃たれても爆発はしないぞ?」
ああ、そういえばスキルセットは6つまでだっけ。
「アイテムも手に入らなかったし、さっさと教会に戻ろうぜ」
「それもそうね。グレートマンさんも回復終わったし、生き返して上げましょうかあの四人」
「そうだった。普通に忘れそうになってたぜ」
突発イベントの儲けがまったくなかったことに嘆きながら、俺達は教会へと向うのだった。
教会では神父さんが困った顔のまま壇上で俺達を待っており、俺達の姿が見えたとたん、ぱぁっと顔を明るくさせた。
「よかった、このまま死体を放置されるとゾンビ化してしまうので困っていたのです。本当にお金がなかっただけだったんですね」
いや、そこは信じておいてほしかった。
さすがに指名手配されそうな行動はしませんぜ。
とはいえ、死体放置でさっさと逃げる奴もいるのかもと思うと確かに不安はあるだろうね。
「んじゃ金額を払いますかね」
「全員で四万だっけ? とりあえず一人一万づつだすとして……」
「ああ。じゃあ俺が二万だしますよ。俺の起こしたイベントですし」
「そうか? 折半でもいいんだが?」
「ヒロキンさんがそういうなら奢って貰おうかしら」
俺が二万円を取り出そうとした、まさにその時だった。
「う……う゛ぁ……」
鴪貫太が突如震えだした。
皆想定外のことに思わず彼を見て固まる。
「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ」
こ、これって!?
「い、いけません皆さん死体から離れてッ! 咬み付かれたり引っ掻かれればゾンビ化してしまいますっ」
感染する奴かよ!?
「うっわ、ゾンビフラグは勘弁だわ」
「俺の場合ってどうなるんだ? ゾンビが勝つのか、未知なるモノが勝つのか。とりあえず食べてみようか……?」
「やめよう未知なるモノさん。それ多分強化されたゾンビが出来るフラグしか無い奴だ」
「ああ、そうか、そういう可能性が高いか」
俺達は戦闘態勢を取る。
皆レーザー銃を構えていつでも迎撃出来るようにと備え、そして……
「う゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛……ァ゛……」
鴪貫太は完全にゾンビとなって、光に包まれるように消え去った。
「……うん?」
「マジかよ?」
「あー、そっか、ここ、神聖地帯だ」
そう、マイネさんが気付いたように、ここは教会。不浄なモノにとって一番危険な浄化施設なのである。
そこでゾンビ化した彼は、神聖な空気に触れたがために昇天してしまったのである。
「なんと、この施設にこのような能力が!?」
神父さんもここまで便利な機能があるとは知らなかったようで、本日より、ここは対ゾンビ用最終防衛ラインとして非常時の避難場所に決まったのだった。
というか、ゾンビが押し寄せるような事態が起きたらこのゲーム終わる直前だと思うんだけど?
「っと、そうだ。まずは雙里を生き返そ……」
「う……う゛ぁ……」
あー、二人目が御昇天召されるようだ。
「神父さん、とりあえず他の二人蘇生してください。金払いますので」
「わ、わかりました」
仕方ないので俺が二万円出して嗣朗と呉弟栖を蘇生して貰うことにした。




