614.第三回イベント、十八日目降福妖精地雷原2
戦場は混迷を極めていた。
皆、その場を動くことなく敵に向かって武器を振るう。
ただ、振るう相手は本来の敵である妖精さん、ではなく、自分の気に入らない相手、本来味方であるはずのプレイヤーたちであった。
互いに互いを攻撃し合うプレイヤーたち。
妖精さんは少し離れた場所で姿を隠しながらその光景を観察していた。
正直、ここまで上手くハマるとは思っていなかった。
ただ、プレイヤーをイラつかせ、何もできない状態で一方的に攻撃できれば、程度の考えだったのだ。
幸運値が落ちることで想定以上の効果が発揮されたらしい。
妖精さんとしてはもう少し挑発してもいい気がするが、今彼らの傍に近づくと予想外の流れ弾に当たる可能性が高い。なのでしばらく成り行きを見守り人が少なくなるのを待つのが吉だろう。
殴り合いは徐々に肥大化しているので、もう妖精さんが何かする必要性がないらしい。
勝手に自滅していくプレイヤーたちは、互いに足を引っ張り合って徐々にその数を減らしていた。
「いやー、私が言うのもなんだけど、阿っ呆だねー」
「まったくある、プレイヤーって結束する時は結束するのに、こういう時脆いあるなー」
うんうん、と頷く妖精さん。
ふと、自分誰と会話してるんだっけ、と我に返る。
慌てて逃げようとした彼女の体が、むんずっと掴まれた。
「ぎゃー!?」
「妖精さん、ゲットあるーっ! もうオイタはさせないあるよ」
「レイレイナイス! さぁ妖精さん、皆を止めなさい」
「はい? いや、私が言うのもなんだけどさー、アレは自分らで勝手にやらかしてるだけだから私が止められるもんじゃないわよ。多分もう話聞かないし」
「それは……」
蚊帳の外だから妖精さん捕獲を行えたレイレイとりんりんは、マイネを巻き込み激闘繰り広げるプレイヤーたちを見る。
確かに、今更止めろと言ったところで彼らが止まることはないだろう。
それこそ最後の一人になるくらいまで減るか、あるいはイレギュラーが起こらない限り。
「まぁ、止めろってなら止めるけどー。どうする?」
「ど、どうするって、え、妖精さんアレ止められるの?」
「止めることはできるわよー。でも、保証はしないからね。どうなっても、知らないわよ」
ごくり、生唾を飲むレイレイ。
助けを求めるようにりんりんに視線を向ける。
「止めるのを優先するべき、なのよね、これ」
「でも、妖精さんの言葉含みありすぎある、これ了承したらヤバいことならないあるか?」
「今よりヤバいことって何かしら? とりあえず妖精さん倒しちゃう?」
「あらー、いいのかなー。それだと収集付かなくなるかもしれないわよー。どーするー?」
妖精さんは捕まっているのに余裕綽々である。
二人は、迷ったが、判断できるのは自分たちしかいない。
仕方なく、決断する。
「止めて、くれる?」
「よろしく頼むある」
「あいあい、んじゃいくよー」
にたぁーっとあくどい笑みを浮かべる妖精さん。
失敗したか、と思った二人を放置して、妖精さんは叫んだ。
「助けてスプリガーン!!」
刹那、黒い風が吹いた。
思わず顔をしかめたりんりんとレイレイ。
気付いた時にはレイレイの手の感覚が消えていた。
「え?」
手の先を見れば、妖精さんが居ない。
そればかりか、妖精さんを掴んでいた腕ごと消失していた。
「ちょ、レイレイ!? どうなって……」
そして戦場もまた、動きを止めざるを得ない状況に陥っていた。
プレイヤーたちが思わず手を止めることになったきっかけ。
広場の中央に、ソレはいた。
漆黒のサングラス。浅黒い体躯。
ドレッドヘアの男が一人、手にしたレイレイの腕から妖精さんを救出し、要らなくなった腕を投げ捨てる。
「何、あいつ……」
「妖精への攻撃意思、殺害意思、しっかりと確認した……貴様ら全員、万死に値する」
黒き疾風の蹂躙が始まった。
とっさのことに反撃も出来なかったプレイヤーが数人一瞬で死に戻る。
トラップが発動するも、ドレッドヘアの男はそのトラップ現場に存在せず、ただただ遅れて爆発し、周囲のプレイヤーだけが巻き添えになる。
あるいは落とし穴が開かれ、毒霧がまき散らされる。
「なん、早っ」
「ぎゃあぁ!? トラップ踏んでねぇのに!?」
「目が、目がああああああああっ」
「クソ、あいつを止めろっ!」
「敵なんだよな。アレってなんなの!?」
ドレッドヘアの男が参戦したことでプレイヤーたちは互いに潰し合う余裕がなくなった。
皆、足の引っ張り合いを止めて一番の危険人物へと対処を始める。
しかし、遅すぎた。彼の動きを目でとらえられるものが居ない。
ジェイクや(V)o¥o(V)が狙撃するも、一瞬前の場所を打ち抜いてしまいダメージに至らない。
あまりにも素早く、的確に隙のあるプレイヤーを罠のある場所へと放り投げ、あるいは殴り飛ばして消し去っていく。
「ちょ、レイレイ、なんかヤバいの出てきたんだけど……」
「違うある、私たちのせい違うある」
「ごめんねお二人さーん。妖精をイジメる奴に容赦しないのよ、あいつ」
そして一人、ドレッドヘアの男について知っている妖精さんだけが、意地の悪い笑みを浮かべているのだった。




