611.第三回イベント、十八日目降福妖精地雷原1
「あははははは、どーしたどーしたぁ? 人間のくせにこぉんな小さな妖精ちゃんに手も足もでないのかーい?」
「くっぅぅ、そムカつく!」
「妖精さん意外と強い、トラップ系でもこのコンボはヤバすぎだろ」
「動きたいけど動けない。というか動くと死ぬ」
「それでも動かなきゃ死ぬでしょうが! 食らえ!」
マイネだけはやる気満々でマンホールを投げる。
しかし、妖精さんはその場におらず、空を切って戻るだけ。
酷い時には味方に当たって運の悪いプレイヤーが罠にかかって死に戻る。
「ちょ、マイネさん、不用意に投げないで! 死に戻ってる!!」
「他に方法があるなら聞くわよ。まずは妖精さんの居場所を教えて!」
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとばかりにマイネさんがマンホールを投げ続ける。
妖精さんは小さいので居場所が確認された場所に投げてもすぐに立体機動で避けてしまい、人々の合間を縫って逃げてしまう。
これでは数を撃っても当たる気配すらない。
「おっとすべったーっ」
たまに隙を見つけた妖精さんにより攻撃を受けたプレイヤーが罠を踏み抜き死に戻り、あるいは慌ててフォローしようとしたプレイヤーを巻き込み死に戻る。
「ええい、ジェイク!」
「すまんな、妖精の動きを追いきれん」
「(V)o¥o(V)さんは!」
「ジェイク殿と同じだ。ここまで速い獲物は狙ったことがない」
もともと猟師な彼が狙う獲物は素早かったとしても鹿、かなり巨大な獲物なので遠くといえども当てることは可能だ。
しかし、近場のハエに銃弾を当てろと言われると、さすがに無理だった。
「ああもう、ここまで手立てがないなんてっ。苛つくわ。姿を現しなさいよ!」
「マイネー、切れちゃダメダメー。あははははは。ほーらこっちだよー。っとあっぶなーい、きゃはははは」
声のした方向へとマンホールを投げる。
しかし余裕を持って逃げられてしまう。
悔しいがまだまだ妖精さんにダメージを与えられる程の状況に至っていない。
完全に遊ばれているのが分かるのでマイネの態度も徐々に苛つきが見え始めてくる。
周囲のプレイヤーもソレは理解しているものの、自分たち自身も動けない、攻撃できない、やられ放題、というストレスにフラストレーションが溜まっているので互いの動きにも苛つきが募りだす。
「クソ、どこだよ妖精!」
「おい、下手に動くな、俺まで巻き込まれる」
「あァ? だったらテメェも動くんじゃねぇよ。クソが」
「ンだとテメェ!」
さすがにこんな場所で喧嘩にまで発展することはないが、起爆寸前の爆弾がそこかしこに発生し始める。
何か一つ歯車が狂えば、途端に互いに潰し合うプレイヤーたちが出始めることだろう。
当然、運営はそんなことにならないように細心の注意を払うだろうが、妖精さんがそんな注意を払う必要は全くない。
ゆえに、プレイヤーたちの目の前を悠々と浮遊しながら挑発しまくる。
「余裕か畜生!」
「ぶっ殺す!」
「ばっ、易い挑発に乗ってんじゃねぇ!」
「あ、何罠踏んでんのよ!?」
「ちょま、俺まで巻き込……」
次々にトラップを踏み抜き死に戻っていくプレイヤー。
自分だけならまだマシなほう、味方を巻き込んだプレイヤーなど死に戻り先で殴り合いに発展し始める。
殺伐としたトラップステージに、さすがのマイネも自重を始める。
ただ、少し遅すぎたようだ。
イライラしているプレイヤーたちは互いの行動にさらにイラつきを募らせ、妖精さんの挑発で導火線に火が付いた爆弾と化していた。
その爆発は、唐突に、しかし必然的に起こった。
「痛って、何すんだテメェ!」
「うおっ、あ、っぶね、テメェ今のトラップ踏んでたら死んでただろォが!」
ちょっとしたことで殴り合いが始まり、そこに巻き込まれてトラップ死したプレイヤーが出たことで、収集は着かなくなった。
互いに攻撃を始めるプレイヤーたち。
当然の如くトラップを踏んで死に、フレンドリーファイアで死に、仲間同士で殺し合って死に始める。
「ちょ、皆落ち着くある!」
「ひえぇ、なんでこんなことに!?」
「ええい、妖精さんはどこ! 彼女を何とかしないとこの殴り合い収まらな……痛っ!? 何すんのよっ!」
押されたプレイヤーがマイネに激突。
普段なら何すんのよ。その言葉だけで終わるはずだった。
苛ついていたマイネは本能的に反応し、激突したプレイヤーをマンホールで殴り殺す。
「あっ」
「私の彼氏に何するのよっ!!」
パーティーメンバーが激昂し、マイネもまた諍いに巻き込まれていく。
絶望的な争いが伝播していくのを、りんりんとレイレイはただただガクブルしながら見守るしかできなかった。
当然、その原因を作った妖精さんは、この光景を見て腹を抱えて笑っていた。




