609.第三回イベント、十八日目巨大人型兵器攻略開始
妖精さんステージをマイネさんたちに任せた未知なるモノたちは、新たなステージへとやって来た。
そこにいたのは……
「あれは……確かユウキさんだっけ?」
サッカーボールを小脇に抱えた少女が仏頂面で待っていた。
「よぉ。次のステージはエルエさんや。ウチは準備出来るまでのにぎやかし、他のメンバーと違てウチに戦闘能力はないから戦いとかされても瞬殺や、ねーちゃんみたいな得意な力もないしな。サッカーとか、やる?」
「さすがにこの時間がない時にそれは無理だな」
「やったらトークタイムや。どうせあと少しで到着するし、待ったってや。ああ、それと、本来はディーネさんや稲荷さん、ティリティさんが出張る予定やったんやけど、あの三人は後方待機して貰うことになったから、ここでエルエさんを破壊せん限りは次に進む術はあらへんで」
そう告げるユウキさんの背後には、漆黒の靄。
前回イベントでヘンリエッタさんの背後で道を閉ざしていた靄である。
「ティリティさんの闇魔法、だよな。なるほど、ヒロキとしても人数過多は理解したから三ルートに分かれさせたのか。となると、この先に居るのも明日には行けるようになってる感じか?」
「ウチに聞かれても困るわ。ウチはここであんたらの邪魔するだけの存在やし」
と、ユウキさんが呆れたように告げた瞬間だった。
ズシン、と周囲を揺らす音が響いた。
なんだ? 疑問に思う未知なるモノたちの元へ、音と振動が少しずつ近づいてくる。
「アインシュタイゼン博士印のエルエさん強化パーツ。巨大人型兵器エルエさんエクスカイザーや!」
森の合間から、木々を薙ぎ散らし、鳥が飛び立っていく中、にょきりと顔を出す巨大物。
広場のほとんどを自身の影に覆い隠し、中央にエルエさんの体を組み込んだ、巨大人型兵器が現れた。
「一度撤退したと思ったら。パワーアップして再出現かよ!?」
「ちょ、なにあれーっ」
木々を押しつぶし、広場へとやってくるエルエさんエクスカイザー。
意外と男子受けするカッコイイフォルム、額中央部にエルエさんの上半身が埋め込まれており、額から伸びた一対の棘のような部分が日の光を受けて輝いた。
「ガン〇ムかよ!?」
「でも瞳の方はモノアイだぞ」
「フォルムもどっちかっていうとザ……いや、気のせいだな」
森を抜け、プレイヤーたちの前へと現れたエルエさんエクスカイザーはその場に仁王立ちし、その威容をプレイヤーたちへと見せつける。
圧倒的物量差。圧倒的体格差。プレイヤーたちの誰もが上を見上げて息を飲む。
「いやいやいや、こんなの相手にどうしろと?」
「勝てるのか、これ?」
「怖気づく前に動き出せ、案外動きは遅そうだ……ぞ?」
ブンッと瞳が輝く。
仁王立ちから一転、ブースターを射出し始めたエルエさんエクスカイザーが直線上に向けてロケットダッシュ。
当然、射線に居たプレイヤーたちは避ける暇もなく吹っ飛んだ。
「ごはっ!?」
「はっや!?」
一瞬でどれほど移動しただろう?
ブースター点火で動くことなく前移動。
当然目の前に立ちはだかっていたもの全てを薙ぎ払って、である。
さらにごぱっとバックパックに積まれていたミサイルポッドが射出。
上空で無数のミサイルを放出して、誘導ミサイルの群れがプレイヤーへと襲い掛かる。
「はー、壮観やなー」
「ゆ、ユウキさん、貴女逃げないの!?」
「どこに逃げ場があるんや? ウチはここで巻き添えくらうだけやで」
どうでもよさそうに告げた次の瞬間。
地面をバリバリと吹っ飛ばしながら高出力エネルギー波が通り過ぎる。
当然の如く巻き込まれたユウキさん、光の彼方に消え去った。
「えええ、ユウキさーん!?」
「なんつー、潔い。これはあまりに酷くないかヒロキ。ちょっと運営に抗議送ろう」
「そ、そうですね。いくら、か、活躍難しいからって味方の攻撃で巻き添えなんて……あ、無理そう。ヘンリエッタさんとか普通に味方の攻撃で死んでるから抗議無理かも」
「おのれヒロキン、ユウキさんファンの俺の怒り、必ず貴様に届けてくれるっ」
「そのためには、アレなんとかしねぇと」
プレイヤーたちが上を見上げる。
ちょうどブースターをうまく使って後方転換を終えたエルエさんエクスカイザーがプレイヤーの前に立ちはだかっていた。
「で、どうやってダメージ与えるんだ、これ?」
「多分だけどむき出しのエルエさんに当てるんじゃねーか?」
「無理じゃね?」
「あとは部位破壊で徐々にやってく、とか? とりあえず確殺攻撃足元に当ててみたけど確殺が機能しなかったよ」
「ってことは部位破壊は可能だけど確殺攻撃を与えるにはエルエさん本体に当てるしかないってことか」
「あくまで強化パーツあつかいってことだよな、これ、クッソ羨ましい。俺も人型機械兵器操縦してぇ!」
「この先出てくるって保証が目の前にあるのだけは嬉しい誤算だよな」
プレイヤーたちは未だ攻略方法を探ることすらできず途方に暮れていた。
しかし、湧き上がる好奇心だけは無限のごとく、彼らを高揚させるのだった。




