599.第三回イベント、十七日目味方殺しの結末
「でしてよぉぉぉ!!」
「またヘンリエッタさんが死んだ!」
なんとかヘンリエッタさんを殺さないようにと気を付けていたプレイヤーたちだが、悔しいかな、ルルルルーアさんの味方殺しを止めきることはできなかった。
ゆえに何度もヘンリエッタさんが死んでしまい、ローリィさんが強化されて行ってしまう。
「確殺さえ当たれば……」
「確殺持ちがほとんど芽里さん撃破チームに行っちまったのが痛いな。早くこっち来てくれ」
「ローリィさんの動きがほんと化け物じみてきたんだが!?」
「なんで魔法使いなのに重装備タンク並みに防御力になってんだよ!?」
「確殺攻撃だけ的確にはじきやがって、一撃当たれば勝てるのにっ!!」
ローリィさんは眠たげな瞳で猫背の根暗な姿で、次々と魔法を唱えては周辺にばらまく固定砲台と化していた。
「ああもう、ヘンリエッタさんどうにかしてくれ。殺すわけにいかないのに間接決めてくるからすっごい邪魔!」
「ギミックだから放置で」
「攻撃されないことを祈ってなボウズ」
「これも人生だぜ、ヒヨッコ」
プレイヤーたちも半ばあきらめムードに入っていた。
ローリィさんが硬すぎる、ヘンリエッタさんが死にすぎる。ルルルルーアさんが鬼畜すぎる。
あまりにも連携が上手く嵌り過ぎているせいで、プレイヤーの打つ手がなさすぎるのだ。
おかげで攻略をあきらめる者が出始めている現状、このままでは不味い、と運営が動き出そうとした、矢先だった。
「でしてよぉぉぉ」
ヘンリエッタさんが何百回目かの死を迎え、光と化して消えていく。
「……あれ? 復活してこない?」
「え、嘘だろ? ヘンリエッタさん死んだ?」
突然の異変。ヘンリエッタさんが復活せずに完全消滅したのである。
もともと、ヘンリエッタさんの復帰スキルは復帰するほど復活率が下がるものだった。
それが何百回と繰り返したのだ。むしろ良く復活したほうだといえる。
「ありゃー、リエッタ死んだのね。ルルルルーア、予定通りに」
「は、はい、では下がります」
ヘンリエッタさんによる強化はここで終わり。
ルルルルーアさんはすぐに撤退を決め、広場にはローリィさんだけが残った。
「敵が一人になったってことで喜ぶところなんだけど、むっちゃ固い、レイドボスだよローリィさん!」
「少し前まで硬かったヘンリエッタさんはギミックボスだったけど、殺しすぎるとローリィさんが硬くなるとか、どんな鬼畜仕様?」
「全部ヒロキが悪いんだ。あいつ絶対このイベント中に一撃殴る!」
「やはりヒロキンか。いつ出発する? 私も同行しよう」
「ネタやめーや」
「しかし、ローリィさんどうするよ?」
「一応ヘンリエッタさんと違ってローリィさんの場合はヘンリエッタさんのスキルによる強化だろ、時間経過で消えるはずだぞ」
「その時間はいつだよ!?」
「次のイベント、かな?」
「この時間がないときに悠長に待っていられるか! ローリィさんは今回で撃破する、絶対事項だ!」
「芽里さんステージにいる確殺持ちに助っ人頼んどいた。来てくれるといいんだけど」
「向こうどんな感じ?」
「芽里さんが巨人殺せるくらいの意味不明な動きし始めてニャル化して無双状態オワタ」
「いや、意味わから」
会話をしていたプレイヤーが飛んできた範囲魔法に巻き込まれてまとめて死に戻る。
ローリィさんによる魔法ばら撒きの被害は、プレイヤーが密集していたこともあり、被害をどんどんと拡大させ始めていた。
「っし、いける! 防御無視攻撃なら普通にダメージはいるぞ!」
「持ってねぇよ!?」
「何そのスキル、私も欲しい!」
「売ってくれ、金なら出す!」
「幾らだ? 言い値で買おう」
「いや、俺が!」
「私が」
「じゃ、じゃあ僕も」
「「どうぞどうぞ」」
「なんでだよっ!?」
とりあえずローリィさんを倒しさえすれば次に進める。
心の余裕ができたプレイヤーが軽口を叩き始めると、他のメンバーも話しをはじめてしまう。
すると、まさにイベントを楽しく行っているような和気藹々とした雰囲気が流れ出した。
範囲魔法による爆音が降り注ぐ中、世間話に花を咲かせるプレイヤーたちの笑い声が起こる。
なにやってるんだこいつら、とローリィさんは呆れるが、呆れただけでは相手を戦闘不能にできないので、ともかく範囲魔法を連打してプレイヤーたちを一人でも多く撃破していく。
「さぁて。私はどこまでやれるかな、と。長引かせられたらいいのだけれど……さすがに一人では無理かしら?」
自分の実力は自分が一番わかっている。
前線に出るタイプではないのでヘンリエッタさんによるバフが切れ始めたら、徐々に戦力ダウン、その後少しは戦えるだろうが、時間経過で弱体化するのは確定しているのだ。それまでにどれだけの敵を倒せるか、がネックだった。
 




