596.第三回イベント、十七日目人形遣いのカデンツ
「ったく心配させんじゃねぇよ。なぁテメェラ」
「愛しておりまあああああす」
「ふぉーりんらああああああぶっ」
マイノグーラさんは近くにいた男性プレイヤーを誘惑し、自分を狙う女性陣へと向けてけしかけていた。
正直そこまで邪魔できるものではないのだが、自分への攻撃集中が減るので意外と重宝する能力である。
本来は誘惑した男性をそのまま石化させたり、意識を奪って意思なき肉塊へと変えてしまうスキルであるが、誘惑するだけにすればこうやって味方同士で戦い合わせることができる。
「ダイスケさん、死ぃねぇえええええええっ!」
「アパポテトさん、お命頂戴ある!」
が、まさかの瞬殺で男性陣が死に戻る。
「そろそろ手が尽きてきたんじゃないの!」
「小手先に頼ってるようでは二流ある、覚悟するよろし」
「言ってくれんじゃねーかよ。んじゃまぁ仕方ねぇ。踊り合おうぜプレイヤーども」
マイノグーラさんとの激闘に、もう邪魔は入らなくなったようだ。
なんとかここまで持ってこれたとマイネは一安心する。
男性陣はもう少し遠ざからせておこう。自身のテイムキャラ三人も下手に近づいて操られても困る。
「女性陣のみで一気にけりをつけるわよ!」
「男性陣は下手に近寄らないで、操られたら優先してぶっ殺すわよ」
「手が空いたの。なのも参戦するの!」
「ティンダロスはもう男性陣に任せておけばよさそうだし、私もマイノグーラさん迎撃に来たよ、遠距離フォロー入れるから前衛気を付けて戦ってね」
「りんりんはノーコンある、側頭部に当たらないよう気を付けるね」
「確殺持ち二体もこっち来たのかよ!? もう一人いんだろが、なんでニャルラトホテプに向かわねぇんだよ!?」
「あんたをさっさと撃破したほうが被害が少ないのよ!」
「そういうわけで死んでくれある」
近接戦闘が始まる。
マイネとレイレイによる連携攻撃、リテアパトラたちによる援護射撃に加え、神出鬼没ななのが死角から襲い掛かり、そちらに意識を割けば、りんりんの確殺矢が襲い掛かってくる。
形勢は一気に不利。
一瞬でも気を抜けば確殺攻撃を食らって即死してしまうという鬼畜仕様のゲームである。
「ひゃはは、楽しいなぁ!」
「全然楽しくないけどねっ!」
「さっさと消えるね!」
何度もの攻防を繰り返し、プレイヤーの戦力をちまちまと削っていく。
しかし、誰かを死に戻りさせた、ということはなかったため、プレイヤーの戦力低下はダイスケとアパポテトだけだった。
「あー、こりゃやべぇや。すでに攻撃パターン読まれ切って対応されてんのか」
「ようやく気付いた? そう、あんたの行動パターンは丸っとお見通しよ!」
悔しいが、ここからの起死回生はマイノグーラさんにはなかった。
芽里さんのように不可思議な能力を開花させることはできず、ニャルさんのように八大魔法を覚えたりなど奥の手があるわけではない、第一自分はニャルさんに呼ばれてやってきただけの存在なのだ。
彼女たちほどの実力があるわけではない。
「ああ。悔しいなぁオイ、ここらで最初に脱落かァ?」
「そうしてくれることを祈ってるわ」
しかし、ただ黙ってやられてやるのも癪である。
何かしら最後の一撃を叩き込んでやりたいと思うマイノグーラさんはさらに激しくなったプレイヤーたちの攻撃で徐々にダメージを積み重ねながら、死亡へ向けて加速度的に進みつつあった。
自分の攻撃は徐々に当たらなくなっている。
これは自身の攻撃がパターン化しているのを気付かれ、先読みで避けられ始めているからである。
おそらくもうしばらくすれば完全に把握された攻撃は一切当たらなくなるだろう。
悔しいが、その時が来た時点で自分の勝利は1%すらもなくなってしまうだろう。
「確殺一射!」
「あ、やべ」
マイネの一撃をぎりぎり避けたせいで体勢が崩れた瞬間を狙われた。
眉間向けてまっすぐに飛んできた確殺攻撃に、回避不能だと気づく。
どうにかしようにも、既に崩れた体の状況では逃げることすらできはしない。
唯一できることはといえば、影化するくらいであった。
「うっそ避けた!?」
「ちょうどいい、これが我が最後っ屁って奴だ、受け取りなァ!」
自分の眉間に突き立つ寸前だった矢を影化した体でやさしく受け流す。カーブを描いてそれに沿わせた矢は、方向を変えて襲い掛かる。そう、マイネに。
「ちょっ」
「釣りはいらねぇ、とっときなァ!!」
「なのっ」
一瞬遅れ、マイノグーラさんの背後からなのが確殺攻撃で襲い掛かる。
もはや万策尽きていたマイノグーラさんは避けることすらせず確殺攻撃をその身に受け入れ、しかし最後の一撃は確実にマイネさんへと届けていた。
「はは、先に地獄で待ってンぜェ」
「うそでしょぉ……」
マイノグーラさんが確殺に倒れ、マイネもまた、矢を膝に受けて死に戻るのだった。




