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594.第三回イベント、十七日目人形遣いのオーバード

 勇者ブレイドの剣が芽里さんを貫く。

 刹那、時が止まったように静寂が訪れた。

 ずるり、剣から体が崩れ落ちていく姿に、ようやくプレイヤーたちの理解が追い付く。


「か、勝った?」


「芽里さん戦、めっちゃキツかった」


「人なのに人じゃねぇよ! 何あの動き!?」


「繰糸術極めれば俺らもアレできるんかな?」


「っしゃぁ、マジ疲れたァ!!」


 歓声が上がる。

 まさかの芽里さん撃破にニャルさんもマイノグーラさんも驚き敵対しているプレイヤー諸共思わず二度見する。

 地面に倒れた芽里さんからは赤い染みが広がっていた。


「うっそ、芽里やられてんじゃん。どーする従姉妹!」


「え、ここで逃げる選択肢取れるかニャル姉。やるしかねぇだろ、とにかく終わりまでよォ!」


「あー、もう貧乏くじ引いた! おとなしく後方支援しときゃ良かったぜっ」


 二人は即座に覚悟を決めたらしく、自分が対応しているプレイヤーたちに対応を再開した。

 ここからは芽里さんに当たっていたプレイヤーも参戦してくるだろうことは想像に難くない。

 さっさと今いるメンバーを潰して増援に対処しないと、と覚悟を決めたところだった。


「勇者ブレイド、様子がおかしいぞ! 警戒を怠るな!」


「未知なるモノ?」


「芽里さんが、光に変わってない!」


 はっと気づいたのは、誰が最初だっただろう。

 唯一警戒を解かなかった未知なるモノ以外、誰も彼もが芽里さんから視線を逸らしていた。

 未知なるモノの声に、芽里さんへと一斉に視線を向け、絶句する。


 そこに、芽里さんはいなかった。


「ちょ、どこ行った!?」


「芽里さん消えた!?」


「光に変わったんじゃないの!?」


「いなくなるって、まさかまだ終わってな……おばぁ?」


「へ? どうし……」


 固まっていたプレイヤーの背後で、二人のプレイヤーが糸に切り裂かれて死に戻る。

 その背後に、俯き加減の少女が、立っていた。


「芽里さん?」


「心臓貫かれたらクリティカルだろ、何で死んでねぇの!?」


「な、なぁ……両手の指、折れてたよ、なぁ?」


 うつむいたままの芽里さん。だらんと垂らされた両手の指先は、十本揃って折れている様子もなくくっついていた。


「ぜ、全員来るぞ!! 防御を固めろォッ!!」


 勇者ブレイドが切羽詰まった声で叫ぶ。

 芽里さんが地を蹴るのは、彼の声を同時だった。

 人外を思わせるもの凄い突撃速度。突撃と同時に十本の指を操り周囲のプレイヤーを切り裂いていく。


 先ほどまでのトップスピードとほぼ変わらず、むしろ逆に鋭く速くなっている。

 いきなりの緊急事態に翻弄されるプレイヤーたちはなすすべなく数を減らしていく。


「どうなってる!?」


「ちょ、芽里さんの体力、減りが止まってる! あの高速移動してるのに自壊してないぞ!」


「か、鑑定係! 芽里さんの鑑定!」


「りょ、了解! ……え?」


「どうした!?」


「しゅ、種族名……人間じゃないぞ!? 這い寄る人間ってなんだ!?」


「這い寄る人間って、ニャルさんかよ!? ニャルラトホテプそこにいたわ! え、なんか混じった!?」


「待て、確か芽里さんメリーさんに魂入れれたよな。一時期ニャルさんが人形偽ってた時もその中入ってたんだろ、混じってる、混じってるぞニャルさんが!」


「芽里さん人間辞めたってよ」


「見ろ、芽里さんの両手、影化してる! 無謀の神の特性持ってるぞ!」


「それって、物理無効?」


「心臓貫かれてもそりゃ死なんわ!」


 芽里さんの魂は変質していた。ニャルラトホテプという外の神がメリーさんを偽っていた時に、その内部に魂を入れていたのだ。

 ゆえに、混じった。外なる神、無貌なる者と魂が交わり、体も徐々に変質を来していた。

 そして、心臓を貫かれたことで芽里さん自体も自覚したのだ。


 自身の体は既に、無貌なる者への変化を始めているのだと。

 影化出来ることに気付けば、後はもう早かった。

 両腕の折れた指を影化して元に戻して実体化。

 実質もう体を自壊させての高速移動は影化すれば治るため、ダメージとして認識されなくなった。


 つまり、今まで自壊させながら動かしていた自身の体を、実質ノーダメージで高速移動させられるようになったのだ。

 それはつまり、自壊を警戒するあまり本気を出せなかった動きを遠慮なく動かせるということに他ならない。

 人体では限界を超えて糸になます切りされる速度であろうとも、影となって糸をすり抜けられる、あるいは切れても影化すればくっつくため、自分の体が壊れることを考慮して糸を動かす必要がなくなったのである。

 絶望からの新たなる復活。それはまるで夜明けにも似た光景を芽里さんに与えていた。


「まだ、やれる。私はまだ舞える。動ける。邪魔できる。覚悟してプレイヤー!!」


「どんだけ全力投球してんだよ!? 死亡直前に能力に目覚めるとか主人公か!」


「未知なるモノさん、落ち着いてっ、ともかく残り半分以下のHPなんだ、削り切るぞ!!」


 第二ラウンド開始。

 プレイヤーたちと芽里さんの激戦は、まだ終わる気配を見せなかった。

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