592.第三回イベント、十七日目人形遣いのカノン
「おいおい、嘘だろォ? あんだけいたのにもうこんだけか?」
目を剥いて驚いたのはマイノグーラさん。
ヘルハウンズもティンダロスの猟犬も予想以上に減っていた。
本来なら今回のイベント半分くらいの時間は彼らで稼げる手はずだった。
まさかの一時間もかからず駆逐されようとしている。
さすがにこのままでは不味い。
余力として残してあったヘルハウンズたちを急遽呼び出さざるをえなくなった。
最悪ヘルハウンズたちが倒され、息も絶え絶えのプレイヤーに追加の地獄を、と考えていたマイノグーラさんにとっては手痛い失態ではあるが、プレイヤーがここまでできるのだと予想していなかったマイノグーラさんの落ち度でもあるので今回は全力全開、全てのヘルハウンズを召喚して使い切る。
「仕方ねぇな。こちらも打てる手は打って行こうじゃないか。さぁて、奪命手をみせてやろう」
「おい、マイノグーラさんが動き出したぞ!」
「ヘルハウンズ出して背後で待ってただけじゃないのか?」
「ヘルハウンズの数が少なくなりすぎて慌てて前線にでるんだろ。つまり、押してるぜ俺ら!」
マイノグーラさんが動き出す。
マイネと格ゲー少女が呼応するように前に出てタンク役を買って出る。
マイノグーラさんが物理無効属性なので二人は攻撃が通らないのだ。ゆえに他のメンバーが攻撃しやすいよう、マイノグーラさんの攻撃を引き受けることにしたのである。
が、彼女たちが想定していなかったことが一つ。
接敵したマイノグーラさんが格ゲー少女へと攻撃。
先ほどまでのように影の腕を伸ばして殴りかかってくる、と見せかけて、受けた格ゲー少女の腕を掴み取る。
「え?」
次の瞬間、格ゲー少女は全身から力が抜けるのに気付いて慌てて振りほどこうとする。
しかし、力が入らず振りほどくことはできず、そのままHPを吸われ始めた。
「ちょ!? HP吸収攻撃!?」
「あたしは回復、あんたは死亡、楽しい楽しい激闘だァ、戦うごとに回復してくぜェ!」
「クソふざけたギミック付けてんじゃねぇわよ! どけっ!」
格ゲー少女を掴んでいた影の腕をマンホールで斬り裂く。
影は切り裂けたものの、ダメージはほぼ無し。
とはいえ格ゲー少女が拘束から解放されてその場にへたり込む。
「リテアさん、格ゲー少女よろしくっ!」
力尽きた様子の格ゲー少女の首根っこ掴んで放り投げる。
なんとかリテアパトラ7世が受け止め、それを確認したマイネはマンホールを構えて油断なくマイノグーラさんを見据える。
「捕まれば終わりって訳ね。楽しくなって来たじゃない」
「いいねぇ、あたし好みだよあんたァ。楽しく踊ろうかァ!!」
マイノグーラさんが影化した両手を伸ばす。
数メートルにも及ぶ影が物量を伴いマイネに襲い掛かる。
時に避け、時にマンホールで切り払い、変幻自在に襲い掛かってくる影をいなしていく。
「援護入るある!」
「ちょ、あんた近接系じゃない、触れたら終わりなのよ!」
「無問題ある、ヘイカモン、マイノグーラあるよ」
格ゲー少女に代わり、レイレイがタンク役に参加する。
遠距離攻撃がマイノグーラさんへと飛び交う中、鞭のように撓る影の腕を、光を放つ拳で受け止め、光る足で薙ぎ払う。
「えぇ。何それ!?」
「こういう直接攻撃できない相手専用の気功術ある! パリィタンクに徹するあるよ!」
「はは、なんかもうわかんないけどやれるならよろしくっ」
マイネの負担が少し減り、マイノグーラさんの敵が一人増えた。
「このままじゃちぃっと面倒か……」
そのため、マイノグーラさんも手を変え品を変え、彼女らへの対抗策を考える。
ちょうどその瞳にヘルハウンズと激闘を繰り広げるタツキたちが映る。
「おっとぉ、こりゃいい餌がいるじゃァねぇか」
マイネとレイレイを攻撃するように見せかけながら、徐々にタツキチームに近寄っていくマイノグーラさん。
ある程度近づいた瞬間だった。
「おにーさん、こっちむーいて」
「は?」
ちょうど視線の先にいたダイスケが振り向く。
投げキッスをするように、ソレを発動した。
「ま、マイノグーラさんっ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「ちょ!? ダイスケ!?」
外なる神に魅了された哀れな贄が走り出す。
マイネ向けて飛びかかって来たダイスケを即座にマンホールで迎撃。
しかし、意識を失ったはずのダイスケは白目を向いたままさらにマイネへと襲い掛かる。
「はいよ、もう一丁」
「あ、アミノサン、ぼ、僕は、僕はああああああああああああ!!」
「こっちくんな、邪魔!」
アパポテトも暴走したが、なぜかアミノサン向けて走り出す。
当然の如く十六文キックで撃墜、気絶したことでようやくマイノグーラさんの目的であったレイレイ向けて走り始めた。




