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589.第三回イベント、十七日目人形使いのスケルツォ

 ニャルさんにとって、この戦いは実際問題楽な戦いではなかった。

 すでにニャルラトホテプ戦を経験済みのプレイヤーたちは、ニャルさんの行動パターンや弱点を網羅している。そのために普通のニャルラトホテプとしての戦闘行為は彼らには通用しないのだ。

 実際、メリーさんとしての攻撃を加えた影移動攻撃などは通用しているが、ニャルラトホテプ単体での攻撃方法はほぼほぼ対処されていた。


 外の神なのに普通に戦っていてはプレイヤーに勝てない。

 しかもほとんどの行動を対処されているため下手にニャルラトホテプとしての動きを見せると一気に大ダメージを食らってしまう。

 現に、先ほど影に潜伏してから背後急襲攻撃はこちらを見ることなく防御され、反撃の連撃を叩き込まれそうになって慌てて影に逃げるしかなかった。

 まさか周囲のプレイヤーまですでに反応していて影から出た瞬間を見計らって一斉攻撃してくるとは思わなかった。

 しかも時間差の連撃だ。一度でも食らえばスタン中に全ての攻撃を叩き込まれてHPは一気にレッドゾーン。あるいはそのまま倒されていてもおかしくはなかった。


 つまり、余裕そうにみせているが実際は薄氷の上の綱渡りなのである。

 最初こそプレイヤーたちの油断を付いて一気に数を減らせたが、案内人を中心にまとまりを見せ始めたプレイヤーたちはニャルさんの行動をしっかりと見て対処し始めて来た。

 おかげで残り10人程になっているのに先ほどまでより死にそうになる回数が増えた。


「ミツヅリさんの確殺攻撃はここぞという時にお願いします。フェイントを入れるだけでも相手が警戒してくれますから適度にやっちゃってください」


「ああ、ニャルさんは確殺無効は持ってないからな。やれそうなら一瞬で決着をつけてやる」


 そう、それが一番怖い。

 ミツヅリが一番厄介なので最初に潰してしまいたいのだが、こいつに限って勘が鋭く影からの攻撃にも対処してくる。

 かといって案内人を狙うには周囲のプレイヤーが索敵特化で守っているので迂闊に近づけない。

 

 二人が一番の邪魔だが二人を倒すには周囲を潰さなければこちらが潰される。

 順番の問題だ。まずは取り巻き、ついで案内人、最後にミツヅリ。

 ミツヅリを先に倒すのは悪手だ。案内人によるバフが取り巻きを強化するのでシャレにならない。

 問題点としては案内人が死に際にバイアスロンを殺したバフを周囲に放つことだが、今回皆に守ってもらっており、前に出てくる気配がない。

 つまり、彼がスキルを使うには何かしら足りないものがあるのだろう。

 ならば彼を倒してもミツヅリがバフ盛になることはまずない。


 だからこそのこの順序。

 それ以外はおそらく死亡率が極端に高くなる。

 とはいえ、この攻撃順だって決して楽な道筋ではない。

 何より時間を掛ければ掛けるほど、死に戻り部隊がこちらにやってくるのだからたまったものではない。


「そろそろ動きのレパートリー尽きたかな?」


「案内人君に言われてパターン見てみたが、確かに決まった動きだな。これなら確かに対処は可能だ」


 気付かれた!?

 騙し騙しやっていたものの、自分がニャルラトホテプであることだけは隠しようがなかった。

 ゆえに、攻撃に対応されつつある。


「ニャルさん、そろそろギブアップしたらどうだ!?」


「ははは、面白い冗談だ。見給えプレイヤー君。押されているのはどっちかね。まだほとんどダメージを食らっていない私か、それともさっきから大量に死に戻っているプレイヤー共か!」


 当然、自分の方が押されている。

 そもそもゾンビアタックができるプレイヤーはどれだけ押されようとも物量無限。

 最初から負け戦なのだからこちらが押されているのは確実だった。


 つまり、これはもう、自分の死に場所をどこにするかの戦いなのである。

 ゆえに、芽里さんも自身の体が壊れるのを承知で戦場を駆け巡っているし、マイノグーラさんは眷属全召喚でパーティーを楽しむつもりらしい。

 ならば自分も、持てる限り全ての力を使い切って満足のいく死にざまを晒すのが一番なのである。


「とはいえ、真なる姿晒すにはちょっとHP多いんだよねー。もうちょっとこのままいきますかにゃー」

 

「ミツヅリ、そっち行ったぞ!」


「知っている!」


 冒険者たちが互いに連携している。

 少し前からさすがに対処されてきてプレイヤー側の死者が出なくなっている。

 隙を突いて懐に潜って鋏でちょきん、としたいところだが、懐に潜ることができないので攻めあぐねているところであった。


「んー、この形態だと奇襲かトラップしか使えないのが難点だよね。もう少しスキル増やしとけばよかったかな? っと、あぶな」


 ぎりぎりミツヅリの確殺攻撃を影に潜って避けきる。

 一瞬の油断が命取りになるミツヅリの攻撃は厄介だ。

 確殺攻撃もしばらくのチャージが必要になるとはいえ、チャージ時間が終ればまた使ってくるのだから厄介なのは変わらない。

 とにかく今は一度使われたのでダメージ覚悟でプレイヤーを削り、できるなら案内人も屠っておきたいところである。


「ちょっと、攻めるか……」


 安全策は不要。もとより死ぬのが確定しているのだから安全マージンを取る必要がない。

 ならば、とニャルさんは攻めに転じることにした。

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