588.第三回イベント、十七日目人形使いのシンフォニー
「ヒャハハハハ、たぁのしぃねぇ」
「ぜんっぜん楽しくないわよっ! くらえ!」
マイネの一撃が影を裂く。
しかしマイノグーラさんにダメージは通らない。
「物理無効!?」
「外の神関連ってなんでこう物理系無効が多いんですかね。私の活躍がっ」
「埴輪のレーザーは普通に効いてますよ?」
「ゴブリアの拳も普通に効いてるけど?」
どうやら物理でも一部はダメージが通るらしい。
プレイヤーたちはマイノグーラさんの実力を今の今まで全く知らず、ヒロキのチューブにステータス映像も映ってないので攻略はさぐりさぐり、ゆえに物理無効による削りダメージが入らないことは彼女たちにとって面倒なことこの上ない戦いとなっていた。
「クソ、ヘルハウンズ強い!?」
タツキ率いるプレイヤーたちは、マイノグーラさんが召喚したヘルハウンズやティンダロスの猟犬を相手取っていた。
ティンダロスの猟犬は苦戦こそするものの、すでに何度か倒しているため攻略法は確立されている。
しかし群れで襲い掛かってくるヘルハウンズには苦戦を強いられていた。
何しろティンダロスの猟犬並みに強い化け物が群れで連携して襲い掛かってくるのだ。
まさにパーティー対パーティーの戦いがそこかしこで繰り広げられていた。
タツキとしてはさっさと撃破してニャルさん撃破に加わりたかったのだが、手を抜いて勝てるような存在ではなかった。
「タツキ、行ったぞ!」
「またか!?」
真正面から自分より大きな犬型生物が飛びかかってくる。
血管のような赤い体を不気味に脈動させ、ヘルハウンズの一体が剣に噛みつく。
「くっ」
本来ならこれで剣ごと地面に叩きつけるところだが、すぐに真横に力いっぱい振る。
そこには側面からタツキに噛みつこうとしていた二匹目のヘルハウンズ。
ヘルハウンズ同士激突させるが、膂力がたらず大したダメージを与えられない。
さらに無防備になった体に向かい、三体目のヘルハウンズが逆側面から飛びかかってくる。
「やべ」
が、迫りくる牙に焦ったタツキの目の前でヘルハウンズが爆発。
爆裂札を投げたヒナギによりギリギリで助かったようだ。
ただ、安堵するような時間はなかった。
すでに二匹のヘルハウンズがすぐそばにいるのだ。
二匹とも、タツキを殺さんと左右に円を描くように移動を始めている。
タツキを前後から挟み撃ちにするつもりらしい。
「どんだけ高性能AIついてんだこいつら!? 俺らの隙狙って本気で殺しにかかってくんぞ!?」
「アミノサン!」
「あっ」
一瞬の油断。
タツキの背後から襲い掛かってくると思われたヘルハウンズが急に方向転換して後衛のアミノサンに襲い掛かる。
完全にノーマークだったアミノサンは逃げる暇もなく、顔面からアギトの中へ……
「グワゥッ」
次の瞬間頸動脈向けて飛びかかった人面犬がヘルハウンズに噛みついた。
驚き慌てるヘルハウンズ。もう一体のヘルハウンズが駆け寄ってきて体当たり。
二体のヘルハウンズに挟まれた人面犬が潰れて死亡した。
「じ、人面犬……」
「アミノサンを、助けたのか……クソ、あんな犬に出来て俺は……」
ライオンよりも一回り大きなヘルハウンズは、一体倒すだけでも一苦労。
プレイヤーも次々に死に戻り、戦いはマイノグーラさん有利へと傾きつつあった。
「うわ、もう始まってる」
「課題終わらせてたら時間食ったわ」
「なのだけ行くの悪かったから待ってたらこんな時間に、なのは大暴れする気分なの」
まるで決まりつつあった戦場に一石を投じるように、三人のプレイヤーが参戦する。
一人はマイノグーラさんに一直線に。
一人は弓を構えて角を伝って移動するティンダロスの猟犬に狙いを定め。
一人はダイスケに噛みついたヘルハウンズの首を刈りに。
「遅れてごっめーん。レイレイ参加するあるよーっ、ハイヤーッ!!」
側面からマイノグーラさんへと飛び蹴りを行ったのはレイレイ。
先ほどまで学校の課題により参戦出来なかったストレスを思いきり吐き出すように、影化する直前のマイノグーラさんをくの字に折り曲げる。
「がはぁっ!?」
勢い余って吹っ飛ばすレイレイ。
地面に着地すると即座に中国拳法っぽいポーズをとる。
「ったぁー、おいおい、いきなり蹴るたぁじゃじゃ馬じゃねーかよ」
「おー、なんか新キャラいるある。マイネさん、アレ誰あるか?」
「いや、知らないのに飛び蹴りかますなよ!? マイノグーラさんよ。十六日で見てるでしょ?」
「えぇ。影の人じゃなかったの!?」
驚くレイレイの背後では、ティンダロスの猟犬が次々眉間に確殺矢を突き立てられて散っていく。
「よし、ティンダロスの猟犬相手なら移動場所がわかるから確殺できるわ。私出来る子!」
「あっぶねぇ、助かったなのなのさん」
「なのはなのなのじゃなくてなのなの!」
さらに離れた場所では神出鬼没ななのによりヘルハウンズが面白いように首を狩られ始める。
形勢は一瞬で入れ替わり、ヘルハウンズの連携が崩れ始めていた。




