586.第三回イベント、十七日目人形使いのタランテラ
マイノグーラさん、ニャルさんとの闘いが始まった頃、残ったメンバーと激闘を繰り広げるのは、ただの人間AIであるはずの芽里さんだった。
手にするのは糸。
自分の指先だけで自分自身に張った糸を巧みに操り右に左に密集する弾幕攻撃を避けていた。
人が動ける限界を遠に越えた糸による強制移動。
当然体が付いて行けるかと言えばそうではない。
限界を超える加速と急制動は芽里さんの体すらも壊し始めていた。
「なんか、俺らの攻撃当たってないのにHP削れてね?」
「これ、もしかして糸を御しきれてないとか?」
「そりゃあんな人外にしかできない動き人体で表現してんだぞ、ちょっとでも失敗したら全身糸でぶつ切りになってもおかしくねぇし」
「急制動の時にところてんみたいなことになってないの凄いよな。俺だったらまず間違いなく体のどっか糸で切れて吹っ飛んでるぞ」
「糸使いの狂気を垣間見た気がするよ。って、逃げろ!」
「へ? あ……」
芽里さんが大振りに手を動かすのが見えてプレイヤーの一部が逃げ出す。
察しが悪かったプレイヤーが六つに分断されて死に戻った。
「あの糸攻撃にも使えるのか!?」
「そりゃ森の獣類から作った武器しか対抗できない糸だし、人体切ったら切れるよな? 芽里さん強すぎない!?」
「ナスさんって師匠呼びされてるくらいだし、芽里さんの上位互換、だったんだよな?」
「未知なるモノさん、実はナイスな行動してた!?」
「ホント、嫌になるくらい強ぇな。ナスさんならおそらく自分にダメージ受けずに高速移動に斬糸攻撃してくるだろうよ。死人を蘇しながらな」
「化け物だった!? よく勝った! 感動したっ!!」
「それより芽里さん無双どうすんだよ!?」
「ぎゃー!? 友人が目の前でなます切りに!?」
「糸の十連撃は無理だって!? 剣切れてるぅ!?」
「俺の棒が十六分割に!?」
「卑猥のこと言ってんじゃねー。なんでこん棒持ってきてんだ、馬鹿か!?」
「こん棒じゃねぇ! ヒノキの棒だ!! 間違えんな殺すぞ!」
「どうでもいいわそんなもんっ」
芽里さんが大空へと飛び上がり、ぎゅんっと前面へと飛び込むと。ぎゅばっと真下に垂直落下。
自身のスピードを使って糸を引き、斬糸によりまたプレイヤーを数名光に変える。
「ナス師匠とメリーさんの分まで、生き残る。絶対に、負けてやらないからっ」
地面に着地すると同時に両手の糸を使って踊るように周囲を切り裂く。
(V)o¥o(V)がとっさにナイフで糸を切ったものの、それ以外のメンバーが一瞬で数十名死に戻る。
「これアカンやつや!?」
「芽里さんの範囲攻撃とか大損害なんですがこれは!?」
「うひょぉ、死山血河の地獄絵図や!」
反撃を行うプレイヤーたちだが、範囲攻撃を放った芽里さんが即座に空へと逃げ去る。
真後ろに飛び跳ねるように伸身スワンを披露しながら、芽里さんが離れた場所へと逃走。
目で追ったプレイヤーたちをあざ笑うように高速ピンボールのように跳ね回り、彼らの包囲から逃れてはプレイヤーを切り裂いていく。
「クソ、芽里さんなら勝てると思ったのに! こんな化け物だったとか聞いてない」
「化け物っていうか、無理矢理化け物みたいな動きしてるだけでどんどん自壊してるからな。でもめっちゃ強ぇ」
「フェノメノンマスクさんなんとかしてよっ」
「無茶言うな。さすがに爆発させても爆発範囲からすぐに逃げる奴相手にダメージを与えられるもんか!」
「勇者ブレイド、そっち行ったぞ!」
「くぅっ! 武器が糸に絡め捕られるっ」
「芽里さん、俺が相手だっ!!」
未知なるモノが前に出るが、芽里さんは呼応することなくすぐに軌道を変えて別のプレイヤーへと襲い掛かる。
確かに、未知なるモノは脅威だ。
脅威ではあるがまだ100人以上いるプレイヤーたちの中で真っ先に狙うべき存在ではない。
強敵であるからこそ、むしろ放置して削っていかなければならない。
「こっち来た!」
「俺目で追い切れてな、あぎゃ!?」
「ちょ、押さないでって、ぎゃぁ!!」
数が多いことは必ずしも有利ではない。
どうしても密集するためとっさの動きについていけない者がでるのだ。
そしてそこから全体に波及していく。
動きが悪くなればそれだけ停滞が生まれ、芽里さんの付け入る隙になる。
徐々に外側から削られていくプレイヤーたち。
ただ、芽里さんとしても無傷というわけではなく、半分のプレイヤーを削る頃には、自分の体力もまた、四分の一ほど自分自身で削ることになっていた。
「ふぅ、ふぅっ」
少し離れた場所に着地し、息を整える。
指先が震えている。
芽里さんの華奢な指先は糸を操るためのリングを装着しているものの、動かし過ぎて紫色に変わりはじめていた。
「まったく、ここまでリアルに寄せなくてもいいのに。嫌になるわね」
ため息一つ。
無数の矢が飛んできたため休憩を終えて再び突撃を行う芽里さんだった。




