582.第三回イベント、十七日目人形使いのプレリュード
昼の部、十七日目のイベントが始まった。
「そういえば朝なのにだぬさんいなくなかったか?」
「別のルートにいたんじゃないか?」
未知なるモノは勇者ブレイドたちと共に、再び芽里さんステージへと向かっていた。
前回イベントでの失態を踏まえ、少人数ではなく小規模ながら部隊を率いての進軍である。
とはいえ多くなりすぎても瓦解してしまうので、出来るだけ知り合いを集めたのである。
そのため、マイネもまた、ここに参加していた。
「ふっふー、未知なるモノさんが敗北した相手を私が倒しちゃうとか、これはもうマウント取れってことよね」
「メリーさんは俺の捕食スキルと相打ちになってるはずだからもういないと思うぞ」
「マジで!?」
「互いに食い合って対消滅したんだ。正直俺の悪食と同等とか言うだけでも異常だぞメリーさん。アレホントなんなの?」
「それ、多分未知なるモノさんに対するメリーさんの気持ちでもあると思いますよ」
「案内人も結構やらかしてんだよなぁ。バイアスロン倒したんだって?」
「僕が倒したわけじゃないですよ。バフは振りまきましたけど、皆さんが頑張ってくれたおかげです。僕は早々死に戻りましたし」
「いや、死に戻りも何も強化バフ振りまいて強者で囲うとかえげつない置き土産だろ」
「バイアスロン一気にダメージ受けてたもんねあのメンバーの総攻撃で」
「マイネさんはそれ見てないでしょ。カルカさん相手で精いっぱいだったじゃないですか」
「何言ってんの案内人君。私ちゃんと見てたし。ちゃんとバイアスロンの死亡時に敬礼もしたわよ。一瞬だったけど」
「あの状況でよく余裕ありましたね」
雑談をしながら広場前までやってくる。
広場の中にはたった三人が待っていた。
前回イベントでは影でしかなかったマイノグーラさんだろうか?
小柄な美少女が頬杖ついて寝転んでいる。
「お、やっぱ来たかー」
「三人しか残ってないしルート的に死にルートになってるから見逃されるかと思ったんだけどにゃー」
またもメリーさん人形に変化しているニャルさんが地面に置いていた大きな鋏を手にして構える。
「やれるだけやる。ここは私がいる限り通しはしないわ。覚悟はいいわねプレイヤー」
「当然だ。あんたらを倒して後顧の憂いを断つ。勝負だ芽里さん、ニャルさん、マイノグーラさん」
本来、このルートを攻略する必要性はもうない。
他のルートが解放されているため、先に進もうとするのなら、ヘンリエッタさんが待つ広場へと向かえばいいのだ。
ゆえに、この芽里さんステージは放置しても問題はないはずの場所である。
それでも、未知なるモノたちは意地でもここを解放するつもりだった。
「しかし、たった三人相手にその人数は卑怯臭いような?」
「はは、ご機嫌だぜぇ従姉妹。いいじゃねぇか寡兵で軍を壊滅させる。そういうの大好きだァ」
「マイノグーラさんめっちゃ美少女なのに言動がひどすぎない?」
「不良系美少女ありがとうございますっ」
「男心を石化させるとは聞いてたけど、これはヤバいっす」
「なるほど、それってマイノグーラさん男性特攻持ちかもしれないわね。格ゲー少女、リテアパトラさんだっけ、女性陣でマイノグーラさん撃破しましょ」
「了解です!」
「まぁ乗り掛かった船だし、ご一緒するわ。ポチも一緒だしね」
「わFu」
古代ロボの犬型生命体がやる気を見せる。
前回イベントでは早々に撤退してしまったので見せ場がなかった。ゆえに今回はやる気十分なのである。
「よし、じゃあタツキ君。オレたちはニャルさん撃破を目指そうか」
「全員揃ってますし、前回みたいに玉虫色の液体に溶かされたりはなさそうですからね。全力尽くします!」
ミツヅリはタツキチームたちとともにニャルさん攻略に取り掛かる。
「いいかフェノメノンマスク、芽里さんの移動速度は意味不明だ。遠いと思って油断してると一気に狩られるぞ」
未知なるモノを筆頭にフェノメノンマスクや(V)o¥o(V)は芽里さん攻略へと着手する。
三分割されたメンバーだが、かなり精鋭が選ばれている状況だ。
芽里さんたちもそれを理解したらしく、表情は厳しい。
「覚悟はいいな芽里さん。行くぜ!」
未知なるモノの号令で一斉に動き出すプレイヤー陣営。
即座に芽里さんは糸を使いプレイヤーの操作を開始。
(V)o¥o(V)から配られた武器を手にしたプレイヤーの一部が糸を切り裂いていく。
「うぐ、早速スキルの一つが無力化されてる……」
「芽里さんの操り攻撃が一番戦局を左右するからな。最初に潰させて貰う」
「いいわ、これだけが私のスキルじゃないもの。全員まとめて……晒し首にしてあげるっ」
自身に糸を纏わせて、芽里さんが一歩を踏み出す。
次の瞬間、弾丸の如くはじき出された芽里さんがプレイヤーの群れへと突っ込んだ。




