577.第三回イベント、十六日目絡繰決戦5
ぷらん、と未知なるモノが揺れていた。
ニャルさんのガリートラップにより首に見えない糸を巻き付けられて宙吊りにされたのである。
当然、首だけで空に上げられたため、自分の体重が全て首に掛かって自然と首が締まっていく。
ゆえに、本来普通に人間であれば、窒息死しているところであったのだが、それは未知なるモノにだけは当てはまらなかった。
死亡の心配はないが、せっかくニャルさんが勘違いしているようなので、未知なるモノは宙吊り状態で思考する。
このままニャルさんを相手していてはじり貧だろう。
格ゲー少女は押しているように見えているが、マイノグーラのHP自体は全く減ってない。
おそらくだが物理無効か何らかのスキルを発動させているのだろう。
つまり、完全に遊ばれているのだ。
ならば格ゲー少女がマイノグーラを倒すことは期待しない方がいい。
ではニャルさんを倒すのか、と言えばそれもどうもしっくりこない。
おそらくこのままニャルさんを相手取っていれば、緩慢な全滅が待っているだろう。
だから、ここで狙うべきはニャルさんでもマイノグーラさんでもない。
最大限にチャージ発動。
ぷらぷらと揺れるように、死にかけているように、油断させ、注意の逸れた一瞬に。
口から怪光線、発射!
「にゃんとぉ!?」
口から吐き出された極太光線が、完全に油断していた芽里さん向けて放たれる。
守るべき存在のない彼女は、こちらを見ていなかったせいで反応まで遅れていた。
気付いた時にはもう間近に迫っていた時で、回避は間に合わない。
限界までチャージしたので威力申し分ない。
この一撃ならコトリさんすら一撃死させることが……さすがに無理かもしれないが大ダメージは与えられるだろう。
「き、きゃああぁぁぁ―――――っ」
芽里さんが絶体絶命に気付いて悲鳴を上げる。
そして……
「あ―――――――っ、あれ?」
怪光線を吐き出し終わり、俺は芽里さんの死亡を確信する。
が、光が過ぎ去った場所には五体満足の芽里さんが目を瞑って尻餅ついていた。
「馬鹿な!? 無傷!? いや……」
違った。
芽里さんは無事だった。
そいつが芽里さんの前に躍り出て怪光線を自分で受け止めたから。
そう、芽里さんを助けるために、ナスさんが自らを囮にしたのである。
「な、ナス、師匠?」
「戦場で油断しちゃ、だめよ芽里」
さすがに、ナスさんでもチャージ済みの怪光線は耐え切れなかったらしい。
そのまま光に変わっていく彼女を見つめながら、放心したように手を伸ばす芽里。
ナスさんもそれを握って安心させようとするが、触れ合う寸前、ナスさんが消滅した。
ナスさんの消滅と共に場を支配していた死霊たちが死体へと戻っていく。
一定時間が過ぎた死体から、光となって消え始めた。
「うっそぉん!?」
「未知なるモノさん、ナイスです!」
「リビングデッドが居なくなった。ミツヅリ、ニャルは任せる」
「了解、未知なるモノさんが戻るまで相手します!」
「狙撃で補助する」
(V)o¥o(V)とミツヅリが即座に自分がやるべきことを把握して動き出す。
ヒナギも死人が居なくなったことで神聖魔法から札による爆散に変えてニャルさんやマイノグーラさんへの遠距離攻撃に切り替えた。
「おいおい、こりゃフルボッコされてる余裕ないじゃねぇか!? どけっ」
「ひゃん!?」
馬乗り状態だった格ゲー少女を持ち上げ投げ飛ばし、マイノグーラさんが立ち上がる。
ニャルさんもその隣にやって来て、困った表情を作る。
「どーするよ、ゾンビいなくなったぞ」
「さすがに残り三人じゃ持たないな」
ゾンビは消えて、人形も殲滅済み。
「撤退か?」
「それしかあるまい」
二人揃って逃げようとし始めたので、未知なるモノはガリートラップを切り裂き落下。
ミツヅリも槍を携えニャルさんへと走る。
起き上がった格ゲー少女もマイノグーラさんへと駆け寄り、二人の足止めをすべく、無数の札が襲い掛かる。
「あ、やば、この札麻痺付与……」
「マイノグーラ!? 君のことは忘れない、さらば!」
「逃がさん」
(V)o¥o(V)の狙撃がニャルさんの眉間を貫く。
しかし無貌の神は額に風穴が空いたまま走り出す。
そこへ、未知なるモノが落下してきて食らいつく。
「ぎゃあぁ!? 神を食おうなんて不届きすぎぃ!?」
「貰うぜ外なる神因子、そしてお前を……あ、れ?」
噛み千切ろうとした自身の体が、自分の意思とは別に動き出す。
ニャルさんから離れ、かくかくと動きながら格ゲー少女向けて走り出した。
「ちょ、なんだこれ!?」
「いかん、繰糸術だ!」
(V)o¥o(V)の声に未知なるモノは思わず見た。
視線の先に、見えない糸を操り始めた芽里さんを捉える。
「クソ、まだ芽里さんはやる気だったか!?」
「待っていろ、今糸を切る!」
ミツヅリが慌てて糸を切ろうとするが、彼の槍では糸を切るに至らない。
(V)o¥o(V)が腰元のナイフを引き抜きフォローに向かう。
しかし、操られた未知なるモノがミツヅリを撃破する方が早かった。
ナイフで糸を切り裂くも、また一人犠牲者がでてしまったのである。




