574.第三回イベント、十六日目絡繰決戦4
「ニャルラトホテプの、従姉妹? そんなの居たか?」
「確かですけど、居ました。えっと、マイノグーラでしたっけ」
「せぇかぁい」
マイノグーラさんがにぃっと赤い笑みを見せる。
影に口が現れ、真っ赤な口が笑みへと変わったのである。
見ているモノが不快に思う微笑みに、SAN値がごっそりと削られる。
「そんじゃま、ぼちぼち始めようかァ?」
「蹂躙するぜぇ、プレイヤー共、楽しませてくれよォ!」
姉妹揃って口調がやられ役の下っ端臭い気がしなくもないが、実力自体はかなり強い。
未知なるモノも格ゲー少女もヒナギを守るようにして二体の外なる神と対峙する。
「何をしてるんですか! ゾンビの対処ができてませんよ!?」
「まったく世話の焼ける」
ゾンビの合間を縫うように、粉砕し、(V)o¥o(V)とミツヅリが合流する。
「こっちはほぼ全滅。死に戻りチームが戻るまでこのメンツしかいませんよ」
「まさに世紀末、現実には体験したくないな」
そんなことを呟きながら、二人揃ってヒナギの警護に付く。
一番ゾンビに有効なスキルを持っているのがヒナギなので、彼女を最後まで生かす算段らしい。
「未知なるモノさん、我々でゾンビを何とかしてみますが、早めにその二人倒してください、じゃないと、全滅します」
「全滅確定なのかよっ。クソ、ニャルさんとマイノグーラさんだっけか。格ゲー少女、行けるか?」
「行けなくてもやらなきゃですよね! ええい、女は度胸! 全力でぶっ倒します!」
「よく言ったァ! アタシが相手してやんよぉ」
「おっと、じゃあ未知なるモノさんは私とかね。お手柔らかに頼むぜェ」
「面白い冗談だ」
影の従姉妹が動き出す。
互いに戦う相手に向かい、そしてナスさんもそれに気付いたようでゾンビたちが二人を狙わないようにする。
一対一での戦いに集中させてくれるらしい。
格ゲー少女は少し安堵する。
ゾンビに囲まれながら未知の塊であるマイノグーラさんと激突するのは避けたいところだったのだ。
後顧の憂いが立たれたことで格闘少女は気合を入れる。
ここでマイノグーラさんを撃破出来れば大金星だ。
拳を握り、腰溜めに構える。
影に向かって一気に跳躍。
格闘スキル総使用で拳を突き出す。
「おっと近接格闘系か。んじゃそれに合わせて人型で勝負」
正直舐められている。
そう思ったが悔しくはなかった。
むしろこちらを舐めてくれているなら儲けもの。今のウチに致命的な連続攻撃でハメ殺してやる。
基本的な攻撃を加えながら、致命的な隙が出来るのを待つ。
向こうは戦いを楽しみたいようで、こちらの動きに合わせて格闘戦を挑んできている。
だから、気付かれない間に罠に落とす。
「っと、蹴りが上段から中段に変わるのか!? これは驚き」
「シッ」
拳を突き出す。
パシリと手で払われる。
しかし外への弾きではなく内側への弾きだったのでそのまま踏み込み肘打ちに変更。
「ありゃ?」
再び弾かれる。
さらに一歩、肩で体当たり。
「お、っとと?」
体勢を崩したのを見計らい、軸足を残して蹴り上げる。
回転蹴りが側面から襲い掛かる。
さすがに驚いたようで慌てて防御するマイノグーラさん。
軸足を蹴り上げ、受け止められた蹴りの上からマイノグーラさんの頭蓋を狙う。
「嘘だろ!?」
ぎりぎりよけられた。
ただ、格ゲー少女は軸足を蹴り上げた瞬間体重全てをマイノグーラさんに預けていたため、避ける拍子にのけぞったマイノグーラさんに全身で押しつぶすようにぶつかることになった。
倒れたマイノグーラさんに体勢を入れ替え馬乗りになる。
焦るマイノグーラさん向けて、容赦なく顔面に拳を打ち込んでいく。
「悪魔かな?」
「修羅がいる……」
「マイノグーラがフルボッコ。格ゲー少女と戦わなくてよかったぁ」
「お前も似たような状況になるんだけど、なっ!」
安堵の息を吐くニャルさん向けて、未知なるモノが襲い掛かる。
「ぬぅっ!? 人としての動きじゃない!?」
「うるせぇ! 一応人だ!」
腕が鞭のように撓りながら襲い掛かる。
ニャルさんは驚きつつも未知なるモノの一撃を避ける。
影の人型向けて、すぐに息を付かせぬ連続攻撃。
逆の腕に巨大な三つ爪を生やし側腕部に魚のヒレのような鋸状の武装を生やす。
鉤爪の一撃を避けたニャルさんに鋸状のヒレが襲い掛かる。
「いぃっ!? 当たっただけで削られそう!?」
「せっかくだから食らっていけや!」
「誰が食らうか」
「ならこいつは、どうだっ」
口から怪光線。
まさかの一撃にニャルさんは……
「深淵の波動」
奥の手を即座に切った。
クトゥグアの攻撃以外を弾く波動がニャルさんから放出され、破壊光線を無効化する。
まさかの波動に驚く未知なるモノ向けて、ニャルさんの反撃が襲い掛かる。
「ガリートラップ!」
ぐぃっと引っ張られるように、未知なるモノが真上に引っ張り上げられる。
首吊りのトラップが発動し、未知なるモノが宙づりにされたのだった。




