573.第三回イベント、十六日目天使決戦4
「キマリスさん無双が止まりませんなーっ」
自分で言って天狗になっているキマリスさん。
プレイヤーたちとしても忸怩たる思いがあるモノの、キマリスさんは無駄に強いので倒すに倒せないでいた。
もちろん、プレイヤーだってただ倒されるだけではない。
奇襲だってしたし、群れで襲ったりもした。
必殺に次ぐ必殺でハメ倒そうとしたりして、その悉くを回避されて真っ二つに切り裂かれるのだ。
解体マジックによる死に戻り禁止攻撃のせいでいたずらに無力化されたプレイヤーが増えている。
手の空いたプレイヤーによって死に戻りはしているものの、復活するメンバーよりも地面に横たわるメンバーが増えており、プレイヤー側の戦力は目に見えて減り始めていた。
「クソ、天使や悪魔だけならまだ打つ手があるのに……」
「キマリスの死に戻り禁止攻撃なんとかしないと」
「でも、どうしろと? キマリスのレベルだけ突出してるわよ。なんであんなのテイム出来てんのよ!」
「初見は魔法陣だったし、そこまで関わりなさそうだったのになぁ、頭は悪そうだったけど」
「つまり、ヒロキに口で丸め込まれてテイムされた奴か。不憫な」
「不憫とかいうなーっ、ボクはテイムされたんじゃない、テイムされてやったんだいっ」
ふんぬっとプレイヤーを真っ二つに切り裂き、キマリスさんが躍る。
その動きは舞でも舞っているような見る者を魅了する動きでありながら、どこか滑稽さも併せ持っていた。
本人がピエロ姿なのも相まってサーカスの出し物にしか見えない。
「キマリスさん、お覚悟ーっ」
「確殺いくないっ」
たまに現れる確殺攻撃持ちの一撃を避け、彼を縦に半裂きする。
「こっちも忘れちゃダメっすよー」
プレイヤーたちにとってはキマリスさんが一番危険な存在だが、ルースさんもまた、無視するわけにもいかない存在だった。
高所から遠距離部隊を狙い撃ちしてくる天使に、対抗する術がなくプレイヤーたちにはどうすることも……
「レーザー照射ッ!」
埴輪を両手で抱えたリテアパトラ七世がルースさん向けてレーザービームを放つ。
油断していたルースさんは、あ、やばっと気付いた時には回避も難しく、無防備なままレーザーの直撃を受ける。
「ちょぉい!? 何してんだそこの阿保天使!?」
「がふぅっ!? 今のは効いたっす」
なんとか生きてはいたものの、翼を打ち抜かれたらしくひょろひょろと高度を下げていくルースさん。
これはチャンスと残っていたプレイヤーはキマリスさんを放置してルースさんへと殺到する。
「ぎゃー!? ヘルプっすー!?」
「助っ人に来たのに助ける相手が死んでたら意味ないじゃーん!?」
プレイヤーの群れに殺到され、逃げる手立ても失ったルースさんが私刑に処される。
光となって消えているルースさんに、天使たちは空へと向かう。
「呼び出した天使が居なくなったので我々は帰還する」
「ぽぁ!?」
「あー、天使帰るのかよ。じゃー俺も帰るかー」
「なんか白けたな」
「んじゃー、後任せたー」
ルースさんの敗北を機に、天使が空へと帰還を始め、悪魔が魔法陣から魔界へと帰還していく。
あとに残されたのは……キマリスさんだけだった。
「うぉぉぉい!? さっきまで押せ押せだったじゃーん!? なんでこんなことに!? なんでこんなことにっ!? ルースさんかむばーぁっく!?」
「敵は、一人……」
「俺ら、いっぱい」
「殺す、コロスゥ……」
四方八方プレイヤーに囲まれて、逃げ場も何もないキマリスさんが一人その場に取り残される。
「うそやーん!?」
「死力を尽くせ!」
「一人だけでも強いぞ!」
「だがコトリさん程じゃないはずだ!」
「囲め、囲んで潰せ! とにかくダメージを蓄積させるんだ」
「反撃の時、来たれり!!」
プレイヤーの群れが突撃する。
キマリスさんとてさすがにこれは不味いと理解はするが、やるしかないので一人プレイヤーの群れへと躍りかかる。
先ほどまでの余裕はすでになく、斬っては避け斬っては避け。
しかし、先ほどまで悪魔や天使によって分散していた戦力が一つに収縮したことで手数がたりなくなり、徐々にダメージを受け始める。
「いや、あきまへんて! さすがに多勢に無勢でっせ。ボクの真価は団体戦で発揮されるんだって! 何でこんなことになってんのぉぉ!? 少年君誰か助っ人寄こしてぇぇぇ! らめぇぇぇ逝く逝く逝っちゃう、マジ死んじゃうぅぅぅ――――っ!!」
『すまないキマリスさん。そこの援軍はそれですべてだ』
「ちくしょぉ。後で珍しい肉寄こせよーっ、じゃないと恨むからーっ。キマリスちゃんの最後っ屁、破滅の涙ァーっ」
それからしばし、一人のピエロがプレイヤーの波に押しつぶされる。
最後に一滴、天使と悪魔に裏切られた道化師の涙が地面にこぼれた。
そして……その場にいたプレイヤー全てが死に戻った――――




