570.第三回イベント、十六日目絡繰決戦3
「うっそ、メリーさん散った!?」
「ありゃー、あいつ油断したな。生まれたばっかだからプレイヤーを甘く見過ぎたんじゃないかなぁー」
「ニャルさんも結構甘く見てますよね?」
「ん。ニャル上から目線」
「だってあちし外の神だしー。ナスさんのおかげでこっちは余裕あるし」
「はぁ……これ絶対油断して倒されるフラグよね?」
「私は気を付けてる。芽里も気を付けて」
「でも、メリーさんの抜けた穴はちょっといただけないねぇ。しゃーない。ナスさん芽里さんここは任せた
」
最高峰で糸を操るだけの芽里さんとナスさんをその場に置き去りにし、ニャルさんが動き出す。
プレイヤーたちは未だ気付いてない。
それもそのはず。今のニャルさんはメリーさん同様小さな人形に扮しているからである。
ゾンビたちの足元を駆け抜け、ニャルさんが迫る。
さすがに人形なので歩みが遅く、途中で飽きたニャルさんは影にとぷんっと沈むように黒いナニカとなって疾走する。
プレイヤーたちの近くまで這い寄ると、ソレは人形へと形を変える。
「ヒャッハー!」
「え? なんでメリーさんが!?」
「ダイスケ油断はダメ!」
タツキが自分を犠牲に倒したはずのメリーさんが大バサミを持って躍りかかる。
驚くダイスケは一瞬反応が遅れ、アミノサンの注意空しく切り裂かれる。
「馬鹿ダイスケが散った」
「タツキ君チームは君とヒナギさんだけになったな。メリーさん復活とかありえないし、アレはニャルさんでいいのか?」
「メリーさんだろうがニャルさんだろうがやることは変わらないでしょ未知なるモノさん」
すでに未知なるモノチームは半数が死に戻っている。
残っているのは未知なるモノ、格ゲー少女、アミノサン、ヒナギの四人だけ。
他は全てゾンビとメリーさんにより脱落してしまい、今は死に戻りからこちらに向かっている最中だ。
さすがに距離があるのでここに戻ってくるまでかなりの時間が掛かる。
問題は、自分たちが増援まで生き残れるかだが、その生存率もゾンビだけの時とくらべ、ニャルさんが参戦するとなると怪しくなってくる。
「行くぜひよっこども。ここから先は這い寄る人形さんの出番だぜぇい」
ターンッ
ニャルさんが未知なるモノ向けて飛びかかろうとしたその瞬間。
離れた場所から銃声一つ。
ニャルさん人形の後頭部からそれは貫通し、額に一つの穴を穿つ。
(V)o¥o(V)による狙いすました一撃がニャルさんを狩り取った。
「えぇ、戦いに来て一瞬なの!?」
ぱったり倒れたニャルさん人形。ゾンビたちに踏まれてその姿が消えていく。
「ニャルラトホテプだしな。前回の戦いでしこたま倒したからこのくらいなのは仕方ないんじゃないか?」
「いや、でも、こんな瞬殺でいいの?」
「いいんだろ。ニャルさんだってそこまで無敵じゃないわけだし」
「それもそうね。ゾンビの撃破に注力しま「アミノサン後ろっ!」え?」
ヒナギが一番に気付いた。
しかしアミノサンは背を向けていて気付けなかった。
ゆらり、人型に起き上がった黒い影。
這い寄る混沌は銃弾一発程度で殺すことはできない。
人型を取っていてもソレはソレ全てが這い寄る混沌であるがために脳を狙おうとも無意味である。
ゆえに……
アミノサンが奇襲を受けて死に戻る。
「なっ!? 死んでなかったのか!?」
「ニャルラトホテプの擬態か!」
「さぁあてと、ここから先は混沌の戦いだ。人形はいらないらしいからなぁ、覚悟はいいかァ野郎ども。そんじゃぁ、イカレた従姉妹を紹介すっぜぇ」
「あ?」
影の人型がニヤつくように笑う。
未知なるモノたちは意味が分からず怪訝な顔をするが、ニャルさんは気にせず両手を真上に掲げた。
「カモン、我が従姉妹。今宵は楽しいイベントだぜぇ!!」
口調が人形の時と違う。未知なるモノはそんなことを思ったが、それは今、どうでもいい事だった。
それよりも緊急事態。
もうさすがに助っ人はないだろう。
そう思っていた彼らの前に、さらなる影が産み落とされる。
次元の裂け目から漆黒の生卵でも落とされたように、ソレ、はニャルさんの隣にぷるんっと落下してきた。
地面にべちゃりと落ちると、すぐにぐにょんと伸びあがり、伸びすぎたのかすぐに縮み、伸縮を繰り返して徐々に理想の長さに変わっていく。
やがて人型大に安定したソレは少女型へと姿を変える。
「ギャーハーッ、久しぶりぃ従姉妹ォ。アタシが暴れられる場所があるってェ?」
少女型の影は楽しそうに笑う。
見ているだけで頭がおかしくなりそうなソレは、目元に眼球を作り、周囲をぎょろりと見回した。
「殺し合いのイベントにしちゃ相手が少ない気がするが?」
「向こうは無限死に戻り、こっちは一度死んだらはじき出される、プレイヤーたちはまだまだ来るぜぇ」
「そりゃぁご機嫌だぁねぇ!」
影の少女は嗤うとともに、近場にいた未知なるモノへと手を伸ばす。
ぼぅっと見入っていた未知なるモノはぎりぎりでこれに反応して受け止めるのだった。




