564.第三回イベント、十六日目正義の味方決戦2
「うわ、凄いなこれ」
案内人が戦場にやって来た時には、正義の味方、闇組織のグラサンスーツ、プレイヤーが入り乱れて乱戦となっていた。
グラサンスーツは数が少なく、あと十体もいないが、プレイヤーたちが彼らを破壊しようとすると正義の味方に邪魔されて死に戻るようになっていた。
案内人はつぶさに観察して状況を把握。
一番厄介なカルカさん、ではなく補助に徹していて一番厄介な動きをしているスレイさんに狙いを定める。
実際、この戦場で一番プレイヤーを倒しているのはカルカさんだし、獅子奮迅の激闘を繰り広げているのは正義の味方だが、その二つの軍勢を無駄なく連携させ、危なそうな場所に的確な戦力を送り込んだり自分の触手で邪魔したりしているのは、スレイさんである。
プレイヤーたちはただ触手トラップがやっかいだと認識しているだけのようだが、少し離れた場所から見た案内人は、スレイさんこそがこの合戦上の肝であると理解する。
「僕がどうこうできるかはわからないけど、これで多分行けるはず」
タイミングを見計らい、戦場に参戦。
一番遠距離攻撃が多く飛び交った瞬間、自らのスキルを発動させる。
「数多のモノよ、此へ集え!!」
別の誰かをターゲッティングされて放たれた無数の遠距離攻撃。
その全てがツアーコンダクターに案内され、一人の怪人へと収束する。
「ふぇ?」
全体を把握することに躍起になっていたスレイさんは気付けなかった。
一番最初に気付いたカルカさんが叫んだことで、自分に飛来する無数のナニカに気付く。
空を見上げ、飛んでくるソレを理解して、意味が分からず変な声を漏らす。
そんな怪人少女へ、無数の遠距離スキル、魔法、弾丸が降り注ぐ。
「スレイリーア!?」
さすがに一斉射撃は想定していなかったのだろう。
防御態勢にはなったものの、体力ゲージはレッド。
対応しきれずHP全損となったスレイさんが光の粒子と化して消えていく。
「おおお!? スレイさん撃破!? 誰だ今の!」
「あっ、あそこ、案内人だ! 案内人がやってくれたぞ!」
敏いプレイヤーに名指しされ、カルカさんの注目を浴びることになった案内人は冷や汗をかく。
他のプレイヤーたちを放置して、カルカさんが一気に駆けだした。
「あ、ヤバい、注目に晒されすぎ……」
「死ねッ」
憎悪をまとった渾身の一撃。
迫る鞭に避ける隙などなく、案内人は無防備にやらかしてしまったことを悔いて……
ガァンと金属音が響き、鞭がマンホールにはじかれる。
「マイネさん!?」
「よくやってくれたわ案内人君。カルカさんはこのダークマイネに任せて!」
だーく? 一瞬困惑したものの、ひとまずマイネさんにお任せしてプレイヤーたちの波間へと逃げていく案内人。
人込みに紛れて指示出しに徹することにしたらしい。
「どけマイネ!」
「おやおや、悪の首領様が随分と焦っていらっしゃいますねぇ。妹が倒されたことがそんなに許せないわけ?」
「黙れっ」
「姉妹愛とか悪役にはいらないのよっ、役に対して役不足よカルカさん!」
「調子に乗るな、雑魚が!」
「誰が雑魚だクソがッ!!」
売り言葉に買い言葉、激昂した二人は取っ組み合いの喧嘩を始める。
キャットファイト、など生易しい激闘に、周囲からプレイヤーも正義の味方も遠ざかっていく。
「助っ人に来たのに助ける相手が居なくなったら助ける意味がないんじゃないか正義の味方!」
「助ける相手が命を落とそうと、彼女のために戦うと決めた、ならば最後まで戦い抜くまでだ!」
そしてプレイヤーと正義の味方の激突もまた激化していく。
ただ、スレイさんの補助がなくなったことで徐々にだが正義の味方の脱落者が増え始めた。
バイアスロンもこの事実に気付いたようでいろいろとフォローを始めるのだが、スレイさんが居た時よりもフォローの厚みはなかった。
「行ける、行けるぞ、スレイさんが居なくなった瞬間敵の動きにばらつきが出始めた!」
「そうか、スレイさんが隙間を埋めてたせいで倒し切れないことが多かったのか」
「案内人君ナイス! 値千金の働きだぜ」
「っしゃ、魔法使いフトシ撃破! 女性から切り離せば雑魚じゃねーか!」
「周囲に女性が多いほど強くなるとか、俺もそのスキル欲しかった」
有名な正義の味方も徐々に倒され始めていく。
ゾンビアタックという切り札を連発できるプレイヤーたちを相手にさしもの正義の味方も苦戦を強いられ始めていた。
「カルカジーナは何を遊んでいるんだ」
「グラサンスーツが残り一体だバイアスロンさん」
「まさかプレイヤーがここまで強いとはな。全員、敗北は濃厚だが、逃げたい奴は逃げていいぞ。撤退も判断の内だ」
「はっ、おいおいバイアスロンさん、誰に向かって言ってんだ?」
「そうよ。私たちは正義の味方。敵を前に撤退なんて……」
「「やるわけないだろ!!」」
正義の味方たちは覚悟した。
ここで散ることを理解して、己の信念にかけて全力を尽くすことを、覚悟した。
「西洋幽連隊ハロウィーズ、全力全開、必殺放つわ! 全員集合!!」
各所でチーム系戦隊が集まりだす。
彼ら得意のチーム技が、プレイヤーたちへと牙を剥くのだった。




