563.第三回イベント、十六日目奇襲粉砕
「はは、ようやく森が元に戻ったぜ!」
「森っつーか焼け野原だけどな」
中央ルートすぐそばの森を、一部のプレイヤーたちが走っていた。
もともと奇襲する予定だった彼らは、他のルートを通ることなくひたすらまっすぐ、直進ルートのすぐ横にある森の中を疾走していたのだ。
今までならばアイネさん率いるアベイユ星人狩猟部隊により刈り取られる命でしかなかったが、森は焼け野原、アベイユ星人狩猟部隊は壊滅、森のスリップダメージもなくなり、ようやく奇襲部隊として本来の使命に動き出していた。
すなわち、他のプレイヤーが律儀にルート通りに行く間に、彼らは森を抜けてヒロキへの集団奇襲を目指すのである。
途中中央ルートの広場に出そうになるが、そこだけ遠回りして焼け野原を進み続ける。
「さすがに奇襲にはなりそうにないな」
「だが、この先を一番に開く栄誉はあるだろ」
「そりゃそう……なんだありゃ?」
「暗黒の、壁?」
直進するルートの広場を越えた先、道なりに行くと、ちょうど他のルートと合流する地点へと近づく。
広場が一つ存在し、その周囲が真っ黒の壁で覆われていた。
壁を通り抜けられなければ、広場に収束するしかないルート割りである。
「あの広場は集合ルートだな、ヒロキはその先にいるはずだ」
「あの広場に辿り着くと新しいテイムキャラが出てくる。どうする?」
「まずはあの壁を調べよう。ただ黒いだけなら見えないことを覚悟で突っ込む。壁だったなら途切れる場所を探して遠回り。最悪なのは……」
「最悪なのは?」
「アレがティリティさんの暗黒魔法による、入ったら死ぬ系の結界だった場合だ」
ティリティさん。てけりり言っているせいでどう考えても外の神案件の謎生物。
全身真っ黒なのも普通の生物とは一線を画している。
つまり、自分たちの常識外の結界やら魔法やら放ってきても何ら不思議はないのだ。
「ってことは、まずはあの中が入ること可能かどうかテストだな」
「入れるなら入れるで戻ってこれるかどうかもテストだ」
「二つのテストが合格なら?」
「ともかく直進してヒロキを倒す。今日で終わらせるくらいのつもりで行くぜ!」
「いいだろう、付いていくぜ!」
ルートの道を越え、黒い壁が出来ている場所へと辿り着く。
「どうだ? 人間砲台?」
「打ちあがって見てみたが、結構な遠くまで続いてるな。飛び越えるのは無理っぽい」
一番腕力がある投擲スキル持ちに投げられたプレイヤーが落ちてきて告げる。
ガッツを無駄に発動させてHPが1になっているが、情報提供ということもあり、すぐに回復アイテムを使って回復して貰った。
「んじゃ、触れるな?」
プレイヤーの一人が触れる。
黒い壁と思われたモノは壁ではなかった。彼の腕が半ばまで黒い壁に入っていく。
「感覚は?」
「ない。何もない。引き抜くぞ?」
黒い壁の中に入った腕を引き抜く。
「無事、だな?」
「ただの目くらましか? 暗闇ステージかもしれんな」
「内部に壁でもあるとか? 暗黒ステージで輝く奴誰かいたか?」
「ギーァ、はもうリタイアしてるな。妖精さんとか?」
「内部でいたずらかよ、やめてほしいなぁ」
「俺はテケテケさんステージに一票。確かまだ生存中だよな?」
「俺は普通にティリティさんだと思うけどなぁ」
「ともかく、次は一人入って戻ってくる。誰が行く?」
「俺、ナイトビジョン持ってる」
「じゃあ頼む」
プレイヤーの一人が暗闇の壁へと入っていく。
しばしの沈黙。
しかし、入っていったプレイヤーが戻ってこない。
「な、なぁ、あいつどこまで行ったんだ? 戻ってこないつもりか?」
「まさか? 問題なければ戻ってこれるはずだろ?」
「……」
やはり何かあったのではないか。
プレイヤーたちはごくりと生唾を飲む。
「お、俺、縄持ってる。誰かこれ付けて入らないか? 10秒数えたら縄を引っ張る、どうする?」
「わ、わかったわ。私身軽だし行ってみる」
今度は胴に縄を結わえ、プレイヤーがまた一人、黒い壁へと消えていく。
「3……2……1……引く……え?」
10を数え、縄を持ったプレイヤーが縄を引く。
抵抗なく縄は戻ってきて、輪っかに結わえられた縄だけが戻って来た。
「き、消え……た?」
その場にいたプレイヤーたちが絶句する。
場を静寂が支配しかけた、その時。
プレイヤーの一人に電話が鳴った。
びくっと驚きつつも、死に戻ったプレイヤーからの連絡だと気づき慌てて出る。
「ど、どうなった? 何で死んだ?」
「そ、それが、あいつ暗闇に入ったらすぐに死に戻ったって。どうやらこの先地面がないらしい」
地面が、ない? 奇襲部隊はそれで気付いた。
ここから先は強制ルート選択だ。奇襲は通用しない。
収束している広場の元へ向かい、そこにいるテイムキャラを倒さない限り、この先には向かえないのだ。
奇襲を完全に殺されていた。
「ま、待て、まだ大回り組が残ってるはず」
「そいつらもアラクネ部隊に邪魔されてこれてないだろ。逆方向行くと鬼とかファラオとか出てきて瞬殺されるらしいし」
仕方なく、彼らは示されたルートである広場に向かうことにしたのである。




