559.第三回イベント、十五日目人形決戦5
ヨシキがユウへと襲い掛かる。
死者になっているので聖焔は燃えていないが、腕力は死亡する前よりも高く、自身の体が壊れることも気にせず攻撃を行ってくる。
「なろっ、ヨシキのくせに阿保みたいにしつこいっ!」
「やだわぁ、私ったらこんなにヨシキに思われてたなんてぇ。あとでキスしてあげようかしら?」
「今のお前にはキスされたくねぇと思うけど、なぁ!」
蹴り飛ばす勢いでバックステップするユウ。
蹴られたヨシキはくの字に折れ曲がりながらノックバックするものの、すぐに前へと進みだす。
「死体だからダメージ受けても下がらねぇ。こりゃ厄介だな」
「天罰覿面! 光属性の効きはいいみたい」
「そりゃ死体だもんよ。あーしらも死んだら操られるのか。未知なるモノ、お前絶対死ぬなよ!」
「は? なんでだよ?」
「お前のスペックがそのまま敵になったら大問題だろが! 死ねば死ぬ程敵の戦力増えるんだぞ、テメェ一度だって死に戻りは禁止だ、わかったな!」
一番プレイヤーにとって恐ろしいことは、突出した実力者が死亡した時、その死骸が新たに別の実力者を殺すことである。
殺されれば殺されるほど敵の戦力が増えていく。
さらに問題なのは、未知なるモノの脅威のスペックがゾンビアタックで量産されてしまいかねないという事実だ。
未知なるモノ死体部隊などできてしまえば芽里さんステージクリアなど夢のまた夢となる。
「つまり、ここから先は俺らもゾンビアタック禁止って訳だ!」
「ひえぇ、死んじゃダメってなると動きが鈍るです」
「格ゲー少女さん、ヤバそうなら私の後ろへ。盾がある分死者の攻撃には耐えられます」
勇者ブレイブは盾をうまく使いながら敵の攻撃を受け止め押し返し、剣に光属性を付与して攻撃していく。
「というか、芽里さんステージだけ異常に難易度高くないか? 他のとこも他のとこだがよ、正義の味方と熊倒すだけだろ。なんで人形だけのはずが死霊まで出てくるんだよ!」
「それは俺らに言われても、だ。っていうか、ニャルラトホテプが助っ人だと思ってたが、あいつが助っ人なのか。名前はナスだっけか?」
「ナスさんの映像来たって検証班から連絡。でももう時間無いですよ!」
「格ゲー少女、いいからナスさんについて教えてくれ。とりあえず数を減らすとこから始めるが、相手の特性を知らないとどうにもならない。奴は死霊使いでいいのか?」
「い、いえ、未知なるモノさん、ナスは……悪魔、人形遣いです!」
「は?」
「死体扱ってるんだけど!?」
「おい、鑑定だ、鑑定使え! 今のレベル差なら誰か入手できるはずだ!!」
「お、行けた! 行けたぞ!! 二つ名はドゥルジの使い魔、ハエの悪魔、大量虐殺者、疫病女王、ドールマスターだ。結構多い……は? ハエの悪魔? 大量虐殺者? 疫病、女王?」
「な、なぁ、確かドゥルジってゾロアスターの魔王とかそんなんじゃなかったか?」
「悪魔テイムってヒロキのやつ何してんの!?」
「傀儡術に憑依!? 英雄特攻パンデミックバイオハザード、なにこの凶悪スキル!?」
「疫病、振りまいてはないよな?」
「ご安心を。それを使ったらイベントが壊れるので運営から禁止されてまーす」
「ニャルさん、言っちゃダメ、それ」
ニャルさんが楽しそうに叫ぶ、おかげで使われていない理由は分かったものの、ナスの実力は間違いなく今の芽里さんの上位互換。
人形やプレイヤーを操るだけでなく、死体までも操れるとなれば、さすがにプレイヤーも今まで通りの戦い方ではいられない。
命を大事にしながらの激戦を覚悟しなければならないのだ。
「っていうか、飛翔スキルや立体機動まで持ってるよこいつ!?」
「俺、なんか親近感湧いた。時間泥棒に人見知りとか、ヤベェよぼっちだよ、仲間だ、俺にはナスさん攻撃できねぇっ!!」
「阿保か! ぼっちだろうと敵だろうが!」
「うるせぇ、遊ぶ相手が居なくてあやとりマスターしたことあんのか! 空想で糸結んだことあんのか! 人の目を見て緊張でしゃべれなくなったことあんのか!! 俺らだって必死に生きてんだよっ!!」
「未知なるモノさん、あの人なんか血涙流しだしてる……」
「というか、なんか数人プレイヤーが裏切ってるんだが」
「俺らぼっちは、ナスさんの味方だ!!」
「何してんだテメェら!?」
まさかのプレイヤー側の裏切り。
プレイヤー同士で激闘が始まり、さらに場が混沌としていく。
ナスさんの出現だけで勝利に近づきつつあった戦場はさらなる激戦地へと向かいだした。
そして、ここでまさかの時間切れ。イベントが終り、皆がログアウトしていく中、プレイヤーの一部がログアウト後の場所で喧嘩を始めることになるのであった。
運営は、これを【ぼっちナスの動乱】として運営陣にのみ語り継ぐことになったのである。




