556.第三回イベント、十五日目人形決戦4
ヨシキは芽里さん向けて走っていた。
しかし、人形たちの邪魔はかなり多く、さらにカーリー人形が異変に気付いて動き出す。
スキルを発動しよう、そう思った瞬間だった。
先ほどまでいた広場の風景が一瞬で変化する。
地平の彼方まで見通せるほどの広い空間。
草一本生えていない赤茶けた荒野に、無数の電話が打ち捨てられている。
年代物の携帯電話。緑の電話はボックスごと横たわり、黒電話は半ばまで地面に埋まっている。
携帯型電話は昭和に逸った高級電話。今でこそ何だこれ、と思われる肩掛け電話が無造作に地面に捨てられていて、その隣にスマートフォンが埋まっている。
電話機能を持つありとあらゆる機器が地面に捨てられた、まさに電話の墓場と呼べる世界。
そんな世界に迷い込んだプレイヤーたちの元へ、一斉に鳴り響く電話の音。
「スキル発動、浄化之聖焔」
やべぇ、本能的に察したヨシキは即座にスキルを発動させる。
全身を青き炎が包み込み、自身を燃やし始める。
減り始めたHPを確認することもなくさらに走る。
「ね、ねぇ、何あのスキル?」
「浄化之聖焔ね。あれ天界にいる四大セラフに気に入られないと教えてくれないはずなんだけど……ちなみに効果はね芽里、聖なる炎で無敵になり、触れる相手に大ダメージ、聖焔の付与、HPが全損するまで燃え続けるんだよねー。つまり、あれに捕まったら芽里でも死ぬよー」
「ニャルさんなんでもない風に言ってる場合じゃないでしょ!?」
「大丈夫だって。ほら、カーリー人形が向かってるし、メリーさんの心象具現発動してるから即死もあるよ?」
ヨシキの耳に声が聞こえる。
―― ねぇ、私メリーさん、今貴方の真後ろにいるの ――
しかしヨシキは振り返らない。
他のプレイヤーたちが思わず振り返り、即死していく中、前だけを見て駆け抜ける。
触れてくる人形たちは悉く燃え盛り、聖焔の継続ダメージで全身を燃やし始める。
「芽里さん、悪いがここで消えて貰うぜェ!」
カーリー人形が攻撃するも、無敵状態のヨシキにはノーダメージ。
カーリー人形三体が燃え上がり、急激にHPを消耗し始める。
「聖焔の威力高くない!?」
「そりゃ天使長お墨付きの罪深き天使すら焼き尽くす聖なる焔だからねー」
必死に邪魔するカーリー人形だが、ヨシキの体力がなくなるより早く三体共に倒れていく。
焼き尽くされた彼らが復帰することは絶望的。
さらにメリーさんの即死攻撃条件を彼だけは頑なに踏もうとしない。
つまり、芽里さんとニャルさんに唯一攻撃が届く存在で、触れたら最後。芽里さんでも確実に死亡する聖焔を移されるのである。
人形の数もかなり少なくなっているし、これはもう、ダメなのでは?
芽里さんが焦る。ヨシキが芽里さんをターゲットと決めて走り出す。
そして……死者が蘇る。
「あぁ!? なんだ!?」
自身が燃えるのも構わずヨシキの足を掴み取り、地面から現れるドロドロに崩れた死体。
そこかしこの地面から現れた無数の死体たちに、メリーさんの広範囲即死攻撃を耐え切ったプレイヤーたちも度肝を抜かれていた。
「これって……」
「護衛の四体死んじゃったからねー、助っ人参戦、かな」
ニャルさんの言葉に近くまで来ていたヨシキが目を見開く。
「おい、ニャルラトホテプが助っ人じゃなかったのか!?」
「あっはっは、あちしは助っ人じゃなくて芽里が無防備になった時の護衛だね。助っ人はほら、いらっしゃったよー」
「ん。あまり人の多いとこ好きじゃないけど、芽里、助っ人に来た」
「ナス師匠、すいませんわざわざ」
人形師としては先達である悪魔ナスの参戦。芽里さんは恐縮しつつも変化した戦場を確認する。
人形たちがほとんど姿を消し、メリーさんの心象具現で電話墓場となったフィールドに、ゾクゾク参戦してくる死に戻りプレイヤー。それに対抗するように地面から現れるナスさんが仕込んでいたゾンビたち。
さらにナスさんの参戦時から死亡したプレイヤーのアバターが動きだし、生存しているプレイヤーたちに襲い掛かるようになった。
しかも死に戻ったプレイヤーの死体も動いているようで。ゾンビアタックしに来たプレイヤーと鉢合わせて俺がいる状態になっていた。
「おいおい、戦場がまた一気に混沌に……ここで助っ人とか想定してねぇよ」
ヨシキのHPがゼロとなり、あと少しで芽里さんに届く距離で死に戻っていく。
そして、そのヨシキの死体が起き上がり、チャージ中のヒバリたち向けて襲い掛かりに向かっていったのである。
「ヨシキ!?」
「どうしたんだヨシキ! なんでこっちに、っていうか、え? 死に戻ったのか、じゃああーしの目の前にいるのってヨシキじゃねーの?」
「さて、これでまだしばらく持つよね」
「ナスさん来たら凄い混乱が勃発しだしたわね」
自分もネクロマンシースキル取るべきだろうか? 真剣に悩む芽里さんだった。




