549.第三回イベント、十五日目通り抜け出来ません
「あー、死に戻った」
マイネがスタート地点に戻って来た。
スタート地点近くでぼーっと前方を見ていたフェノメノンマスクを見つけ、マイネは興味深そうに近づいていく。
「フェノメノンマスクさんだっけ、何してんの?」
「ああ、マイネさんか。見てくれよこれ」
フェノメノンマスクが見ていたのは、スタート地点から目を背けても見えてしまう中央ルートの左右に生い茂っていたはずの森。
本日のイベントからは鬱蒼とした森は姿を消しており、煙燻る焼け野原がそこに存在していた。
まだ鎮火して間もないようで、焼け野原に足を踏み入れたプレイヤーのHPが火傷付与と共に減っていく。
「ぬおぉ!? スリップダメージ受けてる!?」
「こりゃ今回のイベント中に森を抜けるのは無理だべなー」
「クソ、誰だよ森に火を放った奴は!」
マイネはそっと首を背けた。
あえてプレイヤーたちから視線を外し、フェノメノンマスクに向き直る。
「焼け野原がどうしたの?」
「見ての通り、スリップダメージを受けるから森を抜けてショートカットができないんだ。つまり、せっかくマイネさんがアイネさんを倒してくれたのに、森を使った奇襲作戦が使えないのさ、酷い話だろ?」
火をつけた奴酷いよな。そんな意味合いだったようだが、放火した本人であるマイネとしては自作自演をしているようで何ともいたたまれない気持ちにさせられるのだった。
「起きたことはもう仕方ないとして、スレイさんステージなんだけど……」
さりげなく話を切り替えておく。
スレイさんとカルカさんのタッグに死に戻ったことを伝えるとフェノメノンマスクもこの話題に乗っかって来たのだ。
「カルカさんか。確かアルセーヌの首領だったキャラだっけ? 大会で怪人姿見せてたよな?」
「ええ、クリオネの怪人だったわね」
「……海が得意なタイプだよな。もしかしてだけど、この先ディーネさんまで助っ人に来たりしないよな?」
「スレイさんも海タイプらしいし、確かにディーネさん来たらやりにくそうね」
「とはいえ、仮定の話をするより今の話だな。カルカさんの乱入で軍団能力が上がったんだっけ。つまりグラサンスーツ部隊のAI能力が上がったってことだろ?」
「ええ。それに加えてスレイさんもね」
「正直に言えば少しだけ敗北時間が伸びたくらいじゃないか? 結局死に戻りのゾンビアタックが一番有効なんだろ?」
「それはまぁ確かに」
「敵の数が減れば確殺攻撃も通りやすくなるだろうし、とりあえず一体ずつ確実に削っていくこと考えとけば問題はねぇよ。ひとまず明日までかかる予定で戦ってみろよ」
「それもそうか。って、あんたは手伝わないわけ?」
「生物相手ならともかく機械や人形相手じゃ自分の能力は半減するからな。まぁ自由意志って奴で適当に参加するさ」
「確かに、私がどこ行けというべきでもないわね。っし、私はもっかい挑戦してみようかしら。せめて一撃入れてくるわ」
「おぅ。そっちは任せるよ」
再び焼け野原を見つめ始めるフェノメノンマスク。
もしかして焼け野原見ることで癒しを感じてるんだろうか?
だとしたら相当病んでるな。そんなことを思いながら、マイネは再びスレイさんステージに挑むべく歩き出す。
マイネさんが歩き去ったのを確認し、フェノメノンマスクはため息を吐く。
「まったく、やってくれたなマイネさん。まさか森ごと放火してアイネさんを屠るなんて……まぁ、可哀想だから黙っておくか」
マイネさんの態度ですぐに犯人に気付いたフェノメノンマスク。
何度気付いてるぞと伝えたかったか。
態度があからさま過ぎるのだ。
「しかし、どうするかな、これ。放置していれば温度が下がって歩けるようになるかと思ったが、そういう感じでもなさそうだ。仕方ないこれを試してダメなら森は諦めるべきだな」
凍結系の薬剤を両手に持ってフェノメノンマスクは森だった焼け野原向けて一気に放出する。
刹那、焼け野原に一筋の氷の道が出来上がった。
恐る恐る、フェノメノンマスクがその氷を足場に歩き出す。
「おお、意外と上手く行ったな。凍結状態ならスリップダメージはないらしい」
ただし、氷の道はしばらくすると蒸発してしまうようで、慌てて焼け野原から脱出することになるフェノメノンマスクだった。
「やっぱりダメか。おそらく次のイベント時には通れるようになっているだろうし、今回は諦めた方がよさそうだな」
ではどこに行こう、三つのルートを鑑みて、自分の能力が一番発揮しやすいだろう熊ステージへと向かうことにするフェノメノンマスクであった。
そんな彼が歩き出そうとした矢先、スタート地点にマイネが死に戻ってくる。
「お早い帰りだな」
「ほっとけ!」
どうやら自慢のテイムキャラたちが死んだ状態なので自分はゾンビアタックをし続けることにしたらしい。
それも一つの手なのであえて何も言わないでおくフェノメノンマスクであった。




