543.第三回イベント、十四日目・空中決戦
燃え盛る森。くゆる煙。赤く染まる空の元、二つの飛翔物が交錯を繰り返していた。
一つはアベイユ星より舞い降りし宇宙生命体アイネルシャントーハス・プレハラリアーマ・フェスフェスフェヘリヘ。愛称はアイネさん。
対するは宇宙より来る地球の守り手、グレートマン、そして彼に乗せてもらい空中戦を行っているプレイヤー、マンホール少女マイネ。
二つの飛翔物体は近づきながら攻撃を繰り返し、遠ざかりながら体勢を整える。
何度交錯しただろう?
グレートマンのHPは既にレッドゾーン。
マイネがマンホールで庇ってはいるものの、アイネさんの毒針射出や突撃攻撃の余波で少しずつ削られて今に至る。
あと数回、交錯したらグレートマンは散るだろう。
そうなれば空を飛べないマイネは格好の的、アイネさんの襲撃に耐えきれるわけもなく炎の森に飲まれて消えることになる。
このままでは不味いことは二人とも理解しているが、アイネさんを放置して逃げる訳にもいかず、有効打を与える術もないためとにかく数撃ちゃ当たる戦法で光線やマンホール投擲を行うしかできなかった。
森まで焼いて、なんか不名誉な称号まで付けられて、ようやくアイネさん攻略の糸口が見えたところで敗北、というのはあまりにも締まらない。
これがアニメやゲームならば、起死回生の一手で盛り返したりもできようものを、マイネにはそんな奇跡的な力が眠っていたりはしなかった。
あくまでゲームデータ内で手に入れているスキルと自身のプレイヤースキルで戦うしかできないのだ。
ゆえに、敗北は既に濃厚で、万が一マンホールが一、二回当たったところでアイネさんが倒れる訳もない。
「あークソ、悔しいな」
「うぁ……」
すでにキカンダーもジェイクも死亡状態だ。
どこからともなく現れて助けてくれることはない。
データとして死亡が確定しているからこそ、悔しいがここからの起死回生は期待できないのだ。
仕方ない死に戻ろう、マイネが諦めようとした、その時だった。
「カァーッ」
空の彼方より、黒き鳥が現れた。
アイネさんに向けて吠え猛ると、その声が攻撃だったらしくアイネさんがダメージを受ける。
衝撃波を食らったような動きを見せてマイネたちから距離を取った。
「な、なに?」
「お、居た居た、マイネの姐さん助っ人来ました!」
複数のカラスの足に糸を引っ付け、左右で羽ばたかせて座ったまま飛行する男が一人。
子供の頃から憧れていたことをやりやがったそいつの周囲には、無数のテイムキャラが飛行していた。
「そっか、プレイヤーは飛行難しいけどテイムキャラなら!」
「ギーァ倒して手が空いたメンツが助っ人を寄こしたんすよ。ちなみに俺は攻撃手段皆無っす。カラステイムに生涯掛けたんで」
プレイヤーには変わったのがいるとはいえ、これもまた尖ったプレイしてる人だなぁ、と思うマイネ。その視線の先で、アイネさんの突撃を受けた男が死に戻っていた。
何しに来たんだ、とは思うが助っ人のテイムキャラたちがまだ沢山いるのでむしろ非戦闘員は消えて貰った方がいいのである。
変に庇おうとしたりしなくていいので気が楽なのだ。
「おお、テイムキャラしかいないのに結構いい動きしてる!」
「うぁ!」
むしろ全員AI行動なためか連携までしている様子だ。
これなら放っておいてもアイネさんを倒せそうにも思えるが、さすがに被害も多くなるだろうし、マイネとしてもただ見守るだけで終わるつもりは毛頭ない。
「そこのグリフォン君、悪いけど背中乗せて」
と、相手の返事も待たずにマイネは近くにいたグリフォンに飛び乗る。
「グレートマンさん、遠慮はもういらないわ。存分にやっちゃって!」
自分を庇いながら飛行していたせいでグレートマンの能力を狭めていたのは理解していた。
自分が乗らないことでグレートマンは本来の空中戦が可能になった。
マイネの判断に礼をいい、グレートマンが動き出す。
「ウァ!」
「ッ!? さっきまでより速い!?」
グレートマンはマイネを振り落とさないように気を配って動いていたのだ。その気配りをする必要がなくなれば、その分速く動けるし、意識を戦闘に割ける。
無数のテイムキャラに加え、自由になったグレートマンとマイネを相手にすることとなったアイネさん、さすがに多勢に無勢か、と思えば、そうでもない。
「来なさい、我が家族たち」
炎に彩られた森から、無数のアベイユ星人が飛翔する。
統率と指揮を持つ女王種。アイネさんの真価が、今発揮されようとしていた。
「ちょ、ちょっと、まだ生きてたのあいつら!?」
「うぁ!?」
さすがのマイネもアイネさんを倒せばこれで終わる、と思っていただけに、まさかの追加エネミー出現に焦りを覚えるのだった。




