540.第三回イベント、十四日目・物量大戦4
「一気に減ってるな」
「こりゃ人形ステージだけ早く終わるんじゃね?」
「はは、勝ったな」
「圧倒的ではないか我が軍は!」
プレイヤーたちが調子に乗り出した。
未知なるモノはしばし戦場から一歩退き、広場手前の通路で格ゲー少女と勇者ブレイドと共に観察する。
人形が破損される速度はかなり早い。
正直これなら今日中に殲滅も可能じゃないかと思えるほどだ。
ほとんどの遠距離攻撃持ちが集まってくれたおかげで一気に攻略が捗りそう。
皆がそう思っていたし、格ゲー少女も、隣にやって来た勇者ブレイドもそう思っていた。
たぶんそろそろだ、そう思っていたのはおそらく、未知なるモノと一部の上位プレイヤーだけだろう。
不意に、メリーさんが芽里さんの肩へと戻った。
芽里さんが意識を取り戻し、周囲を見回し始める。
自由行動の時間が終った。つまりここから人形劇第二幕の始まりである。
「遠距離攻撃による包囲殲滅かぁ、さすがに近接オンリーの人形じゃ分が悪いよね。じゃあ……こういうのはどうかしら? 空想……糸結び」
不意に、芽里さんの体が浮かび上がる。
人体が飛翔する、というよりは、何かに乗ってゆっくりと上昇しているといえばいいだろうか?
驚きながらもプレイヤーの一部が遠距離魔法を芽里さんへと向ける。
が、その一撃は突如飛び上がったタンク役の男に直撃していた。
「なんだ!?」
「お、おい、前衛の様子がおかしいぞ!?」
「あ、あれ? ねぇ、あんたなんで私に杖向けてんの?」
「そ、そっちこそ俺に銃向けてるじゃねぇか! 芽里さんだろ狙うなら」
「さぁ、お人形遊びを始めよう、プレイヤーのみんな。ここから先は、皆が味方で、皆が敵よ」
不敵に微笑む芽里さんが指先を動かす。
前衛プレイヤーたちが人形に背を向け、遠距離特化プレイヤー向けて襲い掛かる。
「ちょ、待て、なんでこっちくるんだよ!?」
「そういうのティンダロス交雑種でお腹いっぱいだって!?」
「ぎゃあぁ!? 同士討ちしてんじゃねぇ!?」
未知なるモノも勇者ブレイドもさすがに驚く。
格ゲー少女だけはなんとなく察していたのだろう。
やっぱり。と納得していた。
「格ゲー少女さん、知ってたんですか?」
「え? ううん。格闘ゲームの一つにドールマスターが出てくるゲームがあるんだけど、必殺技が相手を操って自滅させるって技なんです。人形使いみたいですし、そういうスキル持ってても不思議じゃないのかなって」
「傀儡術って奴か。人まで操れるのかよ!?」
「未知なるモノさん見てください、空中にキラキラ光ってる奴、アレ全部糸だ!?」
「嘘だろ!? こりゃ広場に入った瞬間操られるな。どうやって攻略しろと?」
「あれ? 未知なるモノさん、あの、人形、メリーさんが居なくなってないですか?」
「え?」
格ゲー少女が目ざとく見つけ指摘。言われて気付いた未知なるモノと勇者ブレイド。
芽里さんの肩に乗っていたはずのメリーさんがいつの間にか消えていた。
「いや、でもメリーさんが一人で動くことはないでしょ? 芽里さんという中身が入ってないんですし」
「そのはずだが、ともかく探せ、どこにいる!」
「えっと……」
すぐに捜索を始めた三人だが、メリーさんの姿は見当たらない。
人形たちやプレイヤーが入り乱れる戦場なのでもしかしたら紛れているのかもしれないが、さすがにそんな場所にいれば壊されていてもおかしくはないだろう。
「そういえば、気づいたんだけど」
「ブレイド?」
「人形って壊されても消滅しないんだね」
未知なるモノもそれを見て確かに、と疑問に思う。
今までだと魔物やティンダロス系、ニャルラトホテプだって死ねば光に変わって消え去っていた。
しかし人形は破壊されたらその場に倒れ込み動かなくなるだけ。
「なんか、怖いな」
「怖い?」
「人形師だぞ。糸があれば人形を操れる。なぁ勇者ブレイド、人形の一部が破損したからって、例えば頭部を無くした人形は、動かないと思うか?」
「まさか、まだ奥の手が残ってる!?」
「やっぱ一筋縄じゃ行きそうに……あれ? 格ゲー少女どこ行った?」
二人の意識が人形の残骸に向かった一瞬の出来事。
すぐ隣にいたはずの格ゲー少女が消えていた。
二人して周囲を探すがその姿は見当たらない。
「って、このあたりの森まで燃えだした!?」
「火の手がこの近くまで来てるな。ほんと誰だよ森に火を放った馬鹿野郎は。なぁ勇者ぶ……ブレイド?」
隣にいたはずの勇者ブレイドが消えていた。
嫌な予感が鎌首をもたげる。
未知なるモノは細心の注意を払って周囲を見回す。
だが、格ゲー少女も勇者ブレイドも、どこにもいる気配はなかった。
「ダメよ、安全圏から見学なんて、芽里は許しても私、赦さないから」
不意に、少女の声が耳元から聞こえた。
認識した瞬間、視界が暗転する。
システムが死亡したことを未知なるモノに告げるが、本人は自分がどうして死んだのか、理解することも出来なかった。




