535.第三回イベント、十四日目・物量大戦1
「さて、テインさんステージどうなったかな」
十四日目のイベント開始直後、ログインしてきた未知なるモノは早速テインさんがいた広場へとやって来ていた。
他のプレイヤーたちも結果が気になるようで、ぞろぞろと広場に集まっている。
「あ、見てください未知なるモノさん、テインさん以前に誰もいませんよ」
今までならば、コトリさんが残していた魔物やニャルラトホテプが待っていたのだが、今日はそれらの姿すら広場にはなかった。
一緒に着いてきた格ゲー少女と共に、広場へと踏み出す未知なるモノだが、どうやら本当にここにはテインさんがいないらしい。
「いなく、なってる?」
「クリアってことでいいんだよな?」
「あとから出てきたりして」
「さすがにそれはないと思うが、ヒロキだしなぁ、あえて撤退させるとかやりかねないのが怖いとこだ」
「ま、さすがに運営さんもそれは許さないでしょ。それこそクレームが来るでしょうし」
「……やべぇ、本当にあとから出てきそうな気がして来た」
一応、奇襲されないかと周囲を警戒しながら奥の道へと向かうが、テインさんたちは一切出てくる気配はなかった。
次の広場までやって来て、ようやく安堵の息を吐く。
「一応テインさんステージはクリアしたっぽいな」
「んで、次に待ってるのは……」
プレイヤーたちを待ち望む者、それは広場の中央で仁王立ちしている女性だった。
黒いゴシックロリータの服を着た芽里さん、その肩に乗った白いゴシックロリータを着たメリーさんの周囲には、絶対に起き上がって攻撃してくるだろうことが想像に難くない人形が大量に存在していた。
「やっぱ物量ステージだわ」
「なるほどー、芽里さんとメリーさんによる人形軍団ステージですか、メカニカルベアにグラサン軍団、人形の群れ……ホント凄いですよね、これ一プレイヤーのテイムキャラであって運営が用意したボスじゃないんですよね?」
「一人でこれだけのプレイヤー相手できるヒロキチームが異常なんだよ。それもすでに十四日も持たせてんだぜ、テイムキャラは一度死ねばもう出てこれないイベントなのに」
俺ら何回死んだんだろう? 未知なるモノは遠い目をして思いを馳せた。ちょっと切なくなった。
「さて、どっから行きましょう?」
「そうだな。とりあえず皆に連絡入れて、俺らはこのまま芽里さん撃破を目指すとするか」
「了解です!」
広場へと一歩踏み出す。
プレイヤーたちが広場に侵入したことで、待ってましたと芽里さんが笑みを浮かべる。
「待ってたわよプレイヤーの皆。これより先は私、メリーさんこと芽里さんがお相手致します。ってね」
前口上の途中で攻撃の素振りを見せたプレイヤーが居たからだろう。
一斉に動き出した人形たちがプレイヤーへと襲い掛かり始めた。
「あら無粋。せっかくお話の途中だったのに随分とせっかちじゃない。仕方ないからオ・シ・オ・キ・ね」
「馬鹿野郎、何で突出した!?」
「いや、機先を制したら瞬殺できないかなって……」
「ふざけんな! そんなチンケな理由で芽里さんの前口上遮りやがったのか!? テメェ殺すぞ!」
「げっ!? 芽里さん信者!?」
一部プレイヤーが同士討ちを始め、そこに人形たちが殺到する。
こちらには……来ない?
「見てわかるでしょうけど、ここは人形遣いの物量戦。この人形墓場を越え、私を倒す気概はあるかしら?」
「あー、前口上最後までやりたいのな」
「……もぅ、未知なるモノさん、茶化さないでくれないっ、結構頑張って考えてきたんだからっ。ああもう、いい、戦闘開始よ!」
照れ隠しとばかりに人形たちを起動させる芽里さん。
糸を操り無数の人形を動かしていく。
「一部は芽里さんが操る人形、他は自動制御か」
「なんか自動制御の中でも一部動きがいいのが居ますね」
確かに、妙に動きがいい人形が数体。
まるで意思を持つかのように芽里さんを警護しているのがいる。
それらは、プレイヤーからの遠距離を警戒しているようで、芽里さんに当たりそうな一撃を自分たちが割り込む形で処理しているようだ。
人形たちの防御力もかなり高いらしく、プレイヤーたちも苦戦している。
確殺攻撃持ちが活躍しそうなものだが、今は未だ様子見のようだ。
他のプレイヤーたちにも活躍の場を、ってことなのかもしれない。
しかし、芽里さん、中央に座したまま動く気配がない。
部下に戦いはすべて任すタイプではなかったはずなのだが……
と、未知なるモノは訝しみ、気付く。
メリーさんが、居ない?
違う、芽里さんの意識が消えているんだ。
メリーさんはどこだ? 慌てて探す未知なるモノ、その側にいた格ゲー少女の肩に、見慣れぬモノがいた。
「格ゲーしょ……」
慌てて叫ぶ未知なるモノ。しかし、ソレが動くのは言葉よりも早く。
格ゲー少女の肩に居たメリーさんのハサミにより、格ゲー少女が死に戻る方が早かった。




