531.第三回イベント、十三日目・待ち望む者
「終わった……?」
「テケテケさんはどうなった!?」
ユウが即座にテケテケさんを探す。
テケテケさんを相手取っていた二人がこちらへやってくるのを見つけ、落胆したように息を吐いた。
「テケテケさんが消えたんだけど、何があった!」
「消えた?」
ユウは考える。
どうやら迷宮が消えたことでテケテケさんが消えてしまったようだ。
彩良さんを倒す前にテケテケさんが倒されていればよかったが、おそらくこの場から脱出してしまったのだろう。
それを考えればハナコさんもまた撤退してしまったと思っていいだろう。
「結局倒せたのは彩良さんだけか」
「それでもホラーステージが終っただけで十分な戦果じゃない?」
「どうせならテケテケさんも潰しておいた方が楽だろマイネさんよ」
「そりゃそうだけども」
結果を見れば、ユウやマイネの消費は少ない。
これから次の広場に向かっても十分に戦いができるだろう。
ただ、残り時間はほとんどない。
おそらく次のステージを見終えたところで終わることだろう。
「とりあえず、今は次の広場まで歩きましょ」
「それが一番か、いつまでもここに居ても意味ねぇしな」
「そういうことよ」
他のプレイヤーたちに交じり、マイネとユウは新しい広場への道を進み始める。
「しかし、他の奴らいねぇな」
「死に戻った後は別ルートとか行ったんじゃないかしら?」
ホラー体験は一イベント一度で十分ってことだろうか?
あるいはここに来る途中でギーァに駆除されて再び死に戻ったか、だ。
「掲示板を見たメンツが徐々に増えてるみたいだけど、すでに終わったことはまだ伝わり切ってないみたい」
「まぁ、イベント終了直前だしな。十四日目までには伝わるだろ」
「お、ようやく到着ね」
通路を歩ききると、また広場。
森に囲まれた広場の奥には次への道が存在し、そこを塞ぐように、一匹の悪魔が待っていた。
「きゅい!」
「なんか見たことねぇのが、いや、映像の方で見たか」
「レムさんだわ。まさか一人でプレイヤーと対峙するつもりなの? さすがに戦力過多で圧勝しないかしら?」
「いや、どうやらここは団体戦らしいぜ」
ユウの言葉に困惑するマイネ。
しかし、すぐにその理由を理解する。
周囲の森から一体、また一体とソレが現れる。
見る間に広場の半分を覆い尽くすほどに出現した、半身機械化されたクマの群れに、思わず息を飲む。
「こいつは……」
「メカニカルベア!? しかもこんなに大量に!?」
「レベル自体はレムだっけか、あいつと同じくらいだな」
「コトリさんが呼び出した奴じゃなく正規品ってことね」
あと数分しかないイベント時間とはいえ、せっかくなら一当たりしておくべきか、とマイネはマンホールを構える。
そんな彼女の傍を駆け抜け、プレイヤーの一部が我先にと突撃する。
「ちょ、もうちょっと様子見しなさいよ!?」
「マイネの姐さん、俺らは自滅覚悟の突撃隊だ。俺らの命を持って相手がどの程度か見てくれよ!」
まさか敵の技量を見るために自分たちを囮に使ってしまうとは想定していなかった。
マイネが止めるのも聞かずに突撃したプレイヤーたちは、メカニカルベアによる誘導式ミサイルの群れに成すすべなく爆散していく。
数百を超すメカニカルベアから一斉に放たれたミサイルは、その辺一帯にいたプレイヤーを駆逐するにはあまりにも過剰戦力だった。
爆散の連続。大きな音が響き、爆風が吹き上げる。
思わず顔を腕でガードしたユウとマイネ。
爆風が止んだことで腕を下ろせば、そこにはプレイヤーたちの姿だけが消え去っており、地面に無数の爆破痕が残されていた。
「マジかよ。一人残らず吹き飛んだのか」
「アレが一斉に襲ってくるのは確かにヤベェな」
まるでレムさんを守るように整列したメカニカルベアの群れに、ユウもマイネもさすがに嫌な汗が背中を流れる。
広場に一歩でも入ればおそらくアレがこちらにも襲ってくるだろう。
だから、二人とも広場に入ることをためらってしまっていた。
「どう攻略したもんかしら?」
「大勢で一気呵成に攻めるか、森を通って回り込んで挟み撃ちか」
どう考えても団体対団体の戦いになるのは確定だ。
ミサイルに関しても混戦になれば使えなくはなるはずだ。
つまり、これを撃破するには人数がいる。
「いったん持ち帰りだな」
「しゃーない、さすがにもうすぐヒロキンさんの場所に着くからかここから先は簡単にはいかないみたいね」
「いや、全部簡単じゃなかったんじゃね?」
「それもそうだけど……あ、イベント終了だわ」
イベントステージからはじき出されるのを感じ、二人は思わず安堵する。
ただ、次のイベント時にあの軍団に突っ込む気力は、湧いてくる気配がなかった。




