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529.第三回イベント、十三日目・一つの結末

 その状況を、的確に理解できた存在は、いなかった。

 エコーを響かせキャラクターが倒れる。

 画面に映るYOU WINの文字。


 しばし、誰もが呆然とそれを見つめる。

 何が起こったのか、誰も目で見ているにも関わらず脳が理解しきれていないのだ。

 やがて、サユキさんがあちゃーっといいながら頭を掻く。


「ダメね。ここまでか」


 アカズさんもまた理解出来たらしく、ため息一つ。

 お先に失礼、と部屋から去っていく。


「勝った……?」


 格ゲー少女がようやく理解する。

 目の前に灯った文字は、自分自身に向けられたものであるということを。


「勝った……」


 しかし、今までずっと負け続けていただけに理解しようとも精神が拒絶している。


「勝った」


 三度の反芻。ようやく格ゲー少女が理解する。

 自分の勝利。つまり、サユキさんが敗北し、ようやく次への道が開かれたのである。


「勝ったッ!!」


 四度目にしてようやく勝利宣言。

 力強い叫びに、他のプレイヤーたちも勝利を理解する。


「や、やりやがった! やりやがったぞ格ゲー少女!!」


「おいおいおい、何だ最後の!? サユキさんのスキル攻撃でドットHP削れなかったぞ!?」


「ブロッキングじゃねぇか! なつかしっ!」


「そういえばあの技術、誰も使ってなかったな。なんだよ、すげぇじゃん!」


 プレイヤーたちもようやく理解が追い付き、口々に騒ぎ出す。

 ヨシキはそんな光景を見ながら、腕を組んで頷いていた。

 自分でクリアしたかったが、自分のアドバイスで格ゲー少女が勝てたのなら、伝えた甲斐もあると一人納得していたのだ。


「勝ったんだ。私、サユキさんに……」


「いやー、まさかあそこでブロッキング成功させてくるとはなー。完敗や」


 サユキさんは立ち上がると、格ゲー少女に歩み寄り、握手を求める。

 格ゲー少女もとっさに差し出された手を握り、互いにナイスファイト、と称え合った。

 そして、サユキさんの足元から光が立ち上り、サユキさんを消失させていく。


「あ……」


「イベントはまだ続くでー、がんばりやー」


 サユキさんが消失し、個室空間もまた、解除されていく。

 あとには広場が姿を現し、先へと続く道が彼らを待っていた。


「すっげ、マジで撃破できちまったよ。サユキさんパーティーゲームですら無双してたからなぁ」


「三人で掛かって何人が返り討ちにあったことか」


「運ゲーなのに負け続けるとか……」


「格ゲー少女よくやった! コトリさんに引き続き値千金の働きだ!」


 無数のプレイヤーに褒め称えられ、格ゲー少女は恥ずかしそうに頭を掻く。


「さて、次に進めるようになったわけだが……」


「決まってるよな」


 プレイヤーたちは誰一人、先行して次の場所を見に行こうとはしない。

 代わりに、全員の視線が格ゲー少女へと注がれた。


「え? え?」


「一番の功労者だからな。次の場所に辿り着くのも、一番であるべきだろ」


「進めよ格ゲー少女」


「俺らがこの先を見ていいかと言われるとな。まずはあんたが見るべきだ」


 プレイヤーたちに促され、格ゲー少女が押し出されるように道を歩き出す。


「あ、あの、そこの人、あなたのおかげでもあるので、ぜひ隣歩いてっ」


 さすがに一人だけでぞろぞろ皆を引き連れて歩くのは恥ずかしいらしく、ヨシキを道連れにしようとしてくる。

 恩を仇で返すのか、と一瞬思ったヨシキだが、頼りたい気持ちはわからなくもないので、ため息一つ残して歩き出す。


「ったく、俺ァほとんどサユキさんにゃ挑んでねぇんだぞ。ブロッキングだって誰かが教えてたかもしれねぇし、たまたま俺が最初に尋ねただけだっつーの」


「それでも、あなたのおかげで勝てました」


 他のプレイヤーも状況を知ったらしくヨシキまでよいしょし始める。

 何とも気恥ずかしく、ヨシキもまた乱暴に頭を掻く。

 普段疎まれるような不良を演じているだけにこういった褒め殺しにはめっぽう弱いのだ。


 新しい広場へとやってくる。

 そこには一人の少女が待っていた。

 白衣のポケットに両手を突っ込み、少女は不敵な笑みを浮かべる。


 その姿はまさにマッドサイエンティスト。

 スレイリア・アルセーヌ。秘密結社アルセーヌの科学者にして怪人改造のスペシャリスト。

 彼女は広場へやってきたプレイヤーたちへと前口上を伝え始める。


「よくぞここまでやって来た精鋭なるプレイヤーたちよ、ここより先は収束する決戦場である」


「え、ってことはスレイさん撃破すりゃヒロキの居る広場に着くのか?」


「まだ半分くらいメンバー残ってなくね?」


「いや、他のルートと収束するとはいえ、ヒロキがいる場所とは言ってねぇぞ」


「とはいえ、私を倒せ、と言っても私はこのようにか弱いのだよ諸君。よって、君たちの相手は別にいる」


 さぁ、いでよ我が軍団。

 スレイさんの掛け声とともに、ソレらは森から一斉に現れたのだった。

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