528.第三回イベント、十三日目・三様の戦場8
「というわけで、負けました」
スタート地点に戻って来た格ゲー少女。
そこにはヨシキが待っていた。
不良らしく待つ時の座り方が独特だが、格ゲー少女は怖がることなく話しかける。
「おう、やっぱ負けたか」
「どうにも一度しか勝てなくて。無理に戦いに向かっても同じ状況で負けますし、他のやり方だとただ削られて負けるといいますか……」
「おう、見てて思ったんだがな、ブロッキングは使わねぇのか?」
「ブロッキング?」
「おぅ。あのゲームなら確かあったはずだ。ブロッキング、他の格ゲーならジャストガードでも通じるかな? まさか、知らないのか?」
格ゲー好きというならまず知っているだろうと思って聞いてみたヨシキに、格ゲー少女は困惑気味に頷く。
それを見たヨシキは虚空を見上げて嘆く。
「マジかよ……」
「あの、それってなんなんです?」
「結構な格ゲーに取り入れられてる完全防御だ。あの伝説の逆転劇映像も見てないな。URL送ってやるから後で見とけ」
「はぁ……」
サユキさんに勝てる方法でも教えて貰えるか、と思った格ゲー少女だったが、ただの防御と聞かされて明らかに落胆する。
「方法はシビアだ。相手の技や攻撃が当たる直前に上部への攻撃なら相手に向かって方向キー。下部攻撃なら方向キー下。あのゲームなら攻撃がキャラに当たるエフェクトから1.9秒くらいの間に方向キーを入れれば完全防御が行える」
「それに何か、意味が?」
「いや、意味がって、普通の防御じゃ削れちまうHPが全く削れないんだぞ? この技術持ってるだけでも断然違うだろ」
そんなに? と思いつつ、格ゲー少女は送られてきた場所にあった映像を拝見する。
最初こそ見ることが億劫、といった表情だった格ゲー少女だったが、徐々にその瞳に炎が宿る。
「こ、これ、この技術、私も使えるんですか!?」
「さすがに連続でやるのは無理だが、一発でも受けれりゃ相手も驚愕して隙生まれンだろ」
「今までみたいに来るのが分かってすぐガードじゃなくて、当たる直前にガードする、ですか、とにかく一ラウンドは普通に戦って、二度目に練習、最後のラウンドで試すしかない、かな」
「ダメなら俺が魔物・人生ゲームで勝負する。どっちが先にサユキさん倒すか、勝負と行こうじゃねぇか」
「ふふ、絶対負けません!」
立ち上がったヨシキが拳を掲げる。
近づいた格ゲー少女はその拳に自分の拳をこつんと合わせた。
「初手、貰いますね」
「おぅ、行ってきな、ちゃんと見といてやんぜ」
向かう場所は同じだ。
しかしヨシキは急ぐ必要がないのでゆっくりと歩き出し、早く試したい格ゲー少女は走っていく。
途中ギーァが襲い掛かろうとしたものの、勇者ブレイドが割り入りギーァと互角の戦いを始める。
そしてまた、サユキさんの部屋へと格ゲー少女は辿り着く。
今までとは違う。
新しい技術なら、あるいは!
「お、まだ来るか格ゲー少女ちゃん」
「今度こそ負けません!」
「はいはい、空いてるよー。いつでもどうぞー」
どうやら待っていてくれたらしい。
ヨシキが何かしら打開策持ってそうだ、と思った他のプレイヤーたちがサユキさんの挑戦を止めて格ゲー少女の到着を待ってくれていたのである。
早速コントローラーを手にして格闘ゲームを選択。
使いやすいキャラを選択し、サユキさんとの闘いが始まった。
当然、慣れたようで一回戦は難なく撃破。
ラウンド2。
本気になったサユキさんの猛攻に徐々にHPが消えていく。
しかし、今までのように格ゲー少女には焦りがない。
むしろ、何かを探るように、違う、こうじゃない、と呟いている。
やがてHPが底を付き、格ゲー少女の敗北が確定した。
皆が落胆の息を吐くが、傍で見ていたヨシキは腕を組んだまま次のラウンドを静かに待つ。
格ゲー少女もまた、感覚を反芻しながら次のラウンドへと向かう。
ラウンド3。
遠距離で攻めるサユキさんにダメージを受けながらも近づく格ゲー少女。
今まで通りの空から奇襲をガードされ、必殺技を放たれる。
ガードするものの一気に削れたHPにプレイヤーたちが落胆の息を吐く。
今回もダメか。そんな空気が場を支配する。
案の定、HPはほぼ底を付き、今まで同様、最後の一撃がサユキさんにより繰り出される。
これを食らって敗北。これさえ食らわなければとは皆ずっと思っていたことだ。
しかし、これだけは詰将棋的に必ず食らってしまう必中の一撃。
「っ!?」
そう、今まで通りなら、この一撃で終わっていた。
けれど、今までと違うことが一つだけ。
今までは知らなかった。
たった数秒にしかない起死回生の一手。
ガードしたとしても削れる技の一撃を、完璧なタイミングでブロッキング。
まさかの秘技にサユキさんの動きも止まった。
最後のチャンス。たった一度の最良のタイミング。
格ゲー少女の魂の叫びと共に、サユキさんのキャラへと投げ技が炸裂した。




