522.第三回イベント、十三日目・三様の戦場2
サユキさんと格ゲー少女の戦いは一進一退だった。
どうやらここ二日の戦いを経て一勝をもぎ取ることは出来るようになったらしい。
ただ、すぐに巻き返されて最後の戦いでサユキさんの必殺が決まることで敗北、というルートがほぼ確定してしまっているようだ。
格ゲー少女が悔し気な顔で消えていく。
また負けたらしい。
それからしばらくは他のプレイヤーたちがいろんなゲームでサユキさんに挑んで行くのが見られた。
ヨシキはそんなプレイヤーたちのゲーム風景を見ながら考える。
自分ならどうするか。どのゲームで挑むか。
一応一通りのゲームを行ったことはある。
しかしサユキさんの実力は正直チートと言える状況だ。
並みのプレイヤーでは勝てないだろう。
しかし、イベントなのに勝てないボスが出てくるだろうか?
まだ手を付けられていないゲームを見る。
なるほど、それは確かにゲームとして使われないはずだ。
何しろ、パーティープレイ用ゲームや長期にわたるゲームだからだ。
勝敗の付くゲームとなればどれになるか。
落ちもの系はほぼ確実に負ける。
格闘ゲームも無理。
レースゲームも正直キツイ。
ハザードゲームは? 最後まで生還は出来るが向こうもそれだと一向に勝てない。
「さて、何がいいかね……」
うわ、懐かしい不良の格闘アクションゲームまである。
往復ビンタのおばさんめちゃくちゃ強かったなぁ。
っと、そんなことはどうでもいい。サユキさんに勝つ方法はなんとなく理解した。
多分これが攻略法なんだろう。
ちょっと運の要素が強くはなるのだが。
「お。格ゲー少女復活して来たぞー」
「そら、皆開けてやれー」
どうやら皆格ゲー少女とサユキさんの戦いを見たいようだ。
他のメンバーがゲームを行うのは暇潰しともしかしたら勝てるかも、という理由のようだ。
彼女に勝ってほしいってことなのかもしれない。
しれないのだが、不良少年をロールプレイする自分としては彼らの期待何するものぞ、と割り入るのが当然だろう。
とはいえ、さすがにブーイングを受けたくはないので許可だけは取ることにする。
だから、ゲームを始めようとする格ゲー少女に告げる。
「おぅ、次の試合負けるようなら俺が勝っちまうが構わねぇか?」
「え? あ、はい、サユキさんに勝てるなら、でも、私は負ける気ないですからね!」
「おぅ、今回はあんたの戦いだ、任せるぜ」
格ゲー少女のラウンド1。
互いに必殺ゲージ無しの状態での戦闘開始。
サユキさんが遠距離攻撃を行い、格ゲー少女がこれを無視しながら近づいていく。
今まで通りの戦術。
今まで通りの対応。
今まで通りの勝利。
見る者にとってはここまでは既定路線。
サユキさんが反撃のために攻撃レベルを少し上げる。
ラウンド2、ファイ!
遠距離攻撃はそのままに、近づいてきた格ゲー少女を掴み取っての投げ、宙に浮きあがった格ゲー少女に向けて容赦ない必殺技発動。再び宙に浮く格ゲー少女に、容赦ないハメ技。
結果、一度も地面に体が付くことなく、格ゲー少女はパーフェクトKOされてしまうのだった。
「あー、いつもと同じパターン!」
「クソ、これじゃまたラウンド3で逆転負けじゃねーか!」
「いいや、きっと今度こそやってくれるはず!」
しかし、プレイヤーたちの期待もむなしく、格ゲー少女はあと一歩のところで敗北して消え去った。
後一撃。投げでも入れば勝っていた。
勝っていたが、それは仮定の話。
実際には弱パンチで離され、ダメージエフェクトという小さな隙を狙われ敗北した。
さて、条件は満たされた、次は俺が行くし、ここで勝ち筋を皆に見せてやる。
「お、次はあんたが行くのか?」
「さっき言っただろ。格ゲー少女が負けるようなら俺がやるって」
さて、まずは行うゲームを決めるんだったな。
「おい、そこの二人、暇そうだな。ちょっと手伝え」
「は?」
「え?」
見学に回っていたプレイヤー二人にコントローラーを投げ渡す。
やはりな。とヨシキは納得する。
このゲームなら、コントローラーを増やせるらしい。
サユキさんも苦い顔をしている。おそらくこれがサユキさん攻略の最妙手だろう。
「行うゲームはこいつ。魔物・人生ゲームだ」
「はぁ!?」
「ちょ、それで俺まで参戦なのかよ!?」
ゲームが始まり、皆がアバターを創り出す。
「いいか。サユキさんに勝利することがこのステージの勝利条件だ。こいつの勝敗はなんだ?」
「そりゃ人生勝ち組の一位になる……そうか!」
つまり、四人対戦型、サユキさんにとっては三対一の戦いであり、四人中一位で勝利しない限り彼女の敗北が決定する。
もちろん。その場合勝者一人だけが生還し、他は死に戻るだろう。
しかし、プレイヤーにとってイベント中の死など無意味に等しい。
ならば、これこそが、サユキさんを倒す最善手である。




