516.第三回イベント、十二日目・恐怖の迷宮
「ヒャッハー!」
パンク頭が四人。世紀末に居そうな肩パッドの下っ端たちは、迷宮に迷い込んでいた。
それでもただの迷宮だと思っているため、未だやる気は十分。
ただただ楽し気に迷宮内を彷徨っていた。
「オイオイオイ、俺っちは魔物でもでるんじゃねェかと思ってたのによォ、なァんにもいねェじゃねェか? あァ?」
「ただの迷路だったりしてなー」
「そりゃねーよ。そこかしこから悲鳴上がってっし」
「つかよ、なんか変じゃね?」
四人は足を止め、変だと告げたやられ役を見る。
「変?」
「おゥ、俺らァ数百人規模のプレイヤーと来たンだぜ? なんで誰とも会ってねぇの?」
「言われてみれば、確かに?」
そう、彼らが迷宮に入る前、周囲にはたくさんのプレイヤーたちがいた。
皆気を引きしめていたのは理解していたが、まさか彼らと離れ離れになり、未だに会えていない状況に陥るとは思っていなかった。
「未だに誰とも会ってないってことは、それだけ広い迷宮か? あるいは会わないような通路になってるか? それとも……」
「遠くで上がってる悲鳴ってよォ、まさかとァ思うが……」
気のせいか、周囲の気温が下がった気がした。
はは、まさか。誰ともなく乾いた笑いが漏れる。
「……ケケ」
「お、オイオイ、誰だよ、変な声出すなって」
「俺じゃねェし」
「とかいいつつお前が出したんだろ?」
「いや待て。なんか、後ろから聞こえてなかったか?」
四人は嫌な汗が流れるのを感じつつ、振り返る。
暗く、視界の悪い迷宮の中、ソレは暗がりの奥からやって来た。
ひたり、ひたり。ずるり、ずるり……
おおよそ足が出せる音ではないモノを鳴らしながら、ソレはゆっくり姿を現す。
「あ、ありゃぁ……」
闇の中から足、の代わりに細い腕。
白く細い腕が床にひたりと手をついた。
ずるり、音をひびかせ肩から先が闇より来る。
ひたり、逆の腕が床に手のひらぺたりと着けて、
うつむき加減の黒髪ゆらり。
床まで垂れた髪がゆれ、上半身が現れる。
ケケ……
ひたり。右手が床に着くと、それを起点に左手が歩を刻む。
上半身を揺らしつつ、女の体が現れた。
しかし、ソレに致命的なモノが無い。
ケケケ……
ずるり、消えた下半身の代わりに引きずる、
こぼれた臓器がずるりと動く。
てけ、てけ、てけ、てけ、ソレは両手で歩く者。
下半分は消え去った。
今無き足を永遠求め、生者の半身を引きちぎる。
都市伝説にして学園七不思議、恐怖のテケテケさんが現れた。
「あ、あぁ……」
「ケケ、ケケケケケケケケケッ!!」
うつむいていた顔が急激に上がる。怨嗟の顔を見た瞬間、やられ役四人は一斉に走り出していた。
脇目も振らずに走り出した四人を見送り、テケテケさんは舌なめずり。
「ケケケケケケケケケッ!!」
そしてすぐさまトップスピード、下半身のない女が両手で走り出す。
臓器が風になびき液体をまき散らし、世界を呪う少女がひた走る。
走り続けるモヒカン男にすぐさま追いつき、両手で持った鎌を引き絞り飛びかかる。
「おいテケ! 下半身、おいテケェッ!!」
「ぬおぉぉぉぉっ、テケテケさんお帰りくださいぃぃっ」
「無理無理無理、ホラーは旧校舎だけで十分よぉーっ」
「うおぉぉぉ。まだ、まだ死にたくねぇぇぇ!!」
「なんで、なんで俺らばっかこんな……あっ」
一人の足がもつれた。
他の三人は止まれない。
結果。一人だけ倒れ込み、テケテケさんに追いつかれる。
「あ、ああ……ぎゃああああああああああああああああああああああああああ――――っ」
そして絶叫が轟いた。
彼らはようやく理解する。
今まで聞こえていた絶叫。それはテケテケさんと出会い追いつかれた哀れな贄の断末魔であったことに。
「畜生、やられちまった!」
「聞いてねぇよ、なんだありゃ」
「協力して旧校舎突破したのに、敵に回るとあんなに怖いの!?」
「おい、素がでてンぞ!」
「お、おお、すまん。しかし、どうする、俺らでも何か勝てるものがあるかと思ったが、こりゃ貧乏くじ引いたんじゃねぇか?」
「と、とりあえず、ここまでくりゃ追ってはこねぇだろ。途中いくつか分かれ道あったし」
「そ、そうだよな。逃げ切ったんだよな俺ら……」
「お、おい、それフラグ……ぁ」
そしてやられ役たちは気付いた。
前方から、ひたり、ひたりと聞こえてくることに。
そんな馬鹿な。テケテケさんが先回りなんてありえない。
そう思いながら三人揃って震えるソコへ、一人の女がやって来た。
顔にマスクをつけた、普通の女。
普通の女のはずだった。
なのになぜ、彼らの全身に悪寒が走るのか。
「ねぇ……ワタシ、キレイ?」
「く、口裂けぇぇぇ!?」
三人の逃走はまだ、始まったばかりである。




