515.第三回イベント、十二日目・アイネさんの森
勇者ブレイドがギーァと戦っていた頃のこと、とある森の中でもまた、死闘が繰り広げられていた。
マンホール少女マイネを代表としたヒロキ奇襲部隊は、本日もアイネさん狩猟部隊と遭遇していた。
「どっから出てくるのよ、あの壁!」
マンホールを投げるが、その壁に阻まれマンホールの勢いが止められる。
一定以上の壁、もとい幼虫たちを消し飛ばすまではできるものの、無数に出現している蜂の幼虫みたいな巨大生物はアイネさんたちへの攻撃を防ぐ肉盾となり、これがプレイヤーたちを苦戦に追い込んでいた。
何しろアイネさんたちに当たるはずの遠距離攻撃は全てその身で受け止め散っていく。
状態異常は幼虫の能力で無効化されてしまい、アイネさんたちに届かない。
そしてアイネさんによる六角迷宮巣により無限に現れる幼虫たち。
彼らは率先して敵の攻撃を受けることでその巨体でダメージを受け止め、アイネさんたち主動部隊へのダメージを防ぎ、彼らの攻撃を事前まで敵に察知させない、まさに複数体による集団タンクを務めてくるのだ。
ゆえにマイネたちの攻撃はほぼアイネさんたちに届くことなく。幼虫たちだけが無数に生まれ散っていく。
そして攻撃を潰されたプレイヤーたちだけが徐々に数を減らして狩られているのである。
本日も、今まで通りに周囲のプレイヤーが狩られていく。
マイネとしてもそれはすでに了承済み。彼女の目的は各個撃破だ。
アイネさんたちは復活ができないため、ともかく一体ずつ集中して倒すことで徐々に数を減らすことに注力しているのである。
「あーぁ。死んじゃった」
アイネさんの同郷で一番小さな個体がようやく死亡した。
犠牲はプレイヤー側累計3万7392名。テイムキャラ4955名。重複あり。
さすがに、アイネさん部隊としても回復ができないせいで徐々にだが脱落者は出ている。
それでもプレイヤーたちが消される方が多いのは、やはりレベル差のせいだろう。
「ええい、キカンダーさん突出しすぎ! それ罠だからっ! グレートマンさん不用意に空飛ばないで! 格好の的になってる!! ジェイクさんあそこのアベイユ星人を……って死んでる!?」
ふと振り向いた場所には、先ほどまで立っていたはずのジェイクはおらず、首を無くした体がどぅと倒れるところだった。
「クソ、どれだけ俺らを殺すつもりだよ! いい加減潰れろアベイユ星人ッ!!」
プレイヤーの一部も必死に抵抗しているが、アベイユ星人たちの動きを追い切れずに徐々に狩られて消えていく。
「亜光速突破」
「なっ、消え……」
何かが通り過ぎた。
それに気付いた時にはもう、アイネさんの射線にいたプレイヤーが悉く死に戻った後だった。
立体機動に加えて亜光速、あるいは光速突破による認識外からの暗殺。
アイネさんがダメージをほとんど受けない理由の一つだ。
幼虫たちに守られ後方待機しているアイネさんだが、時たまこうやって高速移動しながら攻撃してくる。
こちらの認識できる速度を超えるせいで暗殺攻撃の効果が上がるのだ。
さらに毒液を使った槍で攻撃してくるので、誰も反応すらできず死に戻る。
なんとか止める手立てがあればいいのだが、今のところそのような良い方法など一切考えつくことはなかった。
それでも、必死にプレイヤーたちはダメージを与え続ける。
一番ダメージを与えているのは魔法使いによる範囲魔法だろうか?
まとめて広範囲にダメージを与えられるので、上手く発動すればアイネさんのHPを削ることができるのだ。
とはいえ、アイネさん側もそれは理解している。
魔法を唱える素振りがあれば、そいつを優先的に狩りに来るのだ。
前回はそれを逆手にとって誘い待ちしてみたものの、アイネさんの突撃で諸共に消失してしまい大して意味はなかった。
マイネとしても他プレイヤーたちと協力せず、という孤高の戦いはもはや無理だと判断しており、アイネさん攻略を目指すプレイヤーたちと事前会議まで開いて今回の戦いに赴いていた。
ゆえにフォーメーションは完璧。
不用意に近づいてきたアベイユ星人を中央に誘い集中攻撃。
アイネさんにまた数十人殺されたものの、集中攻撃が功を奏して大人型アベイユ星人を一人潰すことができた。
まだまだ敵の数は多い。しかし、牛歩とはいえ、着実にその数は減っていた。
「しまった!?」
キカンダーさんが思わず叫ぶ。
マイネも気づいたが、その時にはもう、グレートマンが産卵を受けてしまった後だった。
グレートマンももはやこれまで、と覚悟を決めたようで敵陣へと突撃していく。
数秒後、敵陣の只中で、グレートマンさんがはじけ飛ぶ。
残念ながらアベイユ星人側に脱落者は出なかったが、それなりのダメージは与えてくれたらしい。
残ったキカンダーさんと共にマイネは撃破されるまでひたすらに攻撃を続けるのだった。




