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508.第三回イベント、十日目・ゾンビパニックの激戦・後編

「おいだぬ、気付いてるか?」


「あん? あー、背後の付いてきてる奴らか?」


「ああ、何のつもりか知らんが、ずっと俺たちをつけている」


 もうすぐシルビアさんのいる場所、という段になり、未知なるモノは背後の不安要素を口にする。

 自分たち三人から付かず離れず、かなり大人数が移動している。

 索敵を使えばすぐにわかる大集団だが、ゾンビとの戦いでたまに数人消えているのが見える。

 それでも、未知なるモノたちの背後を着いてきているのだ。


「大方漁夫の利狙いだろ。シルビアさんを見つけるのが目的だ。最悪そいつらに撃破を任せるのもありだろ」


「まぁいい気分じゃねぇが、俺たちの目標はここの解放だしな」


「そういうこった。そいつらは放置、シルビアさんと会うぞ」


「会話中に乱入されないか不安ですね」


「ああ、確かにその可能性はあるのか」


「そんときゃそん時だ。イベントなんだ、多少の無礼は多めに見てやろうぜ」


 イベント大会中ということもあり、だぬのお気楽な考えに二人は賛同する。

 そして背後の団体を引き連れたまま、シルビアの居る場所へとやって来た。


「このビル、か?」


「多分屋上ですね」


「よし、二人ともこっちに」


 だぬと案内人が未知なるモノの元へと集まる。

 未知なるモノは二人を囲う様に腕を振る。

 すると二人に腕が巻き付いた。


「ひぇ!?」


「ほんと人の体した人外だなぁ」


 二人を固定すると、逆の腕を真上に振り上げビルの中間地点にある窓枠を掴む。

 そのまま一気に真上に加速し、中間地点を飛び越えビルの上へと吹き飛んだ。

 空中で反転し、屋上の一角に手を伸ばし、一気に体を引っ張る。


「と、っと、ちょいと勢いつけ過ぎたな」


「じぇ、ジェットコースターよりやべぇな今の」


「予想してなかったらヤバかったです。はー、怖かった」


 屋上へと降り立った未知なるモノが二人を解放すると、その場によろよろと崩れる案内人。

 だぬはそこまで怯えてるわけではないが、ちょっとだけ体勢を崩しかけていた。


「驚いたわ。まさかここに来るなんて」


 落ち着いた三人に、声がかかる。

 声のした方向へと視線を向ける。

 そこには、片目が白髪に隠れた少女が立っていた。


「一応聞くが、あんたに会えたら何かしらの勝敗が付くのか?」


「私が死ねばもう出てこなくなる。結果的にゲームは解除される。脱出しても一応クリア。そのパーティーだけは先に進める」


「あー、そういうゲームかよ」


「完全開放を目指すなら貴女を倒さなければならない、ですね?」


 案内人の言葉にこくりと頷くシルビアさん。


「ただ、私には大した攻撃手段がないので、どうせ負けるのは確定、なので……クリアおめでとう」


 と、拍手しながらビルの縁へと向かう。


「何をするつもりだ?」


「……まさか!?」


 一早く気付いた未知なるモノが走り出す。

 しかし、彼が届くより先に、シルビアさんは背後へと倒れていく。

 伸ばされた手は、しかし空を切る。

 ビルから落下したシルビアさんが急激に離れ、そして……闇のゲームが終った。


「クソ、また勝ち逃げかよ」


「自らゲームの幕を下ろすとは思いませんでした。でも、これでクリア、ですね」


「ショートカットしたおかげか着いてきてた奴らが追い付くより先に終わっちまったな。結局何だったんだろうな?」


 広場へと戻って来た未知なるモノに、背後から二人の声がかかる。

 伸ばした手を握り戻し、未知なるモノは虚空を見上げる。


「未知なるモノさん?」


「……いや、次に行こう」


 クリアはクリアだ。

 一人納得し、未知なるモノは次の広場へと歩き出す。

 広場を出るあたりですでに待っていた女性陣と合流し、皆で次の広場へと向かう。


「こっちは脱出手前で終わっちゃいましたけど、やっぱりシルビアさん撃破がクリア条件ですか?」


「ああ、うん。一応脱出したチームはそのまま次に行けたみたいだよ。残念ながらそのチームだけしか脱出できないらしいけど」


「シルビアさん撃破でゲーム強制終了って奴だな」


「あのー、未知なるモノさん、ちょっと怒ってません?」


「あん? そんな気配なかったが……」


「シルビアさんが自害したせいかもです」


 正直、自分も少しやるせなかった、と案内人が告げる。

 まさか倒されたのではなくシルビアさん自害だったと聞かされた女性陣は何とも言えない顔をする。


「広場だ。皆気合を入れろよ」


 広場に辿り着き、皆が警戒を始めた瞬間だった。

 視界が暗転し、広場が一転、左右が壁に囲まれた通路へと変化する。


「ここは!?」


 未知なるモノは慌てて周囲を見回す。

 しかし、知り合いのプレイヤーは一人も近くに存在していなかった。


「ごきげんよう未知なるモノさん」


「ッ!? 次のボスはあんたか、口裂け女。確か、彩良……だったか?」


「ええ。た、だ、し。私一人じゃ、ないのよねぇ」


 にぃと口元をゆがめる彩良さん。はるか遠く、どこかの誰かの声だった。悲鳴が、聞こえた。

 一つ、二つ。次々に悲鳴が上がる。

 

「ここは心象具現・デスサイズ迷宮。さぁ、戦いの時間はもう終わり、ここから先は、ホラーの時間よ」


 絶望の時間が……始まった。

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[一言] ホラーの時間だぁ
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