505.第三回イベント、九日目・ゲームに勝たないと出られない部屋
「未知なるモノさん、どうします?」
「……先に進もう。ギーァに関しては勇者ブレイドに任せよう。俺たちは先に向かって次の敵を見ておく、じゃねぇと対策も立てれねぇからな」
「了解。えっと、フェノメノンマスクさん、は?」
「僕はもう少しここで休むよ。さすがに蟲毒壺の中は大変だったからね。落ち着いたらブレイドのフォローにでもいくさ」
やることはやり終えた、とでも言うように、その場に座り込むフェノメノンマスク。
実際結構な激闘だったからな。勝利を噛みしめたいのかもしれない。
「行こうか、格ゲー少女」
「はい!」
未知なるモノと格ゲー少女はフェノメノンマスクに別れを告げると、先へと向かって歩き出す。
先へと向かっているメンバーは今はいない。
ギーァにより悉く潰されてしまったからだ。
あるいは残ったメンバーもギーァを追って広場を離れてしまっていた。
つまり、この先を見られる最初のメンバーは、未知なるモノと格ゲー少女だけである。
鬱蒼と生い茂る左右の森に囲まれながら、ただただまっすぐ伸びた道をひたすらに歩く。
すると、またも現れる広場。
否、それは広場ではなく、広場だった場所に小さな小屋が一つ建っていた。
さらに次のルートへ延びる道が小屋の裏手に存在している。
要するに小屋に入って突っ切らないと次のルートへ向かえないということである。
「これ、森通ったらどうなるんでしょうか?」
「さすがに想定してるとは思うが、可哀想だからやめてやれ。多分アカズさんだろうけど、泣くぞ」
「あー、確かに道を外れて敵を放置したままさらに奥へ行くなんて外道な行為ですしね」
「ヒロキなら迷わずやるだろうが、俺はやらん。正面から行くぞ」
「背後警戒します」
未知なるモノが警戒しながらも扉を開く。
足を踏み入れ、問題がないと分かるや、ゆっくりと室内へと足を踏み入れる。
格ゲー少女は未知なるモノの姿が消えると、入り口側を背に、外を警戒し始める。
右に左に視線を向けていると、未知なるモノから入っても大丈夫だ、とお墨付きが出た。
格ゲー少女が室内に入ると、そこには二人の少女が待っていた。
先に入っていた未知なるモノは、部屋を見回し呆れている。
それもそうだろう。
そこは六畳一間といえる狭い部屋。
部屋の中には万年床の布団が敷かれ、寝転ぶ太り気味の女性の傍に、屑籠、ポテチの袋、ティッシュ、ペットボトルの群れ、ゲームのパッドなどなどなど。
手が届く範囲にほとんどのアイテムをちりばめて、サユキさんがゲームをしていた。
「おこしやす、でいいかしら」
そしてもう一人。
勝気な瞳と赤い髪、赤い和服の少女が愛らしくお辞儀する。
ポニーテールにまとめた後ろ髪が逆立っている少女だ。
「アカズさんとサユキさんがペア組んでんのか?」
「違うわよ。私は付き添い、ここのボスはサユキよ」
「付き添い?」
「簡単に言えば彼女のスキルを十全に使えるように補助しに来たってところね。ここは戦闘禁止空間に指定されているわ。つまり、私を攻撃するにはサユキを倒さなければならない、ということね」
「せや、ウチがここのボスですわー、どっちかゲームしよかー」
ゲームのコントローラーを指さすサユキさん。
格ゲー少女が戸惑いながらも座り、コントローラーを手にする。
「ジャンルはどーするー? ウチが持っとるんこれとこれとこれとかやけど」
「ではそこの格闘ゲームで」
「おけー」
サユキさんと格ゲー少女がゲームを始める。
未知なるモノとしてはよく知らないゲームだったが、格ゲー少女は気にせずキャラ選択を終えて戦闘モード。
ラウンドワンの言葉と共にゲーム内でゲームが始まる。
意外と二人とも良い戦いするな。
遠距離で牽制しつつも接近し、一定の場所に行くと全力で殴りかかった。
互いに行動をキャンセルしながらの連撃攻撃。
攻撃を受けて受けられ、弾き弾かれ攻防が繰り返される。
「意外とやるやん」
「くぅ、私の得意分野でここまで攻め手に欠けるなんてっ」
「ふふ、ここで奥の手、十六連射や!」
格ゲーには関係ないのでは?
未知なるモノは訝しんだ。
「って、突撃しながら十六連射弱パンチ!?」
「ぬははははははは、理不尽なハメパンチをくらいなーっ」
格ゲー少女は頑張った。
むしろかなり拮抗したと言ってもいい。
しかし、ゲームセンスがずば抜けているサユキさんの奇怪なキャラ捌きを前に、慣れないゲームというのもあり、健闘むなしく敗北。
続く未知なるモノも、ゲームに関しては並みの動きしかできなかったため、特に何かしらの反撃も出来ずあっけなく敗北した。
ゲームに負けると強制敗北になるらしく、格ゲー少女に続き、未知なるモノもまたスタート地点に死に戻る。
そのスタート地点では、ギーァが猛威を振るっているのが遠目に見えるのだった。




