502.第三回イベント、九日目・ツチノコさん攻略戦・中編
「リロードブレイブ、我が力の全てを糧に!」
ブルーメタリックの豪奢な鎧を着た少年が剣を構えて叫ぶ。
剣を中心に光が集まり、一撃必殺の大技が発動する。
「ブレイブ・ブラスターッ!!」
六ツ首となったツチノコさん一号に向け、勇者ブレイドの必殺技が放たれた。
避けることは無理と悟ったツチノコさん一号はその場で気合を入れ、堅牢スキルを発動する。
必殺の一撃が吹き荒れ、光の本流がツチノコさんを飲み込んでいく。
そして……
体のほとんどを紛失したツチノコさん、だったモノだけが残った。
「凄い一撃だな」
「ダメージ量なら未知なるモノさんも死ぬんじゃないですかアレ?」
「まともに食らえばおそらくな。しかし……フェノメノンマスクは大丈夫なのか? 手伝った方がいいんだろうか?」
ツチノコさん二号により壺の中にしまわれた彼が今どうなっているのか、パーティーを組んだために死亡したかどうかが確認できるのだが、今のところ彼が死に戻った様子はなくまだ生存しているらしい。
ただ生存しているだけなのか、抗っているかがわからないので迂闊に手をだせないのだ。
抗っているのなら手を出すのはマナー違反になってしまう。
「やったか?」
「ちょ、ブレイド、フラグ立てんな!?」
「あ、やば……ウソだろ!?」
復活フラグ立ててしまった。と慌てたブレイドだが、その一瞬後、逆再生するようにツチノコさん一号の体が戻っていく。
しかも頭は六ツ首のままである。
「あんな肉片からでも再生すんのか!?」
「未知なるモノさん並みですね」
「さすがに俺でもあの状態からは無理だと思うぞ」
ツチノコさん一号は再生完了と同時に動き出す。
勇者ブレイドに這い寄ると、彼の連撃を頭の一つ一つ犠牲にしながら突撃。
最後の一頭となった時、迫る凶刃を自らの口で白刃取る。
「なっ!?」
すぐに復活してくる五つの頭。その全てが、勇者ブレイドの四肢と首に嚙みついた。
「まずい!?」
「ぐっ。まだ……リロードブレイ」
しかし、最後の抵抗も、白刃取り中の頭が勇者ブレイドを見据えた瞬間、むなしく終わりを告げた。
勇者ブレイドの体が硬直する。
魔眼により麻痺が付与されたのである。
「クソ、格ゲー少女、ここまでだ、二人を助ける!」
「は、はい! 影渡り行きます」
五か所から毒液を注入された勇者ブレイドの体が壊死を始める。
そんな彼の影から現れた格ゲー少女はすぐさまツチノコさん一号の胴を蹴りつけ、勇者ブレイドから引き剥がす。
「毒消しです、早く飲んでくださいっ」
麻痺消しを使いながら毒消しを手渡す格ゲー少女。
その背後から、ツチノコさん一号が迫り寄る。
「行きます、スキル発動、スキルキャンセル」
振り向く動作をキャンセルし、攻撃を発動。
近づいてきたツチノコさんに振り向きながら突撃し、ノーモーションで掌底を叩き込む。
ツチノコさんの頭の付け根に手形が押し付けられ、ツチノコさんが吹っ飛んだ。
遠く離れた森の木に激突し、ずるずると落下する。
「ここからは私が相手ですツチノコさん!」
拳を握り、左手を前に、右手を顎前に、左足を前に踏み込み腰だめに力を籠める。
「スキル発動、連撃一矢」
「シャーッ!!」
「影渡り!」
自らの影に溶けるようにとぷりと消えて、ツチノコさんの影から姿を現す。
驚くツチノコさん向けて、渾身の拳を打ち込む。
ツチノコさんはとっさに堅牢を使い自らの防御力を高めるが、拳がめり込んだ瞬間、当たったはずもない場所にまでダメージが波及し、連撃が叩き込まれた。
「一撃入れれば十連撃になるスキルなんです、凄いでしょ」
「シャー!?」
なんとか反撃しようとするツチノコさん一号だが、ダメージを受けた時の硬直時間を利用されるせいで満足に動くことすらできずダメージを負っていく。
「ダメージエフェクトで回復量わかるけど、何でこんなに回復してるのぉ、ふえぇん!?」
泣きそうになりながら必死に連撃を繋げていく。
おそらく途切れた瞬間、ツチノコさんの反撃を受けて倒されてしまうだろう。
一見押しているように見える戦いだが、実は格ゲー少女にとっては薄氷の上の戦いだった。
何しろ与えるダメージと回復量がほぼ一緒なのだ。
倒せるけど倒せない。
これだけ続けてようやく1ダメージ与えているのと大差なく、動きを止めると回復量が上回ってダメージがなくなってしまう。
「だ、誰か手伝ってぇ!」
しかし他のプレイヤーたちはいない。
勇者ブレイドとフェノメノンマスクが潰しに行くと知ったプレイヤーたちが遠慮してシルビアさん攻略に向かってしまったために他のプレイヤーがいないのである。
勇者ブレイドの復帰までまだかかりそうだ。
未知なるモノの助っ人参戦は期待できない。彼は彼で土瓶神と戦っているからだ。
つまり、自分一人で六つ首のツチノコさんを倒さなければいけないのである。




