501.第三回イベント、九日目・ツチノコさん攻略戦・前編
「さて、九日目に入ったね」
「勇者ブレイド、今日は早いな」
「ようやくそれなりに見栄えの有るイベントになったからね。我が威光を存分に発揮しないと。そのために……」
「どうやら僕の力が必要みたいだね。フェノメノンマスクだ、よろしく勇者ブレイド」
「今日はよろしく頼むよ」
互いに握手を交わし、ツチノコさんたちの待つルートへと向かう。
二人の出会いを見届けた未知なるモノもまた、格ゲー少女と共にツチノコさんルートへと向かうのだった。
今回はコトリさんもシルビアさんも放置する予定だ。
いや、他のメンバーが攻略に向かうだろうが、未知なるモノたちは攻略に参加しない予定なのである。
ツチノコさんを撃破できるかどうか、そして進んだ先に誰がいるかの確認をしたい、だから二人はこちらのルートを選ぶのだった。
勇者ブレイブとフェノメノンマスクが広場へと辿り着く。
すでに広場に着いていたプレイヤーたちが目に見えないマダにーさんの群れを相手に悪戦苦闘している。
というか一方的に蹂躙されていた。
「さて、どうする?」
「汚物は焼却、だろう?」
パイナップル型の緑色した物体を手にするフェノメノンマスク。
「お、おいまだ俺らが……」
「どうせ死に戻るだけだ。それに、マダにーさんに噛まれたなら諦めろ。スキル発動、効果範囲拡大、威力拡大、燃焼時間増加、爆風操作。化学反応大爆破!!」
それはたった一度の投擲だった。
手榴弾がありえない威力で爆散する。
周囲にいたマダにーさんばかりか味方プレイヤーも根こそぎ粉砕し、広場を炎が嘗め尽くす。
「わわ、威力高いっ」
「チッ、風向きが悪いな、威力が低い」
舌打ちするフェノメノンマスク。本来であればPK確定の行為なのだが、イベントでデメリット少なく死に戻りができるということもあり、イベント中のPK行為に関しては悪質を除いてレッドネームにならないように設定されていた。
おかげでフェノメノンマスクが悪人堕ちすることはなく、ただただ邪魔な全てを薙ぎ払い、味方に貢献しただけになる。
「ツチノコさん二匹とも残ったか」
「三つ首はお任せを」
「だろうな。なら土瓶神はこちらで貰うよ」
勇者ブレイドが三つ首の蛇へと斬りかかり、フェノメノンマスクが土瓶神のツチノコさんへと襲い掛かる。
レベル差をものともせずに、相手を追い詰めていく勇者ブレイド。
中距離でツチノコさんの攻撃を食らわない場所からいやらしいほどのヒットアンドアウェイ攻撃を行うフェノメノンマスク。
双方戦闘スタイルこそ違うものの、ツチノコさんたちを追い詰め始めていた。
「シャー!?」
勇者ブレイブの一撃がツチノコさんの首一つを真っ二つに切り裂く。
そして四つ首に至るツチノコさん。
「八つに増えたら八岐大蛇とかになったりしないよな?」
勇者ブレイドの軽口だが、ツチノコさんならなりかねないので軽々しく返事できない未知なるモノと格ゲー少女。
誰からも返事がなかったせいでちょっとへこんだ勇者ブレイドであった。
フェノメノンマスクもまた、土瓶神との激闘を繰り広げていた。
無数の爆炎が上がるものの、ツチノコさん二号は八大魔法で全て対処してしまう。
フェノメノンマスクにとって自分の必勝の策が通じない相手は初めてだった。
すぐに倒せると思っていただけに焦りが出始めるが、自分に任せろと告げてしまった手前やっぱりパス、という訳にもいかない。
決め手を欠くままただひたすらに大爆発を起こし激闘を匂わせているだけであることを、彼だけが理解していた。
「シャー!」
「っ!? ……なん、だ?」
不意に、ツチノコさん二号が叫んだ、と思った次の瞬間。
フェノメノンマスクは暗闇の中にいた。
なぜそこにいるのか理解に苦しむものの、何かしらのスキルだと当たりを付けて周囲を警戒する。
「無数の敵性反応?」
暗闇で周囲が分からない中での初手爆撃。
自分にダメージが行くのも無視して周辺一帯をことごとく焼き払う。
炎に彩られ、周囲が明るく照らされると、そこが何なのかを理解した。
「確かスキルにあったな、呪いの壺……」
壺の中に敵を放り込み蟲毒の戦いを始める。
ログイン前、ヒロキンチューブにアップされたツチノコさんたちのステータス動画、フェノメノンマスクもしっかりと予習はして来た。
まさか自分が一番嫌だと思った攻撃を食らうことになろうとは、と思わず一人言ちる。
つまりここは蟲毒壺の中。
敵意ある存在はそのままこの壺の中に存在する無数の毒虫。
先程本能的に周辺を焼き払わなければ、マダにーさんにより殺されていたのは確実だろう。
おそらく、ここからの脱出は全ての虫を倒し、たった一人の蟲毒の主になった時だけだ。
それまでは、ひたすら虫と殺し合うしか道はない。




