498.第三回イベント、八日目・ネネコさん攻略戦・前編
「現役相撲取りはなかなかいなかったけど、相撲好きとか、格闘技齧ってる人なら何人かいたよ」
スタート地点に未知なるモノがログインすると、案内人が早速やって来た。
イベント8日目。
余裕があると言えばまだ余裕がある。
しかしヒロキが持っているテイムキャラの総数を考えると少し遅い気がしなくもない。
できれば本日ルートを一つ先に進めておきたいくらいだ。
コトリさんを撃破してあるので数日分こちらが有利になっているはずなんだが、余裕は全く感じない。
今のルートはネネコさん、シルビアさん、だっけ? それから二匹になったツチノコさん。
さて、ここですぐにでも勝てそうなメンツはと言えば、ツチノコさんだろうか?
しかしあそこの大問題はマダにーさんである。
イベント開始と共に向かったメンバーから、前回割った壺から溢れたマダにーさんは地面にまき散らされたままになっているらしく、広場に着いた瞬間襲われたメンツがマダにーさんを増やして死に戻りしているそうだ。
卵生まれたらプレイヤーの死と引き換えに数匹増えるからなマダにーさん。
このまま増えられるとルートが一つ侵攻不能になりかねない。
なんとかしねぇと……
「あんたが未知なるモノ、だよな」
「ん? あんたは?」
声を掛けてきたのは少年だった。
ガスマスクをつけたそいつは、いつだか見覚えのある人物だ。
「フェノメノンマスクだ、今日はちょっとあまりログインできないんだけどさ夜なら空いてるんだ。九日目までツチノコさんが残ってるようなら僕が駆逐してやるよ。とりあえず宣言と顔見せはしておこうと思ってさ。んじゃ、また夜に」
どうやら本当に挨拶するためだけにログインしてきたらしい。
フェノメノンマスクはそのままログアウトしていく。
「なんです彼?」
「さぁ? でもツチノコさん戦に言及してたし、自信はあるのかもしれないな」
「あのー」
二人の元へまた一人、誰かがやってくる。
メカクレ系少女はおずおずといった様子で二人に声を掛けると、視線に射抜かれわたわたと慌てだす。
なんとか深呼吸を二回して、話し始めた。
「私のテイムキャラ、ネネコさんに勝てないでしょうか?」
「テイムキャラ?」
「はい。こっち来てゴブリア」
「はーい」
それは、悪夢の出来事だった。
未知なるモノと案内人はソレを見た瞬間硬直する。
まるでフレーメン反応のように、ものすごい顔になっていた。
人込みを掻き分け、というより押し飛ばしながら手を振り駆け寄ってくるアイドル衣装の女性。
いや、女性? 走っているので揺れる大胸筋。迸る筋肉、浮き出る力こぶ、乙女走りでスプリンターも裸足で逃げ出すほどの筋肉しか詰まっていない足。
緑のガチムチ体型に濁った黄色い目、大きな口から覗くチャームポイントの鋭い牙。
オーガかと思えるほどにヤバいゴブリンが乙女走りで現れた。
「えっと、私のテイムキャラのゴブリアです、アイドル目指してるんですよ」
「そ、そっかぁ……」
「相撲は出来そうゴブリア?」
「ええ。華麗に勝って見せるわ」
華麗というより力づくで、だと思う。
未知なるモノは喉元まで出かかった言葉をギリギリで飲み込んだ。
「よし、行こうゴブリア! 打倒ネネコさん、有名になろうね!」
「ふふ、私の美貌に釘付けにしてあげるわ」
そして二人が去っていく。
しばしの時間を経て、再起動した案内人と未知なるモノは同時にため息を深く吐き出した。
「いろんな人が、いますね」
「変わったプレイしてるのはヒロキだけじゃない。か、ま、当然だな」
「クソっ、やられたっ」
二人がどこへ向かおうか、と相談しかけた時だった。
スタート地点に死に戻って来た勇者ブレイドに遭遇した。
「ブレイド!?」
「ツチノコさんに負けたのか?」
「それ以前だ。マダにーさんが地面に分布し始めたせいで迂闊に広場に向かえない。ツチノコさんに出会う前に噛まれて死に戻った」
「あー……」
「えっと、今日の夜、九日目ならツチノコさん退治任せろって人がいましたよ。フェノメノンマスクって人なんだけど」
「ああ、前回大会に出ていた彼か。確かに彼の攻撃手段は広範囲攻撃、マダにーさんをまとめて倒すのには特化してるか……なら今回は捨てるべきだな。ゾンビハザードに向かうことにするよ」
「そか? んじゃ俺らはどうする?」
「せっかくですし僕らもご一緒しませんか? 今はネネコさんステージ行きたくないですし」
「ツチノコさんステージも迂闊に踏み入れることが難しくなってるしな」
結果、未知なるモノと案内人は、勇者ブレイドと共にシルビアさんの居るハザード脱出ゲームへと向かうのだった。
ただ、あまりにも多いゾンビの群れに脱出は難しく、三人だけでは摺りつぶされて終わりであった。




