488.第三回イベント、五日目・進軍開始
コトリさんが撤退したのを確認し、テインさんもまた空間に溶けるように消え去っていく。
その場に残されていたティンダロスの猟犬たちもまた、空間への消え去っていった。
少し遅れ、主の居なくなった呪滅結界が消えていく。
「これは……結界がなくなった?」
「スタート地点解放だ!! 俺たちは、やった、やったぞーっ!!」
コトリさんを殺し切ることはできなかったものの、四度の死を持って撤退へと追い込んだ。
初見の危険人物も現れたものの、プレイヤーたちの勝利と言ってもいいだろう。
しばし、時を忘れ、近場の仲間たちとスタート地点の解放という勝利に酔いしれる。
「全員、集まってくれ」
勝利に沸いた皆が落ち着くのを待って、だぬが大声を上げる。
一番の功労者と言ってもいいだろう。
彼が先陣を切ったことでコトリさんを撤退に追い込んだのだから。
だから、その場のプレイヤーたちは素直に彼の元へと集まった。
「勝利に沸いてるとこすまねぇ、だが、このイベントの目的はコトリさん撃破じゃねぇ、ましてスタート地点の解放でもねぇ。これはようやく初めの一歩を踏み出せたってところだ。敵はあのヒロキン。えげつないトラップやメンバーをまだ隠し持ってるはずだ。イベント日数は二十一日で今は五日目。まだ十六日ある、あるが、時間は常にぎりぎりだと思っていいだろう。コトリさんが粘ることなくあっさり引いたことも不安がある。何よりついさっき現れた新キャラ、ティンダロス関係のNPCがいるってだけでも恐ろしい。けどな。俺らはコトリさんを撃退した。またコトリさんと戦うことになっても確殺攻撃が効くのはわかっただろ。俺たちは、勝てる! だから、皆の力を貸してくれ。好き勝手に行くだけじゃヒロキンにゃ勝てねぇ、情報を密に、皆で倒そう!!」
「まずは先行組が向かっている三つのルート、最初の関門を突破する。敵の詳細はすでに伝達されてると思う、自分が倒せそうな場所に向かってくれ。このまま一気に押し進めよう」
だぬの言葉を引き継ぎ、未知なるモノさんがまとめに入る。
ここからようやくスタートだ。
五日も足踏みしてしまったが、まだまだ十分イベントでの勝機は存在する。
諦めるなどまだ早いのだ。
気合を入れなおし、プレイヤーたちが走り出す。
今、やるべきは蛇々利さん、メリッサさん、散紅さんの撃破。
デスゲーム内で彼女たちの攻略が目標である。
加え、奇襲組もまだあきらめてはいなかった。
アイネさんたちを倒してヒロキ向けてショートカットしようとするメンバーも多く集まり、突撃を開始、さらにアイネさんたちの居る森は向かわず三つのルートのさらに外側を迂回してヒロキに奇襲をかけようというプレイヤーたちも動き出す。
ここからが本番だった。
本来最初の一日目に行おうと思っていた行動を、五日遅れでプレイヤーたちが辿りだす。
「皆さんどこ行きます?」
「決めかねてるが、案内人君は?」
「僕の能力だとメリッサさんはあまり関係なさそうですし、マインスイーパーは得意じゃないので、アスレチックコースに行ってみます」
「なら俺らはメリッサさん行ってみるか?」
「戦いが、私を待ってる、ふんすっ」
格ゲー少女と未知なるモノさんがメリッサさんを目指し、マイネさんは正義の味方たちと共にアイネさんの居る森解放を目指し森の中へと分け入っていく。
「なら、俺はマインスイーパーにでも行くか、得意じゃないが、他の攻略法がねぇか調べてみるかな」
未知なるモノたちの移動を見守っていただぬは頭を掻いて得意ではないルートへと向かっていく。
一瞬アスレチックコースに視線を向けたものの、俺が行ってもしゃーないな、と自己納得して別の道へと向かい歩き出した。
「りんりんどうするね?」
「ふっふっふ。ヒロキさんとは一緒にパーティー組んでたからね。私たちには彼の思考は丸わかりなのだよレイレイ君。つまり、ルートを迂回して遠回りが正解ね!」
「そうなのなの?」
「ええ、そうなのです」
レイレイとは別の方から聞こえた言葉にうなずくりんりん。
彼女は気付いてなかったようだが、レイレイは一早く相手に気付いて挨拶と自己紹介を始める。
「さすがのヒロキさんもこんな遠回りで攻めてくるとか思いもしないでしょ。ふふん。一番乗りして驚かせてあげよう」
「では行くなの」
「一緒でいいあるか? えーっと……」
「なのなの。よろしくなの」
「さっきからなのなの、なのなの、ってレイレイまた口調変えた……の? 誰ェ!?」
ようやく気付いたりんりん。目の前にいたのは死神かと思えるくらいに真っ黒なローブを着込んだ白緑髪の少女。手には大きな鎌を持ち、眠そうな眼でりんりんを見つめていた。
「確殺仲間なの」
「あー、貴女コトリさんの三度目のキルやった人ね」
「そういう貴女は二度目のキルの人なの。よろしくなの、なのなの」
急増の三人組パーティーもまた、外側の森奇襲組へと合流するのだった。




